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【1分で読める小説】 その9 珍獣と珍虫

独立したムルリン王国から“親善大使”として贈られたのは、最近発見された幻の珍獣だった。姿形すがたかたちはパンダの赤ちゃんに似ていたが、色は白と茶で、動作も鳴き声も全てが愛らしかった。日本政府から飼育を任された動物園はある難題に直面していた。その珍獣は現地では“恐るべき名称”で呼ばれていたのだ。


「どうします、園長?」「仕方あるまい。ムルリン語での正式名称を変えてはならないという条件で特別に贈られたのだ」かくして、その珍獣は正式名称である『ゴキブリ』という名前で一般公開された。ゴキブリを一目見ようと動物園には長蛇の列ができ、ゴキブリのぬいぐるみが飛ぶように売れた。


ある朝、ゴキブリ3頭のえさとなる油まみれの玉葱を飼育室に運んでいた職員が奇妙な虫を見かけた。「白と黒のまだらで、形や大きさは……、そう、時々台所に出てくるあの茶色い虫にそっくりでした」調査の結果、ゴキブリ1頭の輸送コンテナに潜んでいたムルリン王国の昆虫であることが判明した。


「その害虫は『パンダ』だ。ムルリン語でそう呼ばれてるらしい」園長が職員たちに告げた瞬間、後方で「キャーッ!!」という悲鳴が上がった。会議室の床に突然、パンダが出現したのだ。園長はスリッパを握りしめ、一歩一歩慎重に近づき、思いっきりそれを叩き潰した。女子職員が叫んだ。「やったー、パンダがぺちゃんこ〜!!」



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