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【第32回】【祭りと防災②】なまはげに隠された防災機能【秋田県男鹿】

問 なまはげに防災機能があるというのは本当ですか。

概要

 ①秋田県男鹿の「なまはげ」とは
 ②「なまはげ」に埋め込まれた防災機能
 ③まとめ

解説

①秋田県男鹿の「なまはげ」とは

 秋田県男鹿(おが)半島(男鹿市)周辺では「なまはげ」という伝統的な年中行事が行われています。
 これは、おそろしい風貌の仮面をつけて、藁で作った蓑やコテを身に着けた神の使いである「なまはげ」が、家々をまわって厄払いをしたり、怠け者の子供や新しく嫁いできたお嫁さんを諭したりする来訪神の行事です。この行事は、200年以上の歴史があると言われており、国の重要無形民俗文化財に指定されているほか、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
 この「なまはげ」は、大晦日(以前は1月15日の小正月等でしたが、現在は大晦日です。)の夜に、子供や新しくお嫁さんが来た家をまわります。「悪い子はいねが。親の言うこど聞がね子はいねが。怠け者はいねが。」(悪い子はいないか。親の言うことを聞かない子はいないか。怠け者はいないか。)と大声で叫んで、家々をまわるのです。
 「なまはげ」たちは、風貌が怖いだけでなく、家の中での嘘や悪さのような家族しか知らないはずの秘密を具体的に指摘して子供を責めたりもします。「おまえは、あの時、こんな悪いことをしただろう。こんな嘘をついただろう。」と具体的に指摘するのです。
 そのため、子供は「なぜ、そんなことを知っているのだろう。」とすごく警戒して怖がります。
 また、「ここの家の嫁は早起きするが」(ここの家のお嫁さんはちゃんと早起きをしているのか。)と、新しく嫁いできたお嫁さんのことも調べあげていて、足を踏み鳴らしながら、家の中で問題点を指摘してまわります。
 各家は、このように大騒ぎする「なまはげ」を家長が中心になって丁重に酒肴でもてなして機嫌をとります。そして、「なまはげ」は、家の中で何回も四股を踏み、各家の無病息災を祈願して、来年も来ることを告げて帰っていきます。

②「なまはげ」に埋め込まれた防災機能

 ところで、この「なまはげ」の行事は、近年大変有名になり、観光PRに広く利用されていることから、関係する祭りも地域振興との関係で注目されています。一方で、あまり知られていませんが、この「なまはげ」は、地区防災計画学会をはじめとする防災系の学術研究団体で、コミュニティの防災活動との関係で注目をされており、「なまはげ」は究極のコミュニティの防災の姿だと言われたりもしています。
 これはどうしてでしょうか。
 実は、この「なまはげ」の役を担当しているのは、消防団自主防災組織に所属しているコミュニティの若いメンバーである場合が多いのです。彼らは、この年中行事の前に、子供のいる家、新しくお嫁さんが来た家の家族等から情報を集めて、「なまはげ台帳」というメモを作っており、このメモに従って、家々をまわったときに問題点を指摘してまわります。この仕組みが、先輩から後輩へと代々受け継がれ、コミュニティを支える若者の育成にもつながっています。
 この仕組みの狙いは、子供やお嫁さんをはじめとする家々の問題点を指摘して生活を戒めるという点だけにあるわけではありません。この「なまはげ」を担当している若者たちは、災害時には消防団自主防災組織のメンバーとして活躍する人たちですが、「なまはげ」のために集めた情報は、災害時に支援が必要になるかもしれない住民の情報であり、そのままコミュニティ災害対策につながる情報になります。つまり、コミュニティの防災活動のための仕組みが、ここに埋め込まれているわけです。
 「なまはげ」の担当者が、各世帯の幼い子供や新しく世帯に加わった人の状況を調査して「なまはげ台帳」を作成しており、各世帯の状況を細かく把握できていることから、どこに体の弱いお年寄りがいるか、一人で逃げられない障害のある人がいるか、その土地に慣れていない人がいるか等を把握することができ、災害時には、支援者が、要支援者を見つけるための重要な名簿にもなるわけです。
 なお、「なまはげ」が着用している藁で作られた蓑やコテは、神社で作られますし、「なまはげ」は、祭りの際には、神社のある山から降りてきますが、そのために関係の参道や施設は、住民たちによって掃き清められます。神社仏閣は、昔の避難所でもあり、山の中腹の安全な場所にある神社仏閣への参道を清掃し、除雪することで、それが避難道の整備につながっているという指摘もあります。また、昔は、読み書きができる人が限られており、書物を読むことができない住民も多かったことから、そのような住民にも自然と伝わるように、防災の教訓を伝統行事の中に残したという指摘もあります。

③まとめ

 秋田県男鹿の伝統的な年中行事・祭りである「なまはげ」には、災害時の弱者を支援するための防災機能が隠されています。また、一連の行事が、防災ということを意識しないうちに、災害に備えた避難道の整備、避難所運営の訓練等につながっており、これも、生活の中に防災活動を埋め込んだ結果防災生活防災の例であるといえます。
 なお、1964年から男鹿市の真山神社の「柴灯祭(せどまつり)」と「なまはげ」を組み合わせた行事が毎年2月の第2金曜日~日曜日に開催され、「みちのく五大雪まつり」の一つとなっており、コロナ禍でも一部の行事を取りやめる等の工夫をして継続されています。

文献
鍵屋一,2016,「男鹿のなまはげに学ぶ地域防災」『市政』11月号.
加藤孝明,2017,「減災対策として考える危機管理としての路面下空洞対策」レジリエンスジャパン推進協議会「都市の危機管理における路面下空洞対策」2017年10月26日講演記録.
金思穎,2021,「都市の祭りとコミュニティ防災」『関東都市学会年報』第22号.

参考

 3月7日発売予定の「地区防災計画学の基礎と実践」(弘文堂)でも、祭りと防災をテーマにした事例が取り上げられています。





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