キツネなシッポと遊びましょ、の話①
ボクは本当に反省が苦手らしい。
↓新シリーズ、キツネなシッポ編①です。よければアルマジロ編もどうぞ。
前回かなりしっかり目に叱られた。反省した。でもボクの鬼メンタル気質はすぐに復活を遂げてしまう。簡単に言えば、ボクは懲りないのだ。
という訳で、ボクはシッポを抱えて生きる身となった。さいわい行きの電車の中でも怪しまれることはなかった。途中キレイ目のお姉さんが近くにきて、思わずシッポがパタパタしてしまい驚かせたようだ。彼女の目が丸くなっていた。でも何かのイタズラだと思ったのだろうか、軽く微笑んでくれた。
↓イメージはこんな感じです。
社内でも意外と平気だった。もともと変わり者で通っていたせいか、シッポくらいじゃ誰も気にもしないようだ。でもエレベータでカワイイ女子がそばに来ると、思わずシッポがパタパタと動いてしまう。慌ててシッポの先を抑えたが、根本が揺れていてなんとも妙な光景を醸し出してしまった。でも女子たちは嬉しそうだ。ボクに笑顔をよこして降りていった。
コイツはどうやら女子に反応するらしい。しかも女子ウケがいいようだ。
「コレは、使える。」
オマエ、またかよ。そういう外野の声が聞こえた気がする。でもいいんだ。何度も言うが、ボクは懲りないのだ。まだ自由自在に動かせる訳ではないが、使用時の注意点と効能効果は理解できた。そしてボクは再び妄想を計画に変え、実行に移そうとしている。
1年後輩の小池クン、彼はルックスと人当たりの良さで男子女子ともにウケが良い。当然モテて、しかも口が堅い。小池クンにお願いして飲み会をセッティングしてもらった。いよいよシッポ様のデビュー戦だ。その名もふんふん*作戦第二弾。この数日間、ボクは神経を集中させてシッポ様の感覚を研ぎ澄ませた。おかげで毛先まで感覚がかなり敏感になった。シッポ様でのふんふんは見た目もおしゃれで、何より全然いやらしく見えないのが最高だ。
飲み会を前に、ボクは店の近くにあったコンビニに立ち寄った。ATMで軍資金を入手するんだ。店内には数名の客がいたがATMは空いていた。
「ウゴクナ、オマエラ!」
突然入口の辺りで誰かがカタコトの日本語で叫んだ。見ると黒いマスクを被った2人組が刃物を持って店に入ってきた。
「オマエラ、コッチコイ!」
「ムコウムケ、テヲアゲロ!」
ボクらは壁に向いて手を上げた。強盗?初めてみた。何かドキドキする。
え、マズイ。シッポ様が反応してる….
シッポ様はいまだかつてない速さでパタパタしていた。どうやらシッポ様はボクの興奮のレベルに応じてパタパタの動きも変わるらしい。
「ナンダオマエ!フザケンナ!」
マスク姿の男が怒ったようにボクに叫んだ。シッポ様のパタパタが気に入らないようだ。絶叫するマスク姿の強盗犯に、場違いにシッポをパタパタさせてる変なヤツ。ボクらの姿を横目で見る店員とお客さんたちは、この異様な光景を前に呆然としていた。コレは笑えばいいのか?こんなシュールな光景を前に、冷静に判断できるヒトはそうはいないだろう。既に店内は緊張と笑いが拮抗する異様な雰囲気に包まれていた…
「オマエ、ナンダコレ?」
「シッポです。」
おかしなアクセントの叫び声に不思議な日本語の返し。それはまるで新手のマンザイのネタのようでもあった。
「マジ、フザケンナ!」
マスク姿の男は怒った様子でボクのシッポ様を右手でつかもうとした。
「はうっっ!!!」
ボクの口から、なんとも言えない声がもれてしまった。しまった、ボクはシッポ様の感覚を鍛えすぎたせいか、ずいぶんと敏感になっているようだ。ボクは初めての快感に身もだえした。なおもシッポ様はつかまれた先がパタパタしている。その毛先がマスク男の鼻をとらえた。
「はくしょん」
マスク男がずいぶんとカワイイく音のしゃみをした。その声のカワイらしさに、さすがに我慢できなくなったのか店員さんがついに背中をプルプルさせはじめた。どうやらこのシュールな展開がツボッたようだ。
遠くにサイレンの音が聞こえて、どんどん大きくなってきた。マスク男たちは舌打ちすると、何も盗らずに店から逃げるように出ていった…
「行かないで…もう1回…」
走り去る後ろ姿に、ボクはつぶやいた。ボクはあの初めての快感が忘れられなかった。もしかしたらあのマスク男に恋をしたのかもしれない。
入口の防犯カメラがボクを見つめていた。マズイ。一部始終を撮られていた…
願わくば、このシュールな寸劇がマジメな会議の席で見られませんように。見たヒトが隠れてプルプルせずに済みますように。ボクはそう願わずにはいられなかった。
(イラスト ふうちゃんさん)
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