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#2コロナ禍で実践される病院のアート・プロジェクト –病院経営者からみたアート-

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、病院内では緊張感の高い状況が続き、家族による面会、ボランティアやアーティストらによる活動も制限されています。こうしたなかで、アートディレクターやコーディネーターが配置されている病院では、継続的に活動を実施しているだけでなく、今だからこそ、患者さん、家族、スタッフに必要とされる環境づくりや企画を実践しています。トークイベント「コロナ禍で実践される病院のアート・プロジェクト」では、3つの病院が取り組んでいるプロジェクトを紹介するとともに、各活動がどのような意義を持つのかを、病院経営者とアートディレクター/コーディネーターに話していただきました。本記事では、トークイベントの内容をまとめてお届けします。
 本編では、前編でお届けしたアートプロジェクトの実践に取り組む各病院の病院経営者を交えたディスカッション編の内容をお届けします。

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病院におけるアートの役割

(聞き手)岩田 祐佳梨(以下、岩田):これまでの活動を通して、病院におけるアートの役割についてどのように考えているかをお聞かせください。

奥村 伸二/耳原総合病院 前病院長(以下、奥村):私は、2011年から2020年9月まで耳原総合病院の病院長を務め、2013年の新病院建設時にアートディレクターを起用して、病院職員や地域住民参加型のアートを進めてきました。私が実感している病院でのアートの役割として、患者さんやご家族、職員をエンパワメントすることがあげられます。さらに、病院の職場づくりに役立っていると感じています。職場内にアートを入れる際、どのようなアートにするかを話し合うなかで、どんな職場であればいいのという議論もしますので、職員自身が主役になると同時に、病院の理念の再確認にもつながっていると思うんですね。それから、アートがもたらす心理的安定性があげられます。患者さんの不安な気持ちを和らげ、地域全体を明るくするような役割があると考えています。

原 晃/筑波大学附属病院長(以下、原):私は、2018年に筑波大学附属病院の病院長に就任したため、アート活動が病院内で盛んに行われはじめた2005年頃は一教職員として活動を見ていました。現在、患者さんや職員の投書を頻繁に見ているのですが、病院に対する批判が多いなかで、「アートで癒された」といった言葉が特に小児病棟を中心に多くみられ、大変ありがたく思っています。耳原総合病院でのICU(集中治療室)やER(救急救命室)へのアートの導入は、私にとっては劇的な発想の転換で、驚きました。ぜひ、当院でも実践していきたいです。こういったアートは、もちろん患者さんのためでもありますが、職員のためでもあると思っています。特に、新型コロナウイルスの流行によって、最も誹謗中傷を受けているのは、看護師なんです。ですから、発表にもあった職員の働いている姿をテーマにした展示は、絶対に支えになると思います。日本の大学を推進していく立場としても、世界的な倫理を創造していくためには、アートの教育が重要だと考えています。そうした意味でも、アートと医療を結びつけていきたいですね。

軸屋智昭/筑波メディカルセンター病院 病院長(以下、軸屋):私は2009年に病院長へ就任した頃より、この活動に携わってきました。当院のアート&デザインの活動の目的は、3つのホスピタリティにあります。まずは、患者さんにホスピタリティの一つとしてアートやデザインを楽しんでもらうこと。次に、活動へ参加することで病院のホスピタリティ向上を病院職員に実践、体験してもらうこと。そして、アートやデザインを病院のホスピタリティにする方策を芸術系の学生に学んでもらうことです。私は、病院におけるアートやデザインは、身だしなみのようなものと捉えています。身だしなみを気にせずとも、生活はできます。ですが、身だしなみを整えることで、豊かさや創造性につながっていくと思っています。

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「アートカフェ」筑波メディカルセンター病院(2012-)

新型コロナウイルス感染症の流行下でのアートへの期待

岩田:新型コロナウイルス感染症の拡大によって、社会や病院の状況が変わってきていますが、こうした状況においてアートやデザインにどんなことを期待しますか?

軸屋:このコロナ禍で社会が取り組んでいることは、ニューノーマルの形成ですよね。未知の感染症が社会を覆っているなか、それにどのように対応していくかが問われています。そして、これにいち早く対応しているのが、医療者です。私は、医療者を病院の内部顧客と捉えていますが、彼らは、今まさに、このニューノーマルを作ろうと一生懸命頑張っています。これからのノーマルがまだ分からない状況のなか、病院のアートやデザインが向かうべきは、内部顧客でしょう。今、外部顧客である患者さんに、アートやデザインを通じて何かを提供しようとしても、どうしても限定的なものになってしまいますから。もちろん、患者さんとその家族をつなぐコミュニケーションツールも大切だと思っています。ですが、ニューノーマルをサポートするアートやデザインもあるはずです。そういった点からも、職員に焦点を当てた展覧会「病院のまなざし」には、とても意味があったと感じています。

奥村:新型コロナウイルス感染症がもたらした問題の一つに、情報の分断があります。例えば、同じ病院内でも、コロナ対応を中心的に担っている部署と、事務など縁の下の力持ちである部署では、温度差がありますよね。それから、そもそも医療者と患者さんでは、情報量が全く違いますが、新型コロナウイルス感染症によって、さらにその差が生まれて、患者さんの不安が広がっています。こういったなかで、アートは、職員間や医療者と患者さんのコミュニケーションに役立っています。「クリアスカイプロジェクト」も、その一例です。医療者に対するいろんな誹謗中傷があったなか、作品を通して、職員はすごくパワーをもらったと思います。

:当院は、県内唯一の特定機能病院で、院内感染のリスクを徹底的に排除する必要があります。そのため、面会や院内での活動も厳しく制限しています。こうした、まさにウィズコロナの現状においては、職員を元気づけるような取り組みなど、より病院内部に向けたアプローチになってくるでしょう。ポストコロナのビジョンとしては、ワールドワイドなエシックス(倫理)の形成という面から考えても、「病院のアート」というより、「アートミュージアムの中に病院があるような文化」を夢見ています。それから、院内に展示している作品も、販売してはどうでしょうか。アーティストの活動資金にもなりますよね。

岩田:海外には、院内の展示作品に値段がついていて、患者さんが気に入った作品を買うことができる病院もあります。現状では、アートを含め、院内の環境改善に対しては、すべて病院が投資していますが、今後さまざまな人たちが支える仕組みができるといいと思っています。

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「けやきの森」筑波大学附属病院 小児総合医療センター(2012)

病院経営からみたアート

(聞き手)室野 愛子(以下、室野):これまでの活動を通して、他の病院経営者にも病院でのアートプロジェクトをおすすめしたいですか?

奥村:ぜひ、すすめたいですね。最初に述べたように、病院でのアートにはいくつもの役割があることははっきりしていますから。逆に、アートの実践をしていない場合、誰が、どこで、その役割を担うのかということになってしまいます。また、費用のことを気にされる経営者は多いと思うのですが、アートの取り組みや、それに伴うアートディレクター/コーディネーターの導入は、費用対効果が高いと感じています。

軸屋:私もおすすめしたいですね。ただし、医療の専門家に片手間でやらせるのではなく、アートの専門家であるアートディレクターやコーディネーターがいることが必須だと思います。当院も、初めはコーディネーターがいないなか、広報課の職員が苦労しながら、アートに取り組んでくれました。そこで踏ん張ってくれたから、今があるわけで、そういう職員がいなくなってしまうと、アートの文化自体がなくなってしまいます。やはり、コーディネーターの存在は不可欠ですね。

:現在、病院経営者は少しでも費用を抑えたい状況だと思うので、検討できる経営者は少ないかもしれませんが、私もおすすめします。ただ、協働しているNPOやアーティストなどにも、きちんとお金が入る仕組みが必要だと考えています。芸術のみなさんは、かなり無理をしながら、活動してくれていると思っています。

軸屋病院機能評価のなかで、アートの取り組みが評価されたり、診療報酬が上がるようになれば良いですね。

奥村:以前、病院機能評価を受けた際、アートがあることによって病院の理念が顕在化されているという評価をいただきました。アートの導入自体が診療報酬の加算対象になることは難しいことだと思いますが、切望する声は多く聞いています。2020年度の医療マネジメント学会大阪支部学術集会では、ホスピタルアートに関するシンポジウムが開催されるなど、関心が高まっているように思います。

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「Expectation -希望の芽-」耳原総合病院 ふれあいエントランス(2015)

アートが病院組織や職員を育てる

奥村:経営者は、10年後、20年後の病院を見据えますが、その基盤となるのが、職員づくりです。多様性を重んじるアートの視点が入ることで、職員は病院のあり方について意見を言いやすくなり、小さな意見も大切にできるチームになっていきます。医療において、同僚や患者さんの意見にしっかり耳を傾けられる職員を育てることは、とても重要です。それともう一つは、やっぱりナラティブですね。耳原総合病院は、平均在日数が短く、患者さんとの会話を考える機会もどんどん減っています。私がアートを導入しようと思ったのも、こういったナラティブへのアプローチとして、アートに可能性を感じたからです。

:奥村先生がおっしゃるように、いかに職員を大切にしていくか、そして、いかに豊かな心で診療を行える人材を育てていくかといった観点が経営者に求められていると思います。

軸屋:私も、その通りだと思います。ただ、急性期病院の課題の一つは、職員がどんどん入れ替わっていくことです。筑波メディカルセンター病院は、若い医師や看護師が多く、特に、医師は1年間で4分の1ぐらいが入れ替わります。こうしたなかで、アートの文化をつくっていくことは、とても大変なことです。

岩田:耳原総合病院では、職員の声を大切にしながら、アート委員会を通じて、病院の理念に基づいた企画を育てていく仕組みがあり、参考にしたいと思いました。

室野:アートの内容を会議で決定することには、デメリットもあるんです。どうしても奇抜な意見が削ぎ落とされてしまい、結果的に、よくある企画になってしまうこともありますから。委員会内でも、そこは意識していく必要があります。一方で、会議のメリットは、組織としてアートをやることにあると思っています。多くの職員を巻き込むことで、そこに携わった一人ひとりの中にアーティストとしての心が宿ります。そういった意味でも、今後も、会議を大事にしていきたいですね。

 あわよくば、職員教育に寄与できればと思っています。「みんなでつくる」というテーマは、私が耳原総合病院に来た頃からありました。自分自身で表現を体験した職員たちが、自分のものとしてアートを考えるようになっていった印象がありますね。ですから、アートが根付かない病院は、職員自身が自分のものとして表現をしていなくて、その素晴らしさに気づけていなかったり、「きれいだね」「居心地がいいね」とは感じるものの、他人事になってしまっているのかもしれませんね。

奥村:私の夢は、院内にあるアートについて多くの職員が語れるようになることなんです。みなさんも想像してみてください。患者さんや外から来た方に、「これは、こういう作品なんですよ」とアートを語れる職員がたくさんいる病院って、ものすごくワクワクしませんか? 

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奥村 伸二/ 耳原総合病院 前病院長
2011-2020年9月まで耳原総合病院 病院長を務める。2013年の新病棟建設時には、アートディレクターを起用し、病院職員や地域住民を交えた参加型のアート作品の企画・制作を推進してきた。専門は呼吸器外科。現在は新、住宅重視型診療所の開設準備を進める。

原 晃/ 筑波大学附属病院長、NPO法人チア・アート理事
2018年 筑波大学附属病院長に就任。患者さんやスタッフの満足度の高いマグネットホスピタルの実現を目指す。現在、B病棟の耐震改修工事等を推進している。専門は耳鼻咽喉科学。医学博士。

軸屋 智昭/ 筑波メディカルセンター病院 病院長、NPO法人チア・アート理事
2009年 筑波メディカルセンター病院 病院長に就任。筑波大学芸術系との協働によるアート・デザイン活動に携わり、小規模な改修を通した継続的な院内の環境改善を推進している。専門は心臓血管外科。医学博士。

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アートミーツケア学会 2020年度 総会・大会 フリンジ企画トークイベント
「コロナ禍で実践される病院のアート・プロジェクト」
日程:11月8日(日)13:00-15:00
場所:zoom開催
主催:特定非営利活動法人チア・アート https://www.cheerart.jp/
共催・後援:アートミーツケア学会 http://artmeetscare.org/


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チア・アート(https://www.cheerart.jp/)は、医療福祉を応援する(チアする)アートやデザインを展開しています。医療とアートを考える勉強会「チア!ゼミ」のレポートや医療福祉×アート・デザインに関連する記事を掲載します。