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ショートストーリーズ

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掌編小説集。
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記事一覧

No one knows

No one knows

公募のため、サイト掲載作品を一部修正して転載しております。

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 葉の落ちきった木々の下で、灰色の空に煙がゆっくりと昇っていく。

「のんきだなあ」
「田舎だからね」

 タイヤを燃やせば有害だが、枯れ葉を燃やせばよくある姿。芋でも包んで持ち込めば、童謡めいた風物詩だ。

「背中さむ、顔熱いから余計寒い」
「餅でも買やよかったか?」
「悪趣味ぃ」
「だって不自然過ぎね? 野郎2人で巨

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来るならおはぎを持ってこいってさ

公募のため、サイト掲載作品を一部修正の上転載しています。

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「はんごろしにする? みなごろしにする?」

 おっとりとした風情の小面が、麺棒を片手ににこりと笑う。
 ちょいとモノのわかった奴なら、「ああ、米のつき方か」と合点するだろう。小面の面を付けた女が浅黄の割烹着をまとい、膝下にその裾をひらつかせているなら尚更だ。

「いつも通りにしてくれ」
「また半殺し? つまんなーい」

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Youtuberから入った彼らは、まったく真相を知らない

Youtuberから入った彼らは、まったく真相を知らない

公募のため、サイトより一部修正の上転載しております。

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 師走というばかりでなく、社会人なら2日3日はたやすく過ぎる。4kgもある肉塊を漬け込むのと同じ時間だというのに、学生でいたあの頃の方がずっと、1日が長かったように思う。

 ――ひとぉつ、解凍に金物を使うべからずのこと!

 解凍の器にはプラスチックを使え、レシピの待機指示に逆らうな、肉は焼けてもすぐ食うな。

 歴代のOB

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指先はしっている

指先はしっている

公募のため、サイトより一部修正して転載。

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 幼い頃、私はとても素敵なお兄さんと出会ったことがある。

 ミモザの花が黄色い房をいくつも作るその陰で、白いシャツに黒いジーンズをはいた、細いつり目のお兄さんは、小さな私にはひどく大人に見えた。
 どんな話をしたのかはわからない。ただ、彼の最後のひと言だけが、深く私の中にしまわれた。

「君が一番美しくなった頃に、また会いに来るよ」

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22時の没頭

22時の没頭

サイトより一部修正して転載。

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string q = “彼は私を愛しているか”;

if(!String.IsNullOrEmpty(q))
{

  int i = q.Length;

  for(int j=0; i>j; i--)
  {

    string a=”彼は私を愛している”;

    j=a.length;

    if(j==i)
      break

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定時後は慌ただしい

定時後は慌ただしい

公募のため、サイトのものを一部修正して転載しております。

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 体の中がぎゅう詰めになると、また「のーざんぎょうでー」なるものがやってきたのか、とエレベーターのカーゴは得心する。上がる回数と下がる回数は基本的にほぼ同じなのだが、この時ばかりは逸る者たちのせいか、下がる方がずっと多いように感じられる。

 だが、今回は不思議なことに、誰も彼もが上へと上がっていく。
 最上階、肌寒い屋上

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その17:「真っ赤な供物と死にたがりの「少年」九. 図書館の囚人/十. あまやかなしばり」

このシリーズは画像でお届けしています。

第1話 前の話

30歳になる誕生日を前に、これまでどんなものを書いてきたのか振り返るべく、9/1から毎日1~2作、全23作品を公開していくことにしました(私用により12~15日はお休みです)。
最近は身内小説にかかりきりだったので古いものばかりですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
また、ここでいただいた投げ銭は、自身への誕生日プレゼントの購入費

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その16:「真っ赤な供物と死にたがりの「少年」七. 校舎裏の語り部/八. あかされたのぞみ」

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第1話 前の話

次の話

30歳になる誕生日を前に、これまでどんなものを書いてきたのか振り返るべく、9/1から毎日1~2作、全23作品を公開していくことにしました(私用により12~15日はお休みです)。
最近は身内小説にかかりきりだったので古いものばかりですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
また、ここでいただいた投げ銭は、自身への誕生日プレゼン

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その14:「真っ赤な供物と死にたがりの「少年」四. あわせられたもの/五. 食堂の彷徨人」

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第1話 前の話

次の話

30歳になる誕生日を前に、これまでどんなものを書いてきたのか振り返るべく、9/1から毎日1~2作、全23作品を公開していくことにしました(私用により12~15日はお休みです)。
最近は身内小説にかかりきりだったので古いものばかりですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
また、ここでいただいた投げ銭は、自身への誕生日プレゼン

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その13:「真っ赤な供物と死にたがりの「少年」二. あたらしいしごと/三. 保健室の常連」

このシリーズは画像でお届けしています。

前の話

次の話

30歳になる誕生日を前に、これまでどんなものを書いてきたのか振り返るべく、9/1から毎日1~2作、全23作品を公開していくことにしました(私用により12~15日はお休みです)。
最近は身内小説にかかりきりだったので古いものばかりですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
また、ここでいただいた投げ銭は、自身への誕生日プレゼントの購入

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その12:「真っ赤な供物と死にたがりの「少年」一. 図書館の住人」

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次の話

30歳になる誕生日を前に、これまでどんなものを書いてきたのか振り返るべく、9/1から毎日1~2作、全23作品を公開していくことにしました(私用により12~15日はお休みです)。
最近は身内小説にかかりきりだったので古いものばかりですが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。
また、ここでいただいた投げ銭は、自身への誕生日プレゼントの購入費と

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その11:「くちにしたもの」他2編

恋ひ文(2006年)

私の片割れはどこに行ってしまったのでしょう。
喧嘩別れのままになってしまいました。
私の一部をつけて。
片割れの一部を残して。
あの日、私たちはばらばらと何度も左右に移動させられ見つめられ、選ばれて片割れだけが連れられていきました。
私たちは互いで一組だったのに、片割れのほうが白いという理由で一組とみなされなかったのです。
確かに私はごちゃついていますが、色も柄も片割れとま

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その10:「やってはいけないこと」他1編

やってはいけないこと(2006年)

砂糖を入れたコーヒーは、お茶ともココアとも違う、たぷたぷした味がする。こげ茶色の液体は、もうしたを過ぎてのどを通って、胃のなかに入っているはずなのに、まだ口のなかに残っていてぴちゃぴちゃ音を立てる、そんな錯覚を私に抱かせる。
砂糖の入れすぎよ。友人がたしなめる。そんな三つも四つも入れて。
「ほんの五つじゃないの」
シュガーポットから、見るからに大きな塊を取り出

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【23日の誕生日まで昔の作品を上げていくのでよかったら投げ銭ください企画】その9:「敏感な人の対策」他1編

Schedule(2004年)

僕は忘れっぽいので、朝起きてすぐ今日の予定を確認できるように、枕元に手帳を置いている。今朝も手帳で確認して、彼の家へやってきた。
彼からの手紙がなければ、おそらく来ることはなかっただろう。黒尽くめという格好には慣れているが、葬式にはとんと縁が薄い。この若さでこれと縁深いのは、それはそれで不幸かもしれないが。
うれしそうに笑う彼の顔が、花の中にうずもれている。酒もタ

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