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何度も読むよ。「夢の木坂分岐点」

著者の筒井康隆はぼくの好きな作家の筆頭である。中学生の頃作品に出会って図書館で貪るように読んで、自分で本が買えるようになってからほとんど買い揃えて繰り返し読んだほど好きである。中でも「夢の木坂分岐点」が最高傑作であるとぼくは思う。
 
主人公の男は作家である人生とサラリーマンである人生を両方生きている。作家且つサラリーマンではなくて、別々の人生が同時に存在して、それらが微妙にお互いに作用しあっているのだ。アカデミー賞を受賞した、Everything, Everywhere, All at Onceと同じパラレルワールドの構造を持っている。映画の予告編をみてこれは夢の木坂分岐点じゃないかと直感したけどまだ観ていない。
 
夢の木坂という駅があって、ちょうど乗り換え駅なんだけれども降りたことがない。駅の外はどんな世界が広がっているのだろうと思いながらページが過ぎていく。ところで夢の木は夢の記とも書け、明恵上人の夢記(のを挟まずにこれでゆめのきと読ませる)を筒井康隆が意識していないといったらうそだろう。
 
作家人生とサラリーマン人生の交わりが次第に色濃くなっていく。あれえ、どうしたんだろうと男は立ち止まる。おれは一体誰なんだ。夢と現実との境さえ見分けがつかなくなっていく。その不可思議さを感じて男は行動する。それはすなわち夢の木坂で下車することであり、世界の外へ一歩踏み出すことである。
 
男は夢の木という木を見てみたいと思う。はたしてそれはどんな木なのか。しかしそこには狂気がつきまとう。おれを背後からグサッとくるやつだ。あるいは正面からバッサリくるやつだ。しかし男は夢の木を目指さなければならない。それが彼の人生だからである。
 
ぼくはもう三遍読んだが最後に読んだのもずいぶん前のことである。そろそろもう一度読みたくなってきた頃合いだ。

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