東京他人物語「27クラブに入れずにあいつは今年三十になる」

トレインスポッティングに憧れて、わざとオールスターを汚して履いていた。女の人は多分いっぱいいるけれど、セブンスターからは浮気したことがないらしい。部屋が汚いのに、お気に入りのシャツはクリーニングに出している。私はそのシャツの色が世界で一番好き。「お前やっぱ変だな」と言われる話も、「そういう風に考えるのは偉いね」と聴いてくれた。小ぶりな耳が好き。休みには、7万のチャリを乗り回してるらしい。一向に既読つかない。致し方ない。宇宙人を信じている。いつか地球は征服されるらしいので、「もう俺は諦めた」とぼやいていた。左の前歯少し折れてる。あれ、右だっけな、忘れた。ご飯を食べに行くと、これ美味しいよ、と必ず一口くれる。例えそんなにおいしくなくても、格別おいしかった。我ながら退屈な感想。笑える。不眠らしく青い薬を飲んでいて、包装シートが枕元に散らばっていた。27歳。永遠に歳をとらない人だと、本気で信じている。私にとっては長い夜、彼にとっては短い夜。「大丈夫、〇〇ちゃんは普通だよ」、ある日、解かれることのない呪いをかけられる。帰り道、少し泣いた。相変わらず汚い街だけが、今もなお、私を慰めている。これは少し前の、とおい昔の話。

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