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九官鳥

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2020年7月の記事一覧

九官鳥(11)

百二十日目(夕暮れの風景)

「それは、自分たちで決めることではないの?」[リンドウ]に質問した答えをあたしは吟味した。
つぶやく。
あたしの言葉にしっくりこなかったのか[リンドウ]は困った顔をする。
「病院ってところで、治療をするっていうのはさ。自分の寿命を延ばすものではないのかい?」
「すみません。お言葉ですが、[先生]例えば[先生]には大事な方が居ませんか?その方がもしも病気や怪我で大変なこ

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九官鳥(10)

百十日目(懐疑的な風景)

「本当にそんなことができるのかね?」
「まあ、それでこの世の中は動いていますから」
あたし達の間の懐疑的な雰囲気は一切ぬぐえない。
「[リンドウ]は、そんなことに巻き込まれたりはしたことがある?」
「いいえ一度もありません。ただ、私は孤児院と言う場所で育ちましたから。その、何て言うのでしょう?この世の中をまっすぐ見ていないというか、そういった子が多くて。何人かはそんなこ

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九官鳥(9)

百七日目(音楽家のいる風景)

「体が軽くなるようね。今にも羽ばたいて大空を飛んで行ってしまうような。素敵な声ね」
思ったことを素直に伝えても、彼らは疑ってかかる。
それは感情のようなもので言っているのか?
本当にそう思っているのか?
いい加減なことを言っているだけではないか?
多分、彼らは自分たちの言葉がいつもそういうことをしているのだろう。
自分たちがいい加減なことを言っていたり、適当に話を合

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九官鳥(8)

九十六日目(1インチの差が見せる風景)

「あたしの世界にも縄張りと言われるものはきちんとあります。そういう意味ではどんなに知能や技術が発達したとはいえ、そういう意識はあたしたちとそうは変わらないのね。」『リンドウ』に[国境]と言うものの存在の説明を受けて、あたしは彼女にそう答えたのさ。

『リンドウ』は前にも少しふれたように[孤児]と言うものなのだそうだ。
だから本当の親を知らない。
だから自分

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