図画工作の時間、目に光を入れた話【ヤマシタのおたより#35】

このあいだ、ふいにこんなことを思い出した。

私、小6の図画工作のときに、目に光を入れたなあ…と。


なんで思い出したのかは全く分からないし、何のきっかけもなかったけれど、せっかく思い出したので、ここに綴っておくことにする。


あれは、運動会が終わって初めての図画工作の時間。
先生は、私たちにこう言った。

「今日は、運動会の一場面を描いてみましょう。だいたい4人くらいでグループを組んで、そのメンバーが競技に取り組んでいるところを、描きます。みんなで1枚を仕上げてもらうので、協力して進めてね。では、スタート!」

私は、この、好きな人たちで組むシステムが苦痛ではないタイプだったので、さくっと周りにいる女子でグループを組んだ。

そのとき、先生がこう付け加えた。
「あ、そうだ。皆さん、これは図画工作なので、忠実に描きましょうね。少女漫画みたいな、お目目がキラキラで、顔の半分まで、ほっぺまである大きさ、なんてのはやめてくださいね。お互いをよく見て、しっかりそれを反映させましょう!」


私たちは、とてもとても落胆した。

なぜなら、私のグループには、群を抜いて絵を描くのがうまい、それも少女漫画風イラストを得意とするSちゃんがいたからだ。

ここだけの話、絵心皆無な私は、Sちゃんの力を借りまくろうと思っていた。おんぶにだっこで作品を仕上げようと考えていたのだ。


こんな思惑を抱いていたのは、どうやら私だけではなかったらしい。

ふと両隣を見ると、MちゃんもOちゃんも、不満と困惑をミックスした表情を浮かべていた。


私たちは、作戦会議を始めた。
「実際に忠実にって、全然可愛く描けへんよなあ」
「なんかさ、道徳の教科書の挿絵みたいにならへん?」
「せっかくみんなで描くのに、そんなん嫌や
口々に思いを吐露する私たち。

先生の意図も知らないで、自由である。

すると、我らがSちゃんがそっと口を開いた。
「私、そんな絵は描けない…」

うすうす気づいてはいたけれど、ハッキリと口にされたことで、私たちを絶望が襲う。

もうこの世の終わりだと思った。

「どう、する…?」
目を見合わせる私たち。

周りは、さっさと役割分担を決めて、もう作画に取り掛かっているグループさえいる。このままでは、時間内に収まらない。

私たちは、焦り始めた。

今思えば、さっさと条件に沿って作業を始めれば良い話だ。
ただあの頃の私たちは、そんな妥協を許さなかった。


何事もベストを尽くしていたのだった。
若干、方向性が違うけど。

3分、5分、7分…と時間が経った頃。
Oちゃんが、「あ!」と叫び、にやりと笑った。

4歳くらいの男の子が「いいことかんがえた~♪」と、絶対大人たちにとってはよくないアイデアを思い付いたときのような、無邪気でピュアなそれだった。


「なになに???????????」
と、興味深々な私たちをよそに、Oちゃんは
「せんせい~!」と手をひらひらと掲げ、先生を呼んだ。

そして先生に、Oちゃんはこう言った。

「いま私たち、お互いの目をよく見たんですけど、そこで気づいたんです」

「瞳に、光が入って、ちょっとキラキラしてます!」

「だから、目をキラキラに描いてもいいですか!?(意訳:ええやんな?)」


私たちは、心の中で拍手喝采した。

頬まである大きな目を描くのは叶わなくても、キラキラはさせられる!

さよなら、道徳の挿絵!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


先生は少し黙ったあと、
「いいですよ。しっかり見て描いてね」
と答えた。


私たちの、勝利である。
得意げなOちゃんを称え、Sちゃんが握った鉛筆を祈るように見つめた。


そうして、私たちの渾身の一枚が仕上がった。
できあがった絵は非常に満足のいくものだった。

作業にあたっては、私は主に応援をした。
これは私がサボっていたわけではない。

何かをしようとするたび、みんなに「ちーちゃんは見といて!」と指示されたのである。
(申し訳程度に、色塗りは少しさせてもらえた)


授業で取り組む絵。
それの目に、光を入れられるかどうか。
(少女漫画のような絵にどれだけ近づけるか)

これに心血を注げるとは、なんとも尊い。

完全に方向は間違っているし、先生からしたら屁理屈でしかなかったと思うけれど、あのとき、たまたま同じグループになった4人は確かに一致団結していたし、同じ目標に向かって一生懸命だった。


ふとこんなことを思い出した、夏のある夜でございました。
(オチはありません)


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