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6歳息子のことばに、胸がずきゅんとした話。

「菜の花が、ざっぷんと咲いてるよ」

保育園へと送る途中の道ばたで。
元気よく咲く菜の花を見ながら、6歳の息子モリはそう言いました。私も、たまたまそこにいた義母も、ふたりして思わず笑ってしまいました。

「『ざっぷん』ってはじめて聞いたよ。それいいねぇ」

モリによれば、波がざっぷんと押し寄せるように、たくさん咲いているようすを言いたかったのだそう。たしかに道からせり出して、花や茎を上に横にと勢いよく伸ばしながら咲く菜の花は、波のようにも見えました。

私だったら同じことを言いたいとき、「菜の花がいっぱい咲いてるよ」とか「たっぷり咲いてるよ」とか、ごくありふれた表現をしていただろうな。
私には出てこない言葉だなぁ、と感心しました。

私は私で、寒かった季節から、ぱきっと春の訪れを知らせてくれるような、この鮮やかな黄色が大好きで。モリがもっと小さいころから、菜の花と息子の写真をよく撮っていたのでした。

4年前。この日の菜の花もざっぷんと咲いてる。

この写真のときは、「菜の花」ということばも知らなかったのに。
今では大人も思いつかないような自分なりの表現で、状況を説明しようとしている。私はそこにハッとして、彼の成長を感じずにはいられませんでした。

そんなやりとりから数日後。
私とモリは習いごとからの帰り道に、また道ばたで「ざっぷん」と咲いている菜の花をみつけました。ふたりで近づいて花びらにさわったり、鼻を近づけて「いい匂いだねぇ」なんて言って嗅いでいたら、モリがその花を少し摘んでしまいました。

「お花が枯れないように、お水に挿して育てようね」

夕方6時半。もうすっかり暗くなっている夜道で、モリは菜の花を大切そうにもって歩きます。モリの手元にある菜の花をみながら、私は言いました。

「ママ、黄色いお花が大好きなんだ。気持ちが明るくなるから」

「ぼくもすき。くらいところで、ぴかぴかひかってるみたい

たしかにそうだねぇ。暗がりの中でも菜の花の鮮やかな黄色が目立って、まるでライトを手にもっているようです。
こんな風にモリとふたりで歩くひとときが、なんだか愛しくて。菜の花を握りしめるモリがあまりにかわいいので写真に撮っておこうと、私は明るいところで立ち止まりました。

するとモリは両手に菜の花をもって、私に言ったのです。

「けっこんしてください」


えっ、えっ!!??突然のことに、私はびっくり。
そして胸が、ずきゅーーーーーーん。

お花をちょうど持っていたから、プロポーズの真似ごとをしただけでしょうが、ちょうどこの写真を撮った瞬間に言ったものだから、私はドキッとしました。

慌ててその場を見回すと、ちょうど横を通りかかったおばあさんと目が合いました。おばあさんは息子の様子を見ていたのでしょう。次の瞬間、

「かぁわいい〜〜〜」

と、私と同時に言ってくれたのです(笑)それはもう、心の声が外に漏れてしまったかのような瞬間でした。

まさか知らないおばあさんと、一瞬のできごとで、ここまで気持ちがシンクロしてしまうとは。そして、同時に同じ言葉を発してしまうとは!
人生で初めてのことで、私もおばあさんも笑ってしまいました。

モリは私たちなんで笑っているのか、わからないようで、きょとんとした顔をしています。でも自分のことで私が笑っているのが嬉しいのか、すこし得意げな顔をしていました。

私はモリの手を久しぶりに握って歩こうとすると、その手が前よりも大きく、しっかりしていることに気がつきました。
今までの守ってあげなければいけないような小さくて柔らかい手が、少しだけ頼もしい手の感触になっているのです。お花をわたして「けっこんしてください」というのも、どこでおぼえたんだろう。

「このおはなは、たべられるの?」
「これはもうお花が咲いて硬くなっちゃったから食べられないよ」
「じゃあいつのおはななら、たべられるの?」
「もっとちっちゃくて柔らかい、つぼみのときに食べるんだよ」
「じゃあ、いえでうえてみたい」

私たちはそれから、そんな話をしながら家に帰りました。菜の花をきっかけに、興味がひろがる様子が、私にはとても嬉しく思えました。

ちょうど家の前でばったり会った夫に、
「さっきモリに『けっこんしてください』って言われちゃった」と自慢すると、夫はすかさず「ママはパパと結婚してるからだめだからね」とモリに釘をさします。こんなふうにママを取り合ってくれるのも今だけかと思うと、どこかに書き残したくなってしまいます。

モリは花瓶のお水を自分でとりかえて、すでにあったお花の中に、菜の花を仲間入りさせてくれました。その綺麗なこと!

最近落ちこむことがあったのですが、こうしてお花を眺めていると、ちいさな嬉しい気持ちがじんわりとわいてきます。

「きいろくて、ぴかぴかひかる」菜の花は、私の気持ちを明るいほうへ先導してくれるライトなのかも。

モリのことばを借りて、私はそんな風に思ったのです。

この春、モリは小学生になります。むくむくと湧きあがる期待と、ひゅっとした不安がまぜこぜになった気持ちは、暖かかったり寒かったりする、この季節のようです。

この先ずっとずっと、菜の花が息子たちの成長を照らすライトでもありますように。

何があっても、春にはちゃんと菜の花が咲いて、私たちを明るく照らしてくれる。そう思うと、少しだけ心強い気持ちになりました。

そしてこれからも、ざっぷんと咲く菜の花の道を、息子と歩いて行こう。
そう誓った、2023年の春のできごとでした。

小森谷 友美
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