キツネなシッポと遊びましょ、の話③
ボクは本当に反省が苦手らしい。
↓新シリーズ、キツネなシッポ編です。哀れな妄想癖のオトコが繰り広げるアホらしさ満載の空想活劇をお楽しみください。よければアルマジロ編もどうぞ。
夜になり、家に着いた。帰り道は二人とも無言だった。ボクはどうやって謝ろうかとずっと考えていた。奥さんはコッチを見ることもなく、無表情のまま歩いていた。コレは、結構ヤバいヤツだ。ボクは今度こそ寿命が尽きるな、そう思った。シッポ様までシュンとなり、じっとうなだれていた。
マンションの部屋に着いた。玄関のドアを開けようとしたら、鍵が開いていた。不思議に思い、中に入るとヒトの気配がした。リビングの隅に人影があって、暗がりの中に黒いマスクが浮かんでいた。コチラに気づいたようだ。ボクの姿を見て叫んだ。
「マタオマエ!ナンデイル!」
自分の部屋に帰ってくるのに理由などなかろう。そういうオマエが不審者だ。でもそのカタコトな言葉がボクの脳裏に突き刺さった。
「あの時の!黒マスクの君!」
それは運命の再開だった。コンビニ強盗に失敗した彼は民家への空き巣へと狙いを変えたようだ。ボクは黒マスクの彼との再会に運命を感じた。シッポ様も反応しパタパタし始めた。でもマスク越しの彼の目には明らかに後悔の色が浮かんでいた…
「ナニシテル!オマエ、ナニシテル!」
マスク男は再開を喜ぶ間もなく、カタコトの日本語を大声で叫びながらナイフを持ってこちらに近づいてきた。
「どいて。」
奥さんがボクを制した。危ないよ、キミ。ケガでもしたらどうするんだ。優しく止めようとしたが、既にイライラが極限に達した奥さんのその姿は、かつてどこかで見たゴジラ第4形態そのものだった。
ダメだよ、早く逃げないと。ダメだよ、ナイフ持ってるし。ボクがそういうよりも早く、黒マスクのオトコは宙を舞っていた。お腹に3発、顔に2発、とどめに回し蹴りされた挙句に肘関節を極められていた。激痛に顔を歪めるのがマスク越しに伝わってきた。
ダメだよ。言ったじゃん。奥さんは元警官で黒帯のヒトなんだ。メチャ強いんだから。僕なんかいつもヒーヒー言わされてるんだよ。そう言ってやりたかったが、彼は既に首まで極められて落とされていた…
あー、やられたね。当たり前だよ。映画見なかったのか?あの自衛隊のフルスペックの攻撃が全然効かない相手なんだぜ。ナイフなんかでゴジラに勝てる訳ないじゃん…でも大丈夫。慣れたら意外と気持ちよくなるんだ…どうやらボクは生粋のMらしい。
もしかして、キミは僕の身代わりに奥さんの餌食《えじき》になってくれたのかもしれない。もしそうなら、ありがとう。コレも愛だよね。
「早く、警察呼んで。」
奥さんの指示で、ボクは急いで携帯を取り出した。またあの美人婦警さんに会えるかも、ボクは緊迫した場面にも関わらず一人ワクワクしていた。
ボクの妄想癖は今度もあらぬ方向へと走り出していた。
(イラスト ふうちゃんさん)
↓今回のBGMは映画エゴイストのエンディング曲、世武裕子さんの【あなたのいる世界】です。美しいピアノの旋律が印象的です。
ボクの罪を優しく洗い流してくれますように。
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