【哲学】「道」の探求 日本の弓術
こんにちは。
谷塚総合研究所、読書部の塚本です。
今日は本の紹介、オイゲン・ヘリゲル著の「日本の弓術」です。
本書には、理屈づくめのドイツ人ヘリゲル君と、弓道師範 阿波研造先生との「弓」を通じた五年間のやり取りが記されている。
阿波先生が持っているものは、一体何なのか?
確かにそこに存在するが言葉では説明しがたい「それ」を追ったヘリゲル君。
「精神的に射ること」
「的を狙わずに射中てることができるということを、あなたは承服しようとしない。」
「まあ私たちは、的の前では仏陀の前に頭を下げる時と同じ気持ちになろうではありませんか」
私たち日本人に受け継がれていて、それでいて私たち日本人が最も理解していない「道」という精神。
私たち日本人はもう一度、「道」と向き合い「道」に飛び込まなくてはならないのかもしれない。
本書は、そのような言葉を投げかけてくる。
あらすじ
ヘリゲル君が阿波先生に弓道を習い始めたのは大正15年春のこと。
東北帝国大学講師として、哲学とギリシャやラテンの古典語を教えるために来日し、5年間を日本で過ごした。
ハイデルベルグ大学での私講師をしていたヘリゲル君に日本からオファーが来たのだ。
東北帝国大学に数年間努める意向はないかという問い合わせを受けたとき、日本およびその驚嘆すべき民族を知る機会を喜んで迎えた。
神学・哲学に造詣の深いヘリゲル君であるが、当時のヘリゲル君いわく、
ドイツの神秘説を詳しく調べていくうちに、これを完全に理解するためには自分には何かが欠けていることを悟った。
私は最後の門の前に立ち、しかも開くべき鍵をもっていないような気がした。
日本で「生きた仏教」に触れる。
このことが、ヘリゲル君を「第一次世界大戦後の日本」という異国に向かわせた。
弓道を習い、知る
「まずは道を習いなさい」
ある人に教えられ、ヘリゲル君は弓道の門をたたく。
阿波先生は、ヘリゲル君が放った弓など見向きもせずに、ひたすらヘリゲル君を見る。
阿波先生は、どのような矢を放ったかではなく「どのように矢を放ったか」を観察し評価する。
弓道において弓と矢と的というのは、ゲームの道具ではなく、自分自身の深くに入るための道具である。
ヘリゲル君は矢の向かう先を見ているが、阿波先生は自分自身を見ている。
日本における道という嗜みは、あくまで道具を使った、自分自身の探求なのである。
「道」が私たちにもたらすもの
道の精神において、身の回りのすべての道具というのは、自分自身を観察するための道具である。
惑わされてはいけない。
そこに存在するのは自分自身なのである。
イエスキリストは有名な山上の垂訓で
「自分を愛するようにあなたの隣り人を愛せよ」
と言った。
道の説明に、宗教を引き合いに出すのはおかしいのかもしれないが、日本人が宗教にこれほどまでに無関心なのも、道という精神が日本人の根幹をなしていて、その道こそが宗教が人間を支える部分を担っているのかもしれない。
私は幸いにして、禅僧が実行している神秘的な沈思法のもっとも純粋な形を知りえたのである。
それが完成の域においては、いわば弓も矢もなしに射中てることである。
しかもこれこそ、弓術が正しく行われるならば最後に到達すべき境地である。
私たち日本人は、その境地について説明したり実践したりすることは出来ないかもしれないが、それが何なのかをよく理解している。
この理解こそが、日本における宗教ともいえる道徳となっていて、共通認識できる言語を発することなく、お互いがお互いの道徳を理解し、それが日本という社会を形成している。
外国から見れば、あまりにも不思議な日本の宗教観。
道や道徳から学ばずとも理解していて、言葉にすると詰まってしまうようなもの。
ヘリゲル君はそれを理解しようと努め、言語化することに注力し本書を書き上げた。
弓と矢を使う時に無心となり無我となり無限の深みへ沈み去ることと、仏陀のように両手を組み静座して思いを鎮めることは、実は全くの同一のことである。
私たち日本人は宗教観や道徳に対して、まるでポルノのような扱いをする。
非常にデリケートで他人にむやみに見せるようなものではないと。
だが、言語化された日本の道というのは、現代を生きる私たちにとっては、日本人が日本人であることを再確認するための道具となりえる。
ヘリゲル君が日本で学んだ弓道というものが、私たち日本人が今を生きるためには、必要なのかもしれません。
道という道具を通じて、私たちが私たちを成しているものを再確認できる。
そのような言葉が、本書にはあります。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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