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ふたご座流星群と交差する

11時には支度を済ませて、最寄駅に照準を合わせる。

お気に入りのシャツに大きいコート、ワイドなデニムパンツに革靴。アンバランスさと不揃いさが自分の中で気に入っている。

いつもより歩くスピードを落とし、革靴が地面に触れる音を楽しむ。気持ちの良い高い音を鳴らしている。

電車を乗り継ぎ、到着したのは、プラネタリウム。有言実行、プラネタリウムにまでやってきた。15分後の上映が空いていて、スムーズにドーム状の空間に足を運ぶ。

360°見渡す機械が投影する、星とビル群。電光は全て落とされ、宇宙との交信を始める。

12/13の空を再現。
電気がなかったら、これだけ夜空は綺麗なんですよ。ナビゲーターの言葉に導かれるがままにリクライニングする椅子で真上を見る。

辺り一面に光の明度の違う点が広がる。
あ!あれはオリオン座!冬の大三角も!

義務教育の延長線上だけの知識で、純粋に感動を覚える。星と星を結んで星座をつくったといわれても、無理やりにしか見えないけど、そうだとしても白線で結んだ姿が浮かび上がると10秒だけその形が目に残る。

夜空散策という名目で、星座を見て、結んで、明るい星の惑星をさがして、、、

「自分ってちっぽけだな」

これだけ言えたら満足だった。その為にプラネタリウムにやってきたと言っても過言ではない。
真っ昼間なのに、空を眺めると星が見えてきそうなぐらい目に張りついている。

当たり障りのない散歩、雰囲気あるレストランでの昼食、カフェでの小休憩を突破して、家に舞い戻る。

夕暮れ時も忘れ、一息ついたら夜にいた。
疲労も重なって、順当に眠たくなってきたあたりで、ナビゲーターのアナウンスを思い出す。

「ちょうど今日ですね、ふたご座流星群が見える日なんです。しかも、新月。最高の環境なので、帰ったら夜空を眺めてみてくださいね!」

言葉に隠れる意図を考えてみた。

裏も隠れるもなかった。流星群が見られるチャンスが当日あります。というサプライズ。

チャンスを掴もうともせずに眠るなんて、そんなことがあってたまるか。

身震いさせながら、その場で防寒着を重ねる。アウトドアのウェアで堅いガードを披露しながら、流れるように外に出てk

さっむ!!!!!!
防寒着重ねてるんですけど〜???!!!!
なんでなん???冬の夜だからってそこまでグッと気温下げなくてもいいじゃないですか〜!!!!

文句を言いたくなる寒さの中を抜け、近所の公園の高台で天体観測を試みる。

ベンチに横たわる。プラネタリウムとは色も明るさも星の数も違う空が広がっている。オリオン座はあった。

無心で空を眺めて、流星群を待つ。それだけ。

柔らかな音で弾き奏でるような曲を小さい音で耳元で流して、雰囲気に酔いしれる。

気持ちのいい天体観測。流れ星も無事見られた。

15分ほど経過した頃、人がこの高台にやってきた。同じように防寒着で空を眺めている。

あくまで目的は空にあって、互いに沈黙が続く。酔いしれる時間に他者の介入は許せなかったし、一人でいたかった。

なんとなく互いの存在を意識しつつも会話はしなかった。

さらに30分。十二分に夜空を満喫してベンチを立とうとしたタイミングで話しかけられた。

「流れ星たくさん見られましたか?」
「見られました、綺麗でしたね」

初対面ではあれど、同じ感動をその場で共有する。

「こんな感動することあるんですね、星なんか見るようなタイプじゃなかったんですけど...」

夜空の感想から会話が弾みに弾み、空を眺めるのも二の次になるほど、おしゃべりをしていた。あたりは真っ暗で相手の顔はよく見えていない。

同じ空を眺めて、流れる星を観測し、感想を伝えあった。

初対面だからこそ、嘘もつく必要がなくて、純粋な感情が口に出た。

広すぎる世界で、偶然同じ場所にやってきた二人が交差した。一点で交わったけれど、歩いてきた道のりも少しだけ見えた。

寒さが一段とキツくなって、ここで解散することにして、公園の高台から二人が降りていく。

二手に分かれ、別れを告げた。家に帰ってきて時計を見たら、4:24。

ふたご座流星群が忘れられない思い出として脳に刻まれた。





一筋の光が、夜の空を裂いた。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。