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勘違い甚だしいのが腹ただしい「それから」

「それから」はこれも二十年以上前に読んではみたものの暗くて途中で投げ出したままにしていた。それを今になってもう一度手にとって見て、夏目漱石というひとはあまり明るいひとではなかったのだろうと思った。

坊っちゃんも決して明るい内容ではなく、どちらかと言えば暗い本であったが、それからは尚暗い。暗いというか、主人公の代助は無気力さとそこへ屁理屈をつけて自分こそが高尚だと信じて疑わない姿勢はまるで小学生のように拙い。
 
親兄弟がなんやかやと世話してやるが、結局のところそのように甘やかした末に出来上がったのが代助であると感ずるのは最近息子を甘やかしすぎたと反省している自分がいるせいである。
 
代助は親の仕送りで生活していて家も下女も書生も抱えていてそれが全部親の金で成り立っていて、その金をひとに貸したりなくなると親に無心したりして、こんなやつがどんなに偉そうなことを言っても説得力ゼロであって、読んでいて腹が立つのであるが、もしかして漱石自身がこんなひとなのかなとおもったりする。
 
それからを読んでいて思い出したのはトーマス・マンの魔の山である。どちらも主人公に強い意志があるように感じているのは主人公だけでその実考える力も行動力もないから周りに合わせるしかなくて、だけど自分ではかなり論理的に主体性と整合性を持たせていて勘違い甚だしいのが腹ただしいところが似ている。似ていると言っても魔の山よりもそれからのほうが古い作品だから魔の山がそれからに似ているといったほうが正解か。とくにエンディングはそっくりと感じた。
 
まさか漱石も自殺したのではと思って調べてみたら自殺ではなかったが、糖尿病やら精神的なものやらいろいろの合併症でたったの五十歳で死んでいた。不甲斐ない主人公にイライラさせられたり腹が立ったりする小説は意外に多いのか、それともぼくがそういう内容の本を選んでしまうのかわからないが、ついつい読んでしまう類ではある。次回は読み終わったあと壁に投げ捨てたくなった本をご紹介したい。

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