九官鳥(9)

百七日目(音楽家のいる風景)

「体が軽くなるようね。今にも羽ばたいて大空を飛んで行ってしまうような。素敵な声ね」
思ったことを素直に伝えても、彼らは疑ってかかる。
それは感情のようなもので言っているのか?
本当にそう思っているのか?
いい加減なことを言っているだけではないか?
多分、彼らは自分たちの言葉がいつもそういうことをしているのだろう。
自分たちがいい加減なことを言っていたり、適当に話を合わせていたりするものだから、他のものが漏らした心の音を聞こえる耳にはなっていないのだろう。
きっと人間と言うものは9度転がってもそういう生き物なのだろう。
そんな風なものがあたしの心を塞がせて、すべての人間が嫌悪の対象になる間際で[リンドウ]に出会えた。
[リンドウ]のおかげで、人間もなかなか捨てたものでもないのかもしれない、と思えたくらいだ。
[リンドウ]の力は凄い。


[リンドウ]が、とても好きだという音楽家の音源を、この研究室に持ち込んでくれた。
それは本当に素敵な鳴き声だった。[リンドウ]は、得意げにこの音楽家の解説を始める。
「この音楽家はまだ活動を始めて数年なので、あまり有名ではないのだけれど、いつかきっと有名になると思うのです。世間も彼に注目を始めているなんて言っているくらいですし。事実[先生]も、素敵だって思いますよね」

最近[リンドウ]はあたしの事を最近そうやって呼ぶ。
あたしはそう呼ばれだした時に[リンドウ]にそれはどういう意味をもっているの?と問いかけたのだけれども、結局[リンドウ]はまだその答えを教えてはくれない。
あたしの国ではその言葉の音を[間が抜けている]と言う意味で使うのだけど。
あまりにもできすぎた話なのであたしは[リンドウ]に違う意味を教える。

あたしは[リンドウ]に、
「さっきの話だけれどね。あなたの好きな音楽家はあまり有名にならなくても良いのではない?」
顔を曇らせた[リンドウ]は
「どういう事でしょうか?」寂しそうに吐き出す。
「あなたが好きな音楽家は、有名になりたくて鳴いているような音色に聞こえないって言うのかな。もっと何て言うか、内から出てくるものを表現したらこういうものが出来上がっただけ。そんな風にあたしは感じたのだが」
「わかります!わかりますとも!!あのうちからあふれてくる感じ!あの感じが素敵なんですよね」そこまで言ってあたしの視線に気が付いたのか
「す、すいません。つい興奮して…」って付け足していたよ。
「まぁ、いいから」
「それで、何て言う音楽家の人なの?」って聞いてみる。
満面の笑みで
「[カジノフォーリー]って人たちなんです」って、教えてくれた。
そこからはまた例の集中モードで、あたしの声は届かなくなっていく。
[リンドウ]の力は凄い。

ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん