見出し画像

岳さんと、向き合う事

岳さんと向き合うのが、こわかった。
過去に、折り合いをつけるのが、こわかった。
ホラー映画を観たくないという、感覚に近いのかも、しれない。

岳さんの「声」が聞こえなくなり、「耳鳴り」がするようになった。

気が付けば、「うるさい」と言っていた。

それでも、岳さんは、娘の紗和を抱きかかえ、
私を助けてくれた。

私に、傷つく言葉を吐きつける事なく、

「誰が、そんなに、重い荷物を背負わせた?」
と言ってくれた。

耳が聞こえなくなった私が、最後に聞いたのが、この言葉だった。

私は、これ以上、深く愛せるか、不安だった。

夜の学校に足を踏み入れるのが「こわい」感覚に、
似ているのかもしれない。

でも、「孤独」になって、「一人」考えた。
考えて、気が付けば、うたをうたっていた。

私は、「自由」をうたう、
普通の「女の子」「妻」「母」、
になれた気がする。

なれなくても、いい。
ならなくても、いいって、たくさん言ってもらえた。

そんなに、心配しなくていいんだよ。
「自分らしく」いれば、いいんだよ。

逆に、「羨ましいよ。」と笑われた。

私は、「普通」がわからないと、いつも嘆いていた。

そのままで、充分、わがままですよ。
とも、言われた。
こんな事で悩むの、「貴方くらいですよ。」と、
内心不思議がっていた気がする。

わからない。
本当に、わからない。

アイデンティティなんて、いるのだろうか?
探すものなのだろうか?

わたしには、アイデンティティはないけれど、
愛するものがたくさんあり、
味方に囲まれている。

不器用で、わがままで、マイペースで
ドジで、間抜けだけれど、
私には、岳さんと紗和がいる。

親友がいて、私を責めずに
笑ってくれる。

それ以上の幸せがあるのだろうか?
いや、あるのかも、しれない。

「上を向いて、歩こう。マイペースに歩こう。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?