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多様性のない森で動物達はお互いを知る

穏やかな陽気が動物たちを森の広場に誘った。
厳しかった冬の寒さが和らぎ、若い芽吹は樹々のあちこちで春の訪れを祝っていた。

一番乗りは小鳥たち。いつもより賑やかで、春の訪れを祝いひとときも黙るつもりはないようだ。新緑の枝に並んだ色鮮やかに縁取られた羽毛は、午後の日差しを一層と輝かせた。

続いて野ネズミの親子がやってきた。でもしきりに辺りを見回して、心配そうだ。
「大丈夫、誰もいないよ。」
一羽の小鳥がそういうと、父ネズミは立ち上がり軽く頭を下げた。
「ありがとう。僕等にも小鳥さんのような羽があったら良いのに。」
「そうしたら怖いキツネが現れても平気ね。さって羽ばたいて飛んで逃げれば良いんだから。」
母ネズミが続けて言った。

もう一匹の小鳥がネズミたちを見て、神妙な顔で言う。
「でも僕たち、空は飛べても歯がないからね。ネズミさんのようにかじったりできないんだ。飲み込むだけさ。頬にため込むことだってできないよ。」

子ネズミが驚いて言った。
「小鳥さん達、それなら大丈夫。僕が教えてあげるよ。こうやってね、」
子ネズミが口を空けて横の袋を広げて見せようとすると、小鳥たちはその仕草の可愛らしさに枝の上で羽を揺らした。大盛り上がりだ。
子ネズミは何が起こったのかよく分からず、ぽかんとしている。

丁度そこへ夫婦シカがやってきた。
父ネズミと母ネズミがご挨拶がてらに話しかけた。
「良い天気ですね。僕等もシカさんのように大きかったら良いのに。」
「そうしたらキツネなんかよりも素早く走れるし、立派な角だって。」

夫婦シカは顔を見合わせると、笑顔で挨拶を返した。
「ありがとう。でも僕たちは葉っぱしか食べないからね。カラダが大きいとたくさん食べなきゃいけないから、大変なんだよ。ネズミさんみたいに何でも食べられたらもっと楽なのにね。」
雄シカは少し膨らんだ雌シカのお腹を鼻で優しくつついた。

キツネがいなかったせいか、広場の午後は穏やかに過ぎていった。

子ネズミはつぶやいた。
「僕等ができないことでも、小鳥さんやシカさんはできる。」
「僕等ができることでも、小鳥さんやシカさんはできないんだ。」
「教えてもらうまで知らなかった。そんなの考えたことないよ。」
母ネズミが優しく微笑んだ。
「そうね、みんな違うね。言われないと、気づかないね。」
「みんな生きてる。それで良いんだよ。」

小ネズミがふと言った。
「じゃあ、キツネのあいつは?」
そう言われて、親ネズミは困ったように顔を見合わせた。
自然の摂理なんて、動物たちは知る由もない。

森には「多様性」なんて言葉もない。
この森ではごく当たり前のことだった。

傾いた日差しが静かに樹々の緑葉を揺らしていた。
日暮まではそう遠くないようだ。


(イラスト ふうちゃんさん)

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