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鎮丸~妖狐乱舞~ ⑧

歌舞伎町のライブハウスの近くの路地。痩せぎすの顔の白い男が、地面に寝ている女を見下ろしている。

女を静かに見ていたが、何事か呪文のようなものを唱えると獣のように低く唸った。

同時に右目が青く、左目が赤く、オッドアイのように妖しく光る。

男は左目をほじくり出すような仕草をすると、手には赤く光る気の球が乗せられていた。

男は慎重に辺りを見回すと、女の上半身を抱え上げ、口から気の球を入れる。

球はすっと喉の奥に消えた。

片手で女を持つように抱き上げる。人間とは思えない膂力だ。

そのまま、今来たライブハウスに戻る。

「もう、まだ酔いが醒めないのかよ!」そう言いながら、今度は両手に抱きかかえ、ライブハウスに入って行く。ギターの音がなり響く中、エントランスのソファにそのまま寝かせる。

「じゃあな!今夜は会えて最高に楽しかったぜ!ひゃあーははは!またな!」

男はそのまま闇に消えた。

「ふふふ、さてと準備完了!これで全ては思いのまま。家に帰ってショーの続きだ…。」

新宿の外れにあるマンションの一室。

男が今夜もパソコンに向かっている。部屋をよく見渡すとパソコンは3台あり、繋がっているデバイスも多々ある。

男は幾つかの盛り場を拠点に非合法なクスリを売りつけている、所謂売人だ。

だが別の側面もあった。ネットによる恐喝である。男の手口はこうだ。

匿名掲示板で巧みに繋がった人間を挑発する。「愚民どもめ!俺は皇帝だ。俺に逆らう奴はここから追い出してやる!」

初めは誰も相手にしない。
「馬鹿じゃないの?」「誰が皇帝だって?」
と言った反応である。

しかし、度々に及ぶと怒り出す人間もいる。

男は狡猾に誰のこととも言わずに情報だけを垂れ流す。

「へっ!おまえ最近、男に振られたんだって?ざまぁみろ!不細工だからだよ。お前なんかに一生彼氏はできねぇ!ひゃぁーはははww」

誰もそんな話題は書いていない。
しかし、見てきたかのようにそこに集まる人間のプライバシーを暴いて行くのだ。

これには皆、辟易した。だが、どういった訳か閲覧者は増えている。

それはこの男が、「おまえ、男が欲しくて仕方ないんだろ?安心しな!近々不細工野郎が言い寄ってくるぜ!」と予言めいたことも言うからだ。

これが偶然にしてはよく当たる。
ついには信奉者まで現れた。

誹謗中傷だと通報する者もあったが、男は特定の人間には発言していない。

あたかもツィートでもするように独り言を書き込んでいるだけだ。
しかも傲岸不遜な態度を取りながら、死ね、殺すなどNGワードの書き込みはしない。
逆にそれを誘導している。

3ヶ月前、緑川蓉子がこの掲示板に書き込んだ。「最近、彼氏とうまく行かなくて…」

パソコン前で網を張っていた男は、モニターを見てほくそ笑んだ。
「くくく…ついに見つけたぜ!」
しかし、男は暫く慎重にROMしている。

違う話題のレスがいくつか重なった後、
「あー、別れるなー。」
ポツリとつぶやく。
モニター越しに緑川蓉子が反応する。
「666番さん、それって私のこと?」
男は返事をしない。
ややあって、
「そんなヤツ、自分から振ったほうがいいぜ!」

蓉子が打ち込む。
「もしかして貴方ってなんか見えてる人?占い師さん?」
男はまた返事をしない。

そうしたやり取りが数日続いた。

(to be continued)

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