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「夏」の捉え方 〜 イチオシレコードを聴きながら 〜

久々にフォルダの奥底に眠っている写真を引っ張り出してきた。この写真は一昨年撮ったもの、やっと慣れてきたPENTAX SP にフジの業務用 ISO100 フィルムを装填し、数十年開かずの間であった祖母宅の二階にて撮ったものである。夏を最もらしく表現したいという願望に、ラムネは欠かせなかった。

フジの業務用フィルムの生産終了に始まり、ここ二年でフィルム界隈の縮小化は痛々しいものだった。フジフィルム業界がそれを行い、オリンパスはカメラ業から撤退するなどの話も出ていたような気がする。こうして「廃れていく物」が尚のこと増えたから、よりカメラを集めるスピードが早まった。

この写真の奥に映る瓦屋根、そして竹藪はもう見ることの出来ない景色となってしまった。私が学生生活で故郷を離れているうちに瓦屋根で幅を効かせていた土蔵作りの物置は壊され、それより前にある知り合いのおばさんが住んでいた家も、親戚間のトラブルだとかで同様に壊されて、今や畑へと変わっている。竹藪もごっそりと切り取られてしまい、残るのは寂しい根元の残骸のみである。たった今同じ風景を撮ろうとしてもそうは行かない。永遠にこの一枚で歴史を終えてしまうのである。

前置きが長くなったが、今日は夏をテーマにした写真を添えながら「アイランドミュージック」について語りたい。アイランドミュージック、とは山下達郎、松任谷正隆、坂本龍一、細野晴臣などの一大スターに寄って形作られた音楽の一つのワールドである。その名の通り、島で聴くような楽曲を主に構成されている。代表アルバムであるPACIFICは外してはならないアルバム。(下図参照) 
1978年に発表されたインスト中心のアルバムだが、各楽曲にアーティストの個性が煮詰められている感じを強く受ける。
購入したきっかけを辿ってみるとこれが案外シンプルなもので、はっぴいえんどから個のアーティストに転換していく際に鈴木茂のコーラル・リーフを聴き流したことであった。もともとYMOは7年ほど聴いていた上に、山下達郎など言わばに平成生まれの私達にとっても「お茶の間ポップス」に属するので、耳が受け入れやすかったというのが最もな所であろう。

音楽活動を開始してから細野晴臣はかなりエキゾチカ (伝統的な音楽、民俗音楽の旋法やリズム、音色の採用)を研究していたのだろうか、一曲一曲にその気が見える。鳥の鳴き声やマスカラ(?)の音も一際主張が強く、ちょっとクサい。これが、細野氏らしいのだけれど。
鈴木茂の楽曲は流石超絶技巧というだけあって、ギターの旋律を貴重にした楽曲が目立つ。細野晴臣の楽曲は夏全体を指先でなぞったような感覚を覚えるが、一方鈴木茂は夏の具体的な場面を想起させるかのような感覚が大きい。
山下達郎の楽曲は流石ポップスのキングというだけあって、インストであっても力強さは変わらない。ギターリフでの構成であっても彼の楽曲は皆歌が聞こえて来るような気がする。
特にノスタルジア・オブ・アイランドの前後半に渡るユニゾンの違いは聴きながら震えた記憶がある。

全体的に煌びやかさが強く、南国の浜辺でマティーニでも飲みながらゆっくりと聴くような性質のアルバムな気がする。ガチガチな偏見だが。

2枚目に貼り付けておきたいのが、高中正義のHorizon Dream である。アイランドミュージックと重なるかは分からない。(恐らくジャズフュージョンに入るか、というところ)
ともかく夏の楽曲をピックアップしたいので、これを一枚。

ギタリストとして今をも語り継がれる高中正義が1983年頃に世に送り出したアルバムである。とは言っても購入意図が無いまま手に取ったLP第一号であった。
ギタリスト制作なのでギターを基調としているのかと思いきや、オムニバスというだけあって全体的に内容は様々である。とにかく静かなアルバム。南国感を全面に押し出しているかと思いきや、案外和テイストの方が強く、耳に強く馴染みやすいメロディに包まれている。特にSnooze はインパクトが大きく、あるはずのない記憶を呼び起こすようなノスタルジーがあって、B面のみを何度も再生した。
「デパ地下の惣菜コーナーで聞こえてくるような」、「民放ニュースのオートレース解説の際に聞こえてくるような」イメージが強い。決して揶揄している訳ではなく、生活に密着した感覚を密に感じるアルバムなのである。

これらを元に私が語りたいのは日本人の「夏」の捉え方の変遷である。近年の地球温暖化の弾みで外気温は毎年うなぎ登りに上昇し、40度を超える夏も珍しくは無くなった。「猛暑」という言葉が出来たのも割と最近なようで、6月からもう十分な暑さを保っている気がする。
いわゆる、夏は死ぬ程暑い季節となってしまい、表に出てくる楽曲も「暑さ」を基調としたものが増えたのではなかろうか。昨年から本格的にポップスを漁り始めて感じることだが、昭和曲の殆どは「冷涼感」などが全面に現れている気がする。
昔は扇風機一台でも暑さを凌げたという話を祖母から聞いたことがある。家屋の構造然り、感覚然り、外的環境然りであろう。恐らくはコンクリートジャングルの中では決して味わうことの出来ない感覚が、嘗ては残っていたはずである。
音楽理論にもそれは精通していて、私たちと異なる感覚、環境、状況で音を感じていたアーティストが居るからこそ、アイランドミュージックたるものが生まれたと言える。
2019年頃からシティポップの再ブームが本格性を増しており、様々なアーティストのリプレスが頻発しているのも、こういった点に流される感覚的なものが各人に備わっているのかもしれない。






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