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無拍子

34
全部で33話の物語です。
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#いま私にできること

無拍子(33)

【最終回 緑山猫】

あの角に差し掛かると、決まって酒屋のごみ箱の中からマウンテンデューの空き缶を探してしまう。ゴミ箱の中の何種類かの空き缶をかきわけて、缶詰の缶は論外だしビールの缶には目もくれず。

何度かそこで見つけたマウンテンデューの空き缶も、

僕が自分のお小遣いを工面して自動販売機でマウンテンデューを買って、一息で飲み切ったあとの空き缶も、

さっぱりだった。

そうしているうちにマウン

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無拍子(32)

【32 星との会話、星との懇談、星の陰謀】

☆を作る試験のために[トウガンの岩]のかたわらに僕はいた。

星を作るにはバナナの蜜を蜘蛛に勧めて、気に入ってもらえなくてはならない。

どちらにしても蜘蛛がやってくるのを僕はひたすらに待たなくてはいけなかったんだ。

夜を彩る蜘蛛たちはなかなかに現れることはなく、夜に住まう蜘蛛たちはぜんぜんやってくることはなかった。

7日か4日たった頃に、あのウル

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無拍子(31)

【31 工場に行こう】

次の日の朝(あの蜘蛛がやって来たわけではない。ここではいつも朝にやってくるあの看板の[朝]が来た時が朝なんだ)僕らはカジノフォーリーとイースカーに別れを告げていた。

カジノフォーリーは

「ほなな、またいつかな」って

イースカーはアンクルを失ってしゃべる事が出来なくなってしまった黒い影のセバ教授の事を、くれぐれも頼むよと何度も僕らに頼んでいた。

僕はイースカーに

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無拍子(30)

【30 こんなに素晴らしい日、三度登場のあの人を添えて】

アンクルを失ってしゃべる事の出来なくなってしまった影を纏っているセバ教授を乗せた鯉のぼりは、更なる重みと僕の操舵についての不満があるのか僕の言うことを益々聞かなくなっていた。

それは、ギラギラしてへらへらした太陽と[MOON]と書かれてしまっている月が知り合いの子についていがみ合っているせいなのかもしれない。

3時間に一回でよかった鯉

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無拍子(29)

【29 よういではないことが世の中には溢れている】

ドルトムント伯爵の元にたどり着くのは、簡単なことではなかった。

何せ、僕は一人きりになってしまったし、鯉のぼりはまだセバ教授の重さが背中にない事に不服を訴えているし、ピギーのヒントがいちいち無くなってしまったし。

今、星図とのコミニケーションだけが唯一の頼りだった。だけどうまく話し合いができてくるころ、決まって鯉のぼりは暴れだす。

そのた

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無拍子(28)

【28 イルカの成人式】

そんな悲しい出来事があっても僕らは前を向いて旅を続けた。

僕もその頃には星図との会話がスラスラできるようになっていたし、横でヒントをピギーがいちいち持ってきてくれていたから、旅はセバ教授を失っても間違える事なく前に進めたんだ。

ただ、鯉のぼりはセバ教授になついていたからね。

とても深く悲しんでいた。

まっすぐ飛べなくなるほどね。

そうしてとうとう15番目の[模

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無拍子(27)

【27 アンクルの独講演】

僕らはそれから、大きな丸い蛸と黒い影を背負っているセバ教授が作成した星図をもとにしてイルカの雛のピギーの父親のマムシを探しに旅を続けた。

あの事件で風船はダメになってしまったから、セバ教授が懇意にしていた鯉のぼりをうまく利用してね(もちろんあのラクダの徳利を用いて)

ちょっと不思議なお願いの仕方をしていたけど。

僕らは15の様々な都市や街を順に回っていろいろなこ

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無拍子(26)

【26 誰が居るのかな?そこには】

僕は泣きじゃくっている。

大きな丸い蛸と影で出来ているマントを背をっているセバ教授はマンホールの上にイースカーだった子をそっと置く。

僕は泣きじゃくっている。

イルカの雛のピギーはマンホールの端をトントンココンとスプーンで叩く。

僕は泣きじゃくっている。

次の瞬間、マンホールは裏表になって表が表にやって来た時にはすっかりイースカーだった子の姿は跡形も

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無拍子(25)

【25 風船にも感情にも限界は、あるということ】

アンクル改めセバ教授は(この一連の作業が終わるといつの間にかアンクルは、セバ教授の衣装をすっかり着こんでいた。この姿になっているときはセバと呼びなさいと、強く強く僕に彼は強調した)

「ウ、そろそろ時間だね」

一言声をかけると、大きな丸い蛸と先に立って玄関に向かった。

玄関まで差し掛かると、その内側にダウリンは顔をのぞかせていた。

ダウリン

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無拍子(24)

第三章

それは自分で探すもなのさ、口説くなるようだけど

【24 凪=風がやんで波が無くなり海面が静まること】

部屋の真ん中にパスタの麺がこねられるような大きな机があり、そこに大きくてカラフルな布が敷いてある。

その布の上には、さっきボンゴレ大陸と話し込んでいた、大きな丸い蛸がイライラしている雰囲気で待っていた。

その身体の色合いが、薄白く変わっていたからね。

セバ教授改めアンクル(この

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無拍子(23)

無拍子(23)

【23 さようなら さようなら】

風船の中で、はだしの花ペンギンのイースカーは、自分のポシェットをゴソゴソ探っている。

イースカーは、いつか雷で出来た大きな木にもらっていた木の実が入っているのにハッと気付く。

イースカーは雷で出来た大きな木の忠告をすっかり忘れていて、おなかがすいている事をいいことに、その木の実を自分の黄色いくちばしの中にポーンと放り込んだ。

イースカーはくちばしの中でバリ

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無拍子(22)

【22 都合のいい僕の物語】

僕にもどうやら危機が来たみたいだ。僕はこの世界の苦境の乗り切り方をまだ聞いていない。窮地はいつでも突然やってくる。羊の怖さは教わってたけど。

でもこれだって偶然ではなくて、必然なんだろうね

そう思ったときに

空にたかっていた蜘蛛たちが

「夜には飽きたね」「夜はもうごめんだ」「夜には飽き飽きだよ」

口々に言いだすとどの蜘蛛も体をブルブルっと震わせる。

蜘蛛

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無拍子(21)

【21 大きな雷で出来た木の羊の歌】

2日間の中で雷で出来た大きな木のしてくれた話は、興味深いものが多かった。

物心ついてから色々なもの見てきているという彼(雷で出来た大きな木の名前も、実は僕の脳みそに筆で書かれていたのだけど、とてもじゃないけど覚えきれるものではなかった。それは人々が好きなように彼の名前を呼ぶために、人々が呼ぶように彼の名前が長くなってしまうんだそうだ。その長さたるや昆虫図鑑

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無拍子(20)

【20 羊の群れと夜蜘蛛がとうとうやってきた】

イースカーの出来事について、そしてこの世界の異常さについて、僕はセバ教授に対して抗議していた。

黒い影のセバ教授の責任はひとつだってないのだけど、僕はそういわざるをしかなかったんだ。

セバ教授は僕の抗議に何一つ文句も言わず、おぼろ豆腐の顔をクルリクルリと回しながら聞いている。

大人しく聞いていたハチたちも目に一杯涙をためてウンウンと賛同してい

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