文学フリマを終えて、自信を伸ばして
朝早く起きてダンボールを小脇にビッグサイトに向かった。会場に送らなかったから自分で運ぶ。配達のお兄さんみたいになっている。腕が重い。これが帰る頃には無くなっていることに期待して電車に揺られていた。
会場に着いたら、ひとりで自分のブースに本を並べる。周りを見ると、作品紹介のポスターを出しているブースがほとんどで、自分はダイソーで買った画用紙とマッキーで紹介文を書いてることに恥ずかしくなる。こんな小学生の工作レベルのブースでは売れないかもしれない。
案の定、僕のブースは素通りされることが多かった。装飾って大事だなと思ったので、次回からは装飾にも力を入れたい。それでも、試し読みコーナーに本を置いていたら、それを読んだ人から「面白そうなので買います!」と僕のブースに買いに来てくれた人がいた。手に取って貰えたら買って貰えるかもと思っていたので、それが叶って凄く嬉しかった。webカタログやSNSから興味を持って買いに来てくれる人もいて宣伝しといて良かった。
「これはどういう本なんですか?」
お客さんにそんな質問をされることも多かった。僕はぎこちなく説明したが「じゃあおひとつ下さい」と買ってくれた人がいて嬉しかった。会話の中から興味を持って貰えるのも文学フリマの良さだなと思った。
こんなこともあった。ひとりの男の人がふらっと来て、すぐに「買います」と言ってくれた。
「試し読みも出来ますけど」
僕がそう言ったら、「直感で面白そうだなと思ったんで買います」と言ってくれた。僕はビックリして、「え!?いいんですか!?」と思わず言ってしまった。
僕の自信のないところがすぐに顔を出す。興味を持ってくれた人に毎回そんな訳ないと思って「いいんですか?」を連発してしまった。お前が売りたくて売ってんだろ。これは次回から言わないようにしたい反省点である。でも、まさか直感で買って下さる人がいるなんてありがたい。あなたの直感は間違ってなかったことを祈る。
フォロワーさんも買いに来てくれた。沢山ブースがあって、人も沢山いる中で自分のフォロワーさんが来てくれることがどんなに心強かったか。迷いなく自分のブースに駆け寄ってくれる嬉しさ、「ちくわさん!」と呼んで貰える嬉しさ。
僕も初めて「ちくわ」という馬鹿みたいなひらがな三文字を名乗った。直接フォロワーさんに会う機会も初めてだったので、会えたことが凄く嬉しかった。
はるさめともさんは一番最初に僕のブースに来てくれた。「襟足可愛いです」と言ってくれて、こんなタイトルの本にしたせいか気を遣わせてしまった。買ってくれた人にはお菓子を渡そうと思っていたのに、渡し忘れてしまって慌ててはるさめともさんのブースに伺った。日記本も購入した。僕は日記を書こうと思っても、3日坊主になるから書ける人を尊敬する。楽しみながら読みたい。
みゃーこさんは笑顔が素敵な方だった。僕がみゃーこさんのブースに遊びに行った時、最後までニコニコ手を振ってくれてそれが嬉しかった。みゃーこさんのZINEは本屋で売られているような雑誌みたいで今から読むのが楽しみだ。noteで知り合った人たちと共同で作ったみたいで、素敵な出会いだなと思った。
Umoeさんは自作の漫画をプレゼントしてくれた。家に帰って読んだら、凄く自分の好きなタイプの漫画だった。おじいちゃんとの思い出を綴った漫画、おじいちゃんと暮らしたことはないがなぜか懐かしい気持ちになった。Umoeさんは「頑張って下さい!」と最後にガッツポーズをくれて、僕も「頑張ります!」とガッツポーズをした。なんかそのやり取りがおかしかったし、凄く勇気を貰った。
うみとはるかさんが来てくれた。僕の本を買いにわざわざ文学フリマに来てくれた。「サインも欲しいです」なんて言われて、僕はちょっと照れつつもサインを書いた。ただマジックで小さく名前を書いただけ。あれはサインと呼べる代物なのか後から不安になった。日付や宛名も書いてあげれば良かったなと後悔。それでも少し自分が作家になれたような気持ちになれた。あれが世界初のちくわのサイン本。
せっかくフォロワーさんが来てくれたのに、僕は全然上手く話せなかった気がする。「ありがとうございます」と恐縮することしか出来なかった。本当はもっと感謝を伝えたかったけど、口下手なもので思うように言葉が出てこなかった。僕が頓知気さきなちゃんなら神ファンサをすることが出来たのに。さきなちゃんみたいに可愛くもないし、ただの人見知りの成人男性で申し訳なくなる。それでも、フォロワーさんから嬉しい言葉を沢山頂けて、その言葉を絶対に忘れたくないと思った。
僕のフォロワーさんは優しい人ばかりだ。
よくフォロワーさんから「ちくわさんって優しい人ですね」と言われることがある。その言葉を頂くと素直に嬉しいが、本当は「違うよ、そうじゃない」といつも思っている。
優しさに溢れているのはいつも読んでくれる皆さんなのだ。皆さんが優しい気持ちで読んでくれるからそう感じるのだと思う。
文学フリマに来れないフォロワーさんから「行けないけど応援してます!」というコメントを沢山頂いた。その言葉が凄く励みになった。ブースを素通りされても、手に取って貰えた本をまた置かれても、僕にはいつも読んでくれる皆さんが背中に付いていると思ったら、頑張れた。
僕には素敵なフォロワーさんがいる、
それが分かっただけで今日来た意味が充分にあった。
会場で仲良くなった人たちもいた。お隣りだった惣田さんと暇真さん。お互い初めての出店、ひとりでの参加だったので仲良くなった。惣田さんは僕がブースを離れる時は代わりにブースを見てくれたし、暇真さんは僕の記念写真を撮ってくれた。
暇真さんが素敵なハガキを立ち上がって通る人にお配りしていて、僕は心の中で「頑張れ」と応援しながら、「お前もこれくらい本気でやれよ」と触発されて、自分も立ち上がってフリーペーパーを配った。来る人に「こんにちは」とぎこちない笑顔で声をかけた。気付いたら50枚あったフリーペーパーは無くなっていた。このフリーペーパーが効果があったかは分からないがnoteやXのフォロワーがちょっと増えたので効果はあったかもしれない。フリーペーパーから来たよ!という人がいたら教えて下さい。
終わりの頃には、惣田さんと暇真さんとは一日戦い抜いたような戦友のような気持ちになっていた。「お疲れ様でした」と称え合う。僕はお隣りがこの二人で良かったと本当に思う。またどこかでお会いしたい。お二人のエッセイ集を買わせてもらったので、今から読むのが凄く楽しみだ。
そして、書かないといけないことがある。僕は何を血迷ったのか、クリープハイプのボーカル尾崎世界観さんに自分の本を渡したのだ。
尾崎さんはラランドのニシダさんと「ダブルスタンダード」というラジオ番組をやっている。今回は番組でZINEを発売するとのことで文学フリマに来ていた。チラチラとブースを伺って、尾崎さんが夕方頃に来ていることは知っていた。
自分のブースもあるから、もし尾崎さんが最後までいたら本を渡そうと思っていた。終わり頃にブースに伺うと、尾崎さんとニシダさんはラジオの収録中だった。スタッフの方に尾崎さんに本を渡したいと話したら、「もうすぐ終わるから待ってて」と言われた。
尾崎さんとニシダさんは背を向いていたから僕には気付いていない。待っている間にやっぱり自信が無くなって、引き返そうと思った。尾崎さんに本なんて渡していい訳がない。
「あの、やっぱり帰ります」
スタッフの女性が「え!何でよ!」と聞いてくれる。スタッフの女性は僕が先日書いたクリープハイプのエッセイを読んでくれてたみたいで、「絶対に渡した方がいいよ」と背中を押してくれた。
尾崎さんがそれに気付いて振り返ってくれた。
「どうかしました?」
尾崎さんとニシダさんが不思議そうに見てる。何か言わなくちゃ。小さい声でふがふがと尾崎さんの影響で文章を書き始めたこと、自分の本を尾崎さんに読んで頂きたいことを話した。尾崎さんは快く受け取ってくれた。尾崎さんはわざわざ立ち上がって「ありがとうございます」と言ってくれた。いつもステージの上に立つ憧れの人が目を見て話してくれていることに申し訳なさと嬉しさで胸がいっぱいになった。Kアリーナに行ったことも伝えたかったのに、言えなかった。(僕の馬鹿!)
僕は「ありがとうございます」と言って、小走りで自分のブースに戻った。
惣田さんに憧れの尾崎さんに自分の本を渡したと話したら、「神と話せたってこと!?」と一緒に喜んでくれた。神、本当にそう。初めてお話し出来た。緊張でガチガチになってしまって尾崎さんの目にどう映ったのか、考えるだけでも怖い。尾崎さんが僕のエッセイを面白いと思うかどうかもわからない。それでも、渡せて良かったなと思う。
惣田さんと暇真さんに挨拶をして僕は先に会場を出た。外はもう真っ暗だった。
今日は1日中ビッグサイトにいたんだな。手に持つダンボールは行きよりも軽い。30冊中、24冊売れた。完売とはいかなかったが、買ってくれた人がいたことが本当に嬉しかった。エッセイ集を手に取ってくれた人の顔や言葉を一生忘れたくない。この気持ちをずっと忘れたくない。
家に帰ったら、本を読んでくれた方から長文の感想がSNSに届いていた。
「素敵なエッセイでした。日常のふとした時にちくわさんが書いた文章を思い出すと思います」
誰かの心に届いた。こんな日があるなら僕はこれからも書き続けられると思った。僕はまたちょっと自信を伸ばして、一日を思い返しながらベッドに潜り込んだ。
エッセイ集を買って下さった皆様、本当にありがとうございました。読んだ感想をnoteやSNSにシェアしてくれたら嬉しいです!特大のスキやコメントを付けにいきます!
エッセイ集は通販もしようかなと考えています。やり方を調べるところから始めるので、準備に時間がかかると思いますが、年明けに発表出来ればと思います!それではまた!
〜文学フリマで買った本〜
尾崎ニシダラジオZINE
尾崎大輔・小原晩・星野文月「もう間もなく仲良し」
暇真「ラフ・プロテクト」
惣田大海水「死ななくてよくなった後の日日」
はるさめとも「あ、エコバッグ持ってます」
みゃーこ「体温ZINE」
Umoe「九州男メモリーズ」(敬称略)