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【風ストーリー】藤井風「何なんw」を元に、物語を書いてみた

藤井風の曲は、想像力を掻き立てるものが多い。
だから、書いてみたくなった。
藤井風の曲を元にした、ショートストーリーを。
「風ストーリー」とでも名付けようか。

今回作ったのは、藤井風の記念すべきデビュー曲「何なんw」を題材にした物語。

***

何なんw


「だから忠告したのに」
「してないよ」
「したよ。君が気づかなかっただけ」
「ウソだ!いつも大事な時にいなくなるくせに」
「僕はいつだって君のそばにいるよ」

目の前の男は余裕の笑顔を浮かべている。
いつもこうだ。
僕がみっともなく泣いている時も、絶望に打ちひしがれている時も。
「だから言っただろ」って、偉そうに説教する。
いつもそばにいるって?
だったら何でもっと早く言ってくれなかったんだよ。
助けてくれなかったんだよ。

「君はいつも僕の忠告を無視して、辛い方ばかりを選ぶから見てられないよ」
そう言って男はため息を吐いた。

何だよそれ。
慰めのつもりかよ。

「いつだってあんたは、手遅れなんだよ」

僕が吐き捨てた悪たれに男は少し驚いて、困ったように微笑した。
まるで駄々をこねる子どもをどうなだめようか考えている母親のようだ。
それが、腹立たしかった。

「僕は、君のそういう弱さすら愛しいよ」
相変わらず穏やかな表情で男が言った。

「は?何それ。からかってんの?」
「違うよ。傷ついたことも、いつか笑える日が来るってことさ」
「だったら・・・今、何とかしてくれよ」
「え?」
「いつかじゃなくて、今が辛いんだよ」
「傷つくことも君の大事な一部だ」
「何だよ、それ」
「一度も挫折も失敗もしたことがない人間は薄っぺらい。それに傷ついた分、優しくなれる。強くなれる。そう考えると、傷つくことも悪くないだろう?」

そんなことはわかってるよ。
でも・・・

「僕は、あんたみたいに強くない」
「君は強いよ。まだそれに気づいていないだけ」
「そんなことない。今だってこんなにも自分の不甲斐なさを嘆いてる」
「自分を責めないで。だって君は、本当はパーフェクトな存在なんだから」
「それは、あんただろ?」
「君も、だ。君は僕で、僕は君だから」
「何それ。意味わかんない」
「いずれわかるさ。それがわかった時、僕は・・・」
「え?何?」
「ううん、何でもない」

男が一瞬悲しい目をした気がしたけど、気のせいか。
言葉の裏を読もうとしたけど、男は相変わらず穏やかな笑みを浮かべているだけだった。

僕はいつだって、この男に勝てない。
だから少し、困らせてみたくなった。

「人の痛みなんてその人にしかわからないんだ。わかった気でいる方が傲慢だ」

男は黙って僕の顔を見た。
また「違うよ」って否定するのか?
そして、正論で返すんだろう。
あんたはいつだってそうだもんな。
いつだって、正しい。

「その通りだ。誰かの痛みは、その人にしかわからない」
「え?」

思わぬ返答に呆気に取られてしまった。
男は真面目な顔で続けた。

「誰かの痛みを本当の意味で他人が100%理解することはできないし、その痛みを代わってあげることもできない」
「何だよ。それじゃ・・・救いようがないじゃないか」
「でも、誰かの痛みに寄り添おうとすることが、優しさであり、思いやりじゃないかな。僕はいつもそういう人でありたいと思ってる」

やっぱりそうだった。
あんたはいつだって正しい。
そして、ひたすら優しい。
僕はいつもこの男に勝てない。

僕の全面敗北宣言などを知る由もなく、男はニッコリと笑って言った。

「人間なんだからさ。人間らしく、もがきながら生きていけばいいよ。大丈夫。僕がいつでもそばにいるよ」

そう言って僕の肩に手を置いて、男が笑った。
気のせいか、さっきよりも体が軽くなった気がした。

「あ・・・」
そう言って、ふと男の表情が曇った。

「どうしたの?」
「君にひとつ、伝えなきゃいけないことがあるんだ」
「何?言ってよ」
「でも・・・」
「隠しごとはなしって約束だろ」
「そうだね。でも、これだけは忘れないで。何があっても、ずっと大好きだから」
「まわりくどいなあ。はっきり言ってよ」

男が僕をまっすぐ見て言った。

「歯に青のり、ついてるよ」