私はマクドが好きだ【ヤマシタのおたより# 15】
私はマクドが好きだ。
おいしいハンバーガー、やみつきになるポテト、気取らない美味しさのコーヒー。
まさに庶民の味方。ありがたい限り。
最近はちょっと高めの商品も出てきたが、一時、どうかしたのかと心配になるほど激安の時代もあった。
たしか、ハンバーガーが60円とか、ホットドッグみたいなやつが75円とか。
これは言ってはいいのかわからないけど、高校教師をしていた友人の父親は、この時期、文化祭や体育祭といった生徒が頑張る時期には、必ずと言っていいほどみんなにハンバーガーをご馳走していたらしい。
60円×35人=2100円。
税込みだったかは定かではないけれど、当時は確か消費税率5%。
税別だとしても、計2205円。
2000円ちょっとで、35人のやる気と笑顔が見られるなら、安いものだろう。
もちろん、公務員なので、経費は落ちないけど。
(会社員だったら接待やイベントの度にどんどこ経費で落ちるのにな…)
カウンターで「ハンバーガー35個」と注文し、店員さんに「こちらでお召し上がりですか?」と訊かれたときは、
「店内ガラガラやろ!35人もおらんやろ!俺が一人でハンバーガーだけ35個も食うわけないやろ!ドリンクも頼んでへんねんぞ!!」
と心の中で思いっきりツッコミは入れたらしいけど。
(ドリンク頼んでたら、ここで一人で食べる可能性も受け入れたんかい…)
そんな庶民の味方、マクドナルドが、私の家の近くには2店舗ある。
徒歩圏内どころか、徒歩5分のところに1軒、8分のところに1軒ある。
そんないらんやろ、と思うけれども、せっかくあるのだから利用しないのはもったいない。
その日の気分によって、使い分けている。
意外と雰囲気が違うのだ。
同じマクドでも、ちゃんと、個性はある。
マクドの贅沢使い。
マクドは、もちろん商品もいいのだが、私はお客さんが好きだ。
この原稿を書いているのも、近くのマクド。
みんな、なかなか個性豊かなのだ。
たとえば。
私の右隣にいるおじさまは、いま、深い眠りについている。
店内は空いているので、マナー違反には入れないであげておこうと思う。
えらいスタイリッシュなネクタイをつけて、高そうな皮のバッグを携えているが、眠りの世界を満喫している。熟睡。爆睡。
「星に願いを オルゴールver.」でも流れていそうな雰囲気。
アルファ波大放出。
ちらっと顔を見てみる。
ああ、この方、たぶん、起きてたら強面。
オーディションでこの人が出てきたら、おそらく委縮すると思う。
クライアントへのプレゼンでこの人が真ん中にいたら、緊張すると思う。
でも、なんとも幸せそうに、かわいらしい寝顔をしている。
どんな人にも、こんな一面があるんだな。と、ちょっとほっとする。
アイスコーヒー、ほぼ氷溶けて水みたいになってるけど。
これからは、仕事でどれだけ厳つい人に会っても、「マクドで可愛く寝てるかもわからん」と思えば、なんてことない。大丈夫。
ありがと、私にメンタル安定剤をくれて。
…と書いていたら、むくっと起き上がった。
怖い怖い。
まるでずっと起きていたかのように足を組み、威圧感を発揮しながらスマホを見ている。
いや。そんな、あたかもずっと仕事してますみたいな雰囲気出して。
バレてんで。めっちゃ寝てたやん。
(どうか彼が、この画面を見ていませんように。)
さて、左隣の紳士なおじいさまは、まるで難しい論文を読むような顔つきで、競馬新聞を眺めている。
赤ペンを使ったりはしない。
万年筆と、マイルドな発色がウリの蛍光ペンを机に並べている。
なるほど、「競馬は紳士のスポーツ」を体現している。
ここ、馬主席じゃなくて、マクドやけどな。
そういや先日は、私の左隣に、ギャル2人が座った。
どう考えてもギャルだった。
常に上がり調子のイントネーションで交わされる会話、しっかりしたメイクに自己表現が完璧な服装、山盛りのポテトにLサイズのジュース、チキンナゲットに期間限定発売のチュロス。
「マジで!?」をお手本のように使いこなし、髪をくるくると指で巻ながら、スマホを見つめる。
めっちゃギャル。
ちょっと懐かしいタイプのギャル。
最近のやたらシュッとしてるギャルじゃない。
2000年代の、ギャル。
まだルーズソックスとかスクールバックに落書きとかが流行ってた頃の、ギャル。
そんな彼女たちはどうやら学生らしく、一通りおしゃべりを終えると、膨大な量のテキストを鞄から取り出した。
お互いにしゃべったりクイズを出し合ったりして、知識を定着させる作戦らしい。
うん、その方法は、合ってるぞ、ギャル。
するとギャルAが、
「マジで覚えらんない」
と言い出した。
返すギャルB
「難しい言葉で言われんのマジ無理だよね。簡単に言えよ」
ギャルA
「てかダイエット願望ある子多くない??」
ギャルB
「マジそれ。だから拒食になってくんでしょ?」
ギャルA
「なんでだろね、おいしいのに」
ギャルB
「マジそれ。ポテト最高じゃん?」
と、ポテトを口へ運び、ジュースで流し込む、ギャル2人。
チュロスも手に取り、「おいしいのに、マジで」を繰り返す、ギャル2人。
会話から察するに、栄養学系の勉強をしているらしい。
保育士なのか、看護師なのか、栄養士なのか…
分からないけれど、彼女たちを見ていて、なんだか元気が出た。
栄養学も心理学も勉強したことないけど、ダイエット願望が行き過ぎた女子には、この二人くらいのテンションが、ちょうどいい気さえする。
健康がどうとか成長がどうとか、正論を言うよりも、彼女たちみたいな幸せな時間を見せた方が、いいのではないか。
そんな風に思っていると、ギャルAがひょいと腕を後ろに伸ばした。
ちょうどその先には、ダストボックスの上に置かれた紙ナプキンがある。
ギャルAは、ノールックでそれを取り、口を拭き、またノールックでダストボックスに入れた。
すごいぞギャルA。
お店のダストボックスと紙ナプキン、自席の位置関係を、完璧に把握している。
ギャルA、あんた、ここに、住んでんのか…?
実家なんか…?
私なんか、もういま実家に帰るたび、あれどこやったっけ…とさまよってんぞ。そんな広い家ちゃうのに。
その後、本格的にクイズの出し合いを始め、聞いている限り全く惜しくない相手の誤答に「惜しい!!!!!!!!!!!!!!!!!」とリアクションし、正解した暁には「マジすごい!!!!!!!!!!!!!」と褒め、その日の学習会を楽しく進めていた。
私は彼女たちの大ファンになった。
マクドナルドは、モバイルオーダーを使えば、コーヒーMサイズを100円で楽しむことができる。
店内も綺麗で、ソファ席なんて特に居心地抜群だ。
それだけでも高コスパ極まりないのに、こんなふうに、色んな人たちと出会うこともできる。
一人で行って、こんなに楽しませてもらえるなんて。
素晴らしいところである。
実は、エピソードは、まだまだある。
というか行くたびに増えるので、尽きることがない。
本当はメロンソーダと少年の話もしたかったけれど…
それはまた、別の機会に。
さて。
あまり長居しても申し訳ないので、そろそろ、ポテトでも追加注文しようかな。
マクド、大好き。
完
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