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優しさを、大切な人へ――『産声が聴こえない。』

「『当たり前』の対義語は、『有り難し』『感謝』」

「作品を通して感じたことを誰かに届けてほしい、優しさの循環が世界を変えられると信じている」

石川美樹さん、奥山佳奈さん御出演『産声が聴こえない。』

脚本・演出の久我真悟さんが前説と終演後の挨拶で述べたことが、ずっと心に響いている

久我さんの作品は、昨年11月の『三落短編集。』以来となる

2024.6.29 東京・三栄町LIVE
2024.7.20 札幌・演劇専用小劇場BLOCH

『産声が聴こえない。』本編は、3人の女性に焦点を当てている

親に捨てられ住所もなく、性風俗でその日暮らしの生計を立てている美穂

出会い系アプリで知り合った男を、初めての彼氏として全てを受け入れてしまった優花

自分はおろか夫の生活も全て賭けて、子宝に恵まれたいと望み続ける香織

3人の誰もが、新しい命との向き合い方に悩み、苦しむのだが、タイトルが示す通り、産声は聴こえず、命は育たない

6.29 石川美樹さん、奥山佳奈さん
ブロマイドとチェキ

美樹さんが演じた由紀は優花の母親として、何があっても娘の味方でいる強さと優しさを持った女性

佳奈さんが演じた萌子は、優花に起こった出来事から自身の軽はずみな言動を改め、親友のために闘う強さと優しさを持った女性だ

男性である私の視点では、美穂や優花に対する無責任で、胸を抉られる感覚がした


私は以前、自分の性に対する劣等感を記事に書いたことがある

人が怖いという意識を幼い頃から持って育ち、小学生の頃には人間不信になっていた私は、人を好きになるということがわからなかった

20代、社会人になり、女性と交際した経験がないことを他人に看破され、心が悲鳴を上げた私は、現実から逃れるために吉原へ向かった

人に優しくされたことがない私は、優しくされると好きになってしまう

その優しさが偽りのものであると気が付かない精神的な未熟さから、"吉原に恋をしに行く"習慣ができてしまった

結果は記事に書いた通りで、現実から目を背けた場所に出会いなどあるはずがなく、空しさが募り続けた20代の終わりに、辞めた

避妊なしの性行為は経験したことがないし、性病検査を受け異常がないことも確認しているが、女性を自分の欲を満たすための道具のように考えていたことは間違いない

そして実際の行動としては辞められたつもりでいたのだが、その精神は昨年まで残り続けていたと思っている

2022年8月

行為はなくとも裸を見せてくれることに下心丸出しで接近し、たまたま身の上話を聞いて同情し一方的に好きになり、以後1年に渡り追い駆け続けた人物(以下A)がいた

顔と雰囲気で相手を選び、「金さえ払えば自分の欲を満たせる」という点で、何ら変わりはなかったのだ

リスペクトがあるわけでもなく、何に対して「ありがとう」と言っているのかわからない

20代の頃から自分の精神はまるで成長していなかったと思い知らされた


一方で、Aは私が小劇場の舞台に触れるきっかけであり、そこで出会った人々を通して、私は舞台が好きになった

2022年10月、Aの初舞台で奥山佳奈さんを知り、2023年1月 、『ラチカン』で志水もえのさんを知る

2023年5月、『誤解のBar』では、佳奈さんを介して今野美彩貴さんと出会い、実際のステージで村上えりなさん、石川美樹さん、石川航太郎さん、ソラ豆琴美さんと出会う

初見から惹きつけられた芝居の力強さ、感情の揺さぶり、ストーリー展開……『誤解のBar』は、これまで観劇した作品の中でも特に記憶に残る、大切な思い出になっている


『産声が聴こえない。』でもう一点印象に残っているのは、美穂と同じネットカフェ住民の大樹が打ち明けた、彼の身の上話の中にあった台詞だ

「大切なものって、増えるんじゃなくて減っていくんだって」

この台詞は、2022年12月、片瀬直さんが座長を務めたオムニバス公演"片瀬一本勝負"内の、久我さん脚本の『おなか一杯』で聞いたものと同じだ

小学生の頃の人間不信になるきっかけになった出来事の後で、「ありがとう」を言えない人間になり、社会性が身に付かないまま成人した私は、1ミリも動くことができない状況に陥ることとなった

私を救ってくれたのは、人の言葉だった

「人生に無駄な時間なんてない」

それから踏み出した1ミリは18年の長さになった

18年の中で、私の人格を否定する言葉を投げてきた人物もいたし、私の性格を弄びつけ込もうとする人物もいた

そういう人物、不要なものは、自ら捨てに行っても構わないと思っている

大切なものは、決してなくなることはないのだ

大切なものとは、「出会ってくれてありがとう」「大好き」という言葉を届けてくれる人と、その愛だ

私を生かしてくれる言葉を贈ってくれる人には、私も真っ直ぐに言葉を届けたい


誰かに対する想いが、意図するとせざるとに関わらず、他の誰かにとっては無視や攻撃になり得ることは充分に承知しているつもりだ

誰も傷つけない方法は、ない

口を噤んでいれば、まず自分を偽り、自分を傷つけることになる

好きになれた人にも何も伝えられないままでは、人間不信だった頃の自分から何も変わらない

人を愛することがわからないまま、人生を終えることになる

また口を噤むことで生まれる優しさは、自分の本音ではないものを人に伝えることになり、誤解や不要な軋轢を生むことになる

私はそれが嫌だった

SNSでもリアルでも変わらない自分でいることを実行するために、勇気を出して言葉を届ける

様々なことを考えさせてくれた作品と、人との出会いに感謝を込めて、ここに綴ります


佳奈さん、美樹さん

今回の東京から札幌、長丁場の舞台でしたが、お疲れ様でした

大切な人を守りたいという点で共通していたお二人の役は、強く優しいものでした

舞台はやはり現実を生きる力をもらえる、素敵な時間です

また今後も"31階"できることを楽しみにしております


久我さん

札幌で直接感想を伝えることができ嬉しく思います

私は舞台が好きです

生身の人間が目の前で、命を燃やして伝えようとするものを受け取り、受け取ったものに感謝とリスペクトを込めて言葉を返す

それが久我さんの仰る「優しさの循環」であり、私は"日常と非日常"だとか、"役者と客"というような垣根なく、"一緒に生きている"という認識で今後も続けていきます


うにょちゃん

『誤解のBar』『ピクニック』で役と真剣に向き合っていた姿に、偽りのないうにょちゃんの魂を感じていました

自分が発した言葉を真剣に受け止め、返してくれることで、出てはいないけどこの『産声が聴こえない。』の久我さんが意図した循環ができていると信じています


美彩貴さん

昨年俺の誕生日に「お誕生日おめでとうございます」という言葉をくれたこと

生きていることそのものを祝福してくれるのは、まさに『産声が聴こえない。』で久我さんが意図した「優しさの循環」なのだと思います

そのこともあって、美彩貴さんの命そのものが愛だという言葉が出てきたし、まだ1か月早いけど直接返したかった

札幌でこの作品を観劇できて、また共有できるものが増えたのを嬉しく思います


大切な人へ

生まれてきてくれて、ありがとう。

出会ってくれて、ありがとう。

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