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【第31回】【祭りと防災】博多祇園山笠が防災活動を実践【1953年西日本水害】

問 祭りに防災機能が実装されている場合があるのですか。

概要

 ①地区防災計画学会では、祭りと防災に関する報告あり。
 ②福岡市の博多祇園山笠が1953年の西日本水害の際に防災活動を実践。
 ③博多祇園山笠には、普段は意識されないが、先人の知恵によって、防災機能が埋め込まれている。

解説

①地区防災計画学会では、祭りと防災に関する報告あり。

 最近の地区防災計画学会の報告では、祭りと防災について触れるものが見られます。
 ここで一つの事例として、博多祇園山笠と防災活動についてのお話を紹介したいと思います。
 博多祇園山笠というお祭りを御存知の方も多いのではないでしょうか。福岡市の有名なお祭りですが、このお祭りは770年以上の伝統を持っています。ここ2年は、コロナ禍で祭りは延期になっていますが、例年は、日本最大級の300万人以上の集客があると言われています。国の重要無形民俗文化財で、ユネスコ無形文化遺産です。
 この博多祇園山笠ですが、男衆の「オイサ、オイサ」の掛け声の下、福岡市博多区にある那珂川と御笠川間の博多小学校区を中心とした区域で毎年7月1日から15日にかけて開催されます。博多の総鎮守である櫛田神社に祀られるスサノオノミコトに対して奉納されており、最終日に実施される祭りの組織「流(ながれ)」同士のタイムレースである「追山(おいやま)」が有名です。「流」と呼ばれる7つのグループに分かれて1トンの重さの「舁(か)き山」 を男衆が代わる代わる「舁き手」となって疾走させ、約5㎞の区間のスピードを競うのです。
 山笠の起源については諸説ありますが、1241年の博多での疫病流行時に、承天寺の開祖が、町民が担いた施餓鬼棚(せがきだな) に乗って、祈祷水を撒きながら疫病退散を祈願して博多をまわったことを発祥としているという説が一番有名なようです。これは、山笠の土台である「山笠台」と施餓鬼棚が似ており、現在も車輪のついた山車ではなく、車輪なしの台が舁(か)かれていること、祈祷水が「勢い水」に転じたといわれていること等から推測されています。
 博多は、戦国時代に、大友氏や島津氏の激しい戦争の中で焼け野原となってしまいました。豊臣秀吉が島津氏を降伏させてからは、秀吉が博多商人の要請を受けて復興を進めました。そして、太閤町割りを実施し、那珂川の流れに見立てて「流(ながれ)」と呼ばれるブロックを形成したのです。これが、自治や祭りの組織の源流となり、現在も受け継がれています。そのようなこともあり、博多祇園山笠は、博多の住民や企業が共同して開催しており、山笠を舁く男衆だけでなく、当該地区の大半の住民が祭りの運営に参加していると言われています。

②福岡市の博多祇園山笠が1953年の西日本水害の際に防災活動を実践。

 ところで、この博多祇園山笠が大災害のときに活躍したという話は、少し前の話になりますので、福岡市民の方でも御存知ない方が多いかもしれません。
 この博多祇園山笠は、毎年7月1~15日に開催されますが、この時期は、このあたりで水害が発生しやすい時期でもあります。そのため、そもそもこのお祭りがこの時期に設定されているのは、豪雨の時期に備えるためではないかと言われている方もいるようです。確かに、この時期は、山笠を舁(か)く男衆も祭りを支援する住民の方も日程を調整して、祭りに向けて準備を進めており、博多のコミュニティ内の連携が特に強くなっている時期ですので、災害が発生した場合に、人を集めたり、対策のための炊き出しをしたりと、普段よりも臨機応変な対応が容易になるということが言えるかもしれません。
 この点、1953年の西日本水害(昭和28年災)の際には、6月終わりに水害が発生しましたが、7月に入ってからの山笠の開催期間中に、祭り自体は規模を縮小して開催しながら、義援金を集め、同時に男衆が法被姿で土嚢(どのう)積みを手伝って二次被害を防いだという話が残っています(なお、博多祇園山笠が伝播したと思われる近隣の飯塚市の祇園山笠でも、1972年の集中豪雨の際に祭りの活動が、そのまま防災活動に転用され、祭りのために集まった男衆に災害対応のために待機してもらったという事例があります。)。

金思穎, 2020, 「特性を知り地区防災計画を」『西日本新聞』2020年7月26日(日)朝刊.

③博多祇園山笠には、先人の知恵によって、防災機能が埋め込まれている。

 この祇園山笠は、普段は防災機能について意識されませんが、先人の知恵によって、防災機能が埋め込まれているということではないかと思われます。普段意識することがない生活の中に埋め込まれた防災機能(結果防災・生活防災)の例ではないでしょうか。
 博多祇園山笠をはじめとする祭りの防災機能については、2022年3月5日(土)の地区防災計画学会第8回大会でも個人報告の中で取り上げられる予定です。
 なお、3月7日発売予定の「地区防災計画学の基礎と実践」(弘文堂)でも、祭りと防災をテーマにした事例が取り上げられています。

文献
金思穎,2021,「都市の祭りとコミュニティ防災―博多祇園山笠を例に―」『関東都市学会年報』第22号.
金思穎,2022,「祭りの種類とコミュニティの防災活動―祭りはなぜ発災時に防災機能を発揮できるのか―」『地区防災計画学会誌』第23号.


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