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【ネタバレ有感想】『インサイドヘッド2』自己肯定と自己否定のグラデーション

みなさんこんにちは
けんこうなほうし(@Kenkouna_Houshi)という妙な名前の者です。

インサイドヘッド2を観に行ったので感想を書いていきたいと思います。



なるべく物語の進行に関してはぼかしてますが、全部観た前提で書いていきますので、まだ観ていないかたは視聴の上ご一度ください。

今月はヒロアカの映画感想も書いたのでぜひに。

ディズニー・ピクサーの映画は2014年の『アナと雪の女王』以来の映画館で観ました。
え、アナ雪って10年前・・・。
久しぶりのシンデレラ城の画質が綺麗すぎてビビりました。

ざっと感想

正直うるっと来ました。やっぱ涙腺緩くなってんな、わし。
大人の方が来るものがあると思います。
子供はポカンって感じでした。ヨロコビたちの冒険が楽しい感じに見えるかも。
騒がしくはなかったですが、エンディングくらいで我慢の限界なのかキッズが若干暴れてました。
ライリーと同じで現在進行形思春期の子供にはまだわからないかなぁという印象です。
もしくは「私も同じ気持ちだぁ」ってなるかもですね。
あと国語の小説の読解の基礎を学びたい人にもお勧めです。

インサイドヘッド2(原題:Inside Out 2)あらすじ

主人公の少女ライリーは前作から2年経過し、すくすく良い子に育ちました
そんなライリーはとうとう高校進学を控える年齢に
アイスホッケーの試合で優勝し喜びも束の間、
名門高校のコーチからアイスホッケーキャンプに招待されることになりました
キャンプでいい成績を残せば高校の推薦も取れるかも知れない・・・
様々な期待と不安が押し寄せる中、脳内に新たな感情がやってくるーーー
そうシンパイイイナーハズカシダリィだ。

邦題は「頭の中から」的な感じですね。
原題は「中からアウトプット」というニュアンスなのかしら。

日本の漫画の『はららく細胞』のディズニー版みたいなものと思ってください。
まさに『はたらく感情』的な感じです。
主要な感情以外にもモブっぽい感情もちょこまか仕事をしています。
※ライリーの年齢はが13歳で高校進学の年齢が一致してなくて調べてみたのですが、アメリカの学校の制度によると14歳から高校生らしいですね。一つ賢くなりました。

『物語』における心のメカニズム

国語の小説文を教える時の定番の読解法を紹介します
この『インサイドヘッド2』は国語の物語の読解の非常にありがたい手助けになります。

小説や物語文で登場人物の心情の流れは以下の通りとなっています
1できごと・きっかけ:外界からの刺激や他人の言動を受け取る(他人のマウスピースを口に入れた)
2心情・感情:脳内で1に対して感情が生まれる(ムカムカな不快感になる)
3発言・行動:2の感情を言動に表す(マウスピースをオエっと吐き出す)

小説家は上記の流れの描く順番を入れ替えて表現する

登場人物がなぜそんな行動(3)をとったのかを知りたかったら、心情(2)を探せばいい。
どうしてそんな心情(2)になったのかを知りたかったら、きっかけ(1)を読み取れば良いんですよね。
心情の読解問題が苦手なときはこの順番に沿って手がかりとなる文を探していきます。
行間や文脈から察するのはその先。

人間はそんな単純はじゃない!と怒る人がいますが、あくまで物語における人物の心情の動きですからね。

小説家も上のテンプレ通りに描いているわけではなく、
登場人物の心を風景として表現したり
敢えて心情語を出さないなど、工夫がなされています。
だから小説の読解が苦手な人が多いんでしょうね。

劇中においてライリーの目や耳から受けた情報を司令部のようなところ(脳内?)にて
擬人化された感情たちが制御パネルでライリーを操作という、まさに物語文における心情の流れをジャストヒットで表現してくれてて面白かったです。

キャラクターの感想

ヨロコビ (Joy) CV小清水亜美
本作の主人公。
嬉しさ・楽しさなど人をポジティブにさせる感情。
彼女の制御が暴走するとシリアスな場面でもおちゃらけたり、悪ふざけや騒いでしまうので良い面と悪い面の二面性が描かれてました。
楽観主義が突き抜けると無計画さ、のんきに見えますよね。
ただ、彼女が落ち込んだら誰もライリーを前向きに出来ないのも事実。

YouTubeの感想コメントも見ていると、「ヨコロビの癖に悲しむ?よくわからん」系のコメントが多かったです。
髪型に注目。実はカナシミと同じ髪質なんです。
ヨロコビがいるからカナシミがいる。
カナシミがいるからヨロコビがいる。
人間って嬉しいけど悲しい、悲しいけど嬉しいみたいなグラデーションな感情がありますよね。
表裏一体どちらが欠けてダメな関係です。
そんなこんなで彼女がライリーの脳内のリーダーポジションです。

カナシミ (Sadness) CV大竹しのぶ
ヨロコビとは戦友のような関係になっていて今作はちゃんとヨロコビに辛辣なことを言うようになりましたね。ちょっと前向きになっていた。
暴走して悲しむんじゃなくて、ちゃんと人知れず悲しむようになっていて、こうやって大人になっていくんだろうなと。

あとなんかプニプニで可愛かった。
大竹しのぶさんの演技がすごかった。肉子ちゃんって映画も観ましたが俳優さんのアニメに出た時の独特なうまさって感じがしました。

イカリ (Anger)CV浦山 迅
言わずと知れた怒りやイライラを司る感情。
瞬間的に激昂するからいらぬ一言を言っちゃう。
面白いポイントは謝らないこと。ヨロコビに謝ってないの見逃さなかったゾ。
怒りってムカムカや嫌悪がトリガーで解決しようとしている防衛反応だと思います。
だから謝らない。でもちゃんとヨロコビに協力的なんですよね。

ムカムカ (Disgust)CV小松 由佳
嫌悪・不快感を司る感情。ライリーの嫌いなブロッコリーがモチーフ。
基本イライラしてますが、好き嫌いの感情もハッキリしています。
外界の刺激に対する違和感への感知に長けている感情ですね。
他人の言動の違いにいち早く気づくあたりゲームデバッガーに向いてますよ。
ゲームのキャラにガチ恋してたりかわいいとこあります。
ヨロコビの服をぱっぱと払ってあげたり、気遣いもできます。
不快を司るからこそ、身だしなみや綺麗にしようとする行動に出るんでしょうね。

ビビリ (Fear)CV落合 弘治
起きてしまった現象に対して、防衛反応を起こす感情。
見た目のモチーフは神経であるように、知覚した現象に対して瞬間的に反応するため、事前予測は苦手な模様。
とはいえパラシュートを持ち合わせたりと用意周到。

シンパイ(Anxiety)CV多部 未華子
今作の新キャラであり第二の主人公。思春期に突如やってきた感情。
起きる前の現象に対して、心配して予測計画を立てて思考や行動をさせる感情。
予測を立てたり時間管理や計画立案が最強ではあるものの、暴走すると思考がめちゃくちゃになる。
ビビリとは似て非なる感情なのがわかりますね。

ネガティヴ思考が加速して悪い想像ばかりになるのもリアル。
初期メンバーが本能的な感情であるから、シンパイがうまく舵取りができれば理性的な感情になるんでしょうね。

個人的に私は心配性なのでコイツかぁ!コイツがワシの心配を制御しとるんかぁ!となりました。

続編という性質上、後付け感情だから今までお母さんとお父さんたちの「シンパイ」はなんで前作に出なかった?と思いましたがエンディングで判明。
上手い落とし所と思いましたね。
こちらはゲスト声優さんでしたが、ドラマでは聞かないようなハスキーなアニメ声でビビリました。正直スタッフロールで気づきました。

イイナー(Envy)CV花澤 香菜
新たな感情の一人。「嫉妬」の感情。
色んな人や価値観に触れて生まれてくる感情ですね。
ぴえん🥺みたいな顔で可愛い。
花澤さんの担当してるキャラってゆるふわ清楚とか不思議ちゃんぽい演技ですが、イイナーはダミ声でイメージと良い意味で違っていてすごかった。声優ってすごい。

ハズカシ(Embarrassment)CVマヂカルラブリー村上
「羞恥心」の感情。ずんぐりむっくりで可愛い。
基本唸ってるだけでしたが、ナイスアシストでした。

こちらはお笑い芸人の方が担当。M1チャンピオン。
野田クリスタル氏は出てないよー。
トイストーリーやモンスターズインクしかりディズニーピクサーのお笑い芸人さんのキャスティングすごいですよね。
棒読み演技にならないように指導も厳しいのかしら。

ダリィ(Ennui)CV坂本 真綾
「倦怠感」の感情。カタカナ語でいうアンニュイってやつですね。
皮肉ったり、素っ気ない表現はこの人がリモート操作しているから。
シニカルな感じで、この感情とイカリがコラボしたら「お母さんヒス構文」が爆誕するのかしら。
ちょっと後ろから俯瞰している感じ。リモコン操作でガジェットに詳しそう。

この感情も良い方向に進めば、「効率化」や「問題解決」の原動力になりそうですよね。
ダルイから時短を考えたり、無駄を省こうとする。
エンジニアに向いてそうな感情。
Excelいじってるときこの感情がフル稼働します。

CVはFFのライトニングやガンダムSEEDのルナマリア役の人。
クールで怠惰な演技で素敵でした。

ライリーCV横溝 菜帆
感情たちの本体。
友人との喧嘩・葛藤・皮肉・自分らしさとは何か、と人間誰もが通る思春期特有の苦しさを絶賛で味わっています。
根は良い子ではありますが、失敗もするし嫌味も言っちゃう。
打算的なところも見せて一面的じゃない等身大の子どもとして描かれていました。
しかもそれが一貫性がない子どもに見えず、思春期の感情が揺れ動いて苦しんでいるマーブル模様なキャラクター性で良かったです。
ピクサーといえば、虫・車・おもちゃ・ロボット・火・ウサギみたいな擬人化キャラが多いですが、リアルな人間の生活が主流なのも目新しいですね。
担当声優さんは16歳の高校生だそうで、思春期特有の等身大な演技で良かったです。

物語の感想


物語自体に壮大な動きはなく、現実世界換算で三日間前後の出来事となっています。
でも、思春期の子供にとって新しいできごとは壮大で複雑なことでいっぱいですよね。
無駄な時間がなく、常に次の展開に移っていきます。
ディズニー特有のミュージカルもないのでテンポがいいです。

思春期特有の暴走がよく描かれている

ライリーの脳内制御パネルが思春期スイッチによってぶっ壊れた表現は面白いですね。
ちょっとしたヨロコビではしゃぎすぎたり、自分の体臭を過剰に気にしすぎたり、ブチギレたり泣いたりと感情の起伏が激しくなる。
お母さんの脳内ちょっと悟ってて笑いました。
お父さんがおどけてましたけど、そういうのもキレられるんでしょうね。
これが他の子だったら厨二病になったり、いじめっ子になったり、反抗し始めるんでしょうね。
そういった苦しさや他人との価値観を通して成長して幼少期にはない自分らしさを手に入れていくんでしょう。

私は6年塾講師をしており、何百人と思春期生徒の対応をしてきたのでよくわかります。
ヨロコビたちを押し殺している子もいれば、すぐブチギレる子、成績が上がらず癇癪を上げる子、悩みが溢れて心配で質問ばかりする子、いろんな生徒を観てきました。
そんな中で他者とのやりとりを通して成長していきます。
自分は頑張れ少年少女!とオールマイト的な感じで温かい目で見守ってはいましたね。

感情だけでは肉体は制御しきれない

途中、ライリーが眠れなくなるシーンがありますがシンパイの制御があまり効かなくなっているところがありますね。
感情の制御によって動くわけではなく、肉体的本能的に言うことを聞かない感じはちゃんとリアルな人間の感情を表現していると思います。

本作にヴィランはいない。みんなライリーの味方だけど・・・。

結局、感情たち全員はライリーのためを思って行動しているんですよね。
お互いがお互いの役割を遂行しようとするあまり、他の感情や記憶が邪魔になって閉じ込めようとする。
このせいで行動が意味不明になったり「自分らしさ」がわからなくなって思春期特有のイライラやモヤモヤになっていきます。

ヨロコビたちの罪:目の前の問題から逃げる楽観主義

ヨロコビたちは序盤にいらないと思った記憶を断捨離的に吹っ飛ばしていました。
これって自分にフタをしているというか、後回しにしている表現ですよね。
辛いことは忘れてパーっとしましょうや的な、問題の先延ばし。
目の前の辛いことには目を背けてしまう。
感情の防衛機構ではあると思います。
そして都合の良い記憶だけを残して「自分は良い子」と思い込む、
自分を追い込む。
結局これが後々に響いているので、伏線としても人間の感情としても納得です。
ヨロコビたちが良い奴というわけではない表現をしているのは賛否両論ポイントには見えます。

ヨロコビが諦めた世界

今作は何度かヨロコビがくじけてしまいます
そう、ヨロコビだって絶望するんですよね。
ヨロコビが悲しむシーンも良かったです。
ちゃんと弱音をみんなに言うところが根は良い子なライリーの感情らしいですね。

まさに

ヨロコビィス「悪い やっぱ辛えわ」
イカリオラス「ちゃんと言えたじゃねえか」

みんなヨロコビの味方であり、ライリーの味方だから寄り添ってくれたのは尊かった。

もしヨロコビが絶望して彼女が居なくなったら・・・

精神疾患や辛い行動をしていくのでしょう。
ブラック企業で働く人を主役にした『インサイドヘッド:ブラック』とかあったらゼッタイ観たいですが、子どもは泣きそう。

シンパイの暴走

シンパイが暴走して高速移動し始めたときは笑いましたが、

ライリーは過呼吸に。

ここの表現リアルだったなぁ。
私は大学受験全滅で浪人確定したときあんな感じでした。

シンパイが泣いてしまうところでちょっとうるっときました。
なんやかんやコイツもライリーのことが心配だから動いてくれてたんですよね。

最後はヨロコビが制御

最後のアイスホッケーではヨロコビが制御したということは、楽しんでいたんでしょう。
ここは本当に泣けました。
自分は9年バンド活動してましたが、心の底から楽しんで音楽をしていたのって9年間で数回くらいしかなかったんですよね。
結局もう音楽はやってませんけど。
巧拙だったり、チケットの売り上げだったり、誰かを喜ばせなきゃとかバンドメンバーの想いとか、軽音楽部のTwitter広告運用だったり、大会のプレッシャーとかで全然楽しくなかったんですよ。
思い出のライブって何にも考えずに楽しんでたんですよね。
上手い下手とか関係なくみんなが笑顔でやりたい曲を演奏していたときのあの感じ。
なんか思い出しちゃった。ありがとうライリー。
私もシンパイが暴走してたんだな。

自己肯定感と自己否定、全部自分なのだ

幼少期のライリーにとっての「自分らしさ」は「私は良い子」というもの。ある種自己肯定感のようなものでしょう。

それが自分らしさを作っていきましたが、シンパイたちが突貫工事で作って出来上がったのが「私はダメだ。」という自己否定。

でもどっちも偏ってたらダメ。

失敗する自分も。いらんこと言う自分も。暴走する自分も。
友人想いの自分も。成績の良い自分も。
全部ライリーなんですよね。
自分らしさなんて一つじゃなくてグラデーションの中で咲く花なのでしょう

感情たち全員で「自分らしさの花」をハグしたシーンも泣けました。
本当にライリーのことが大好きなんですよね。

テーマソングSEKAI NO OWARI『プレゼント』

歌詞が良かった。

エンディングは最後まで観た方がヒミツがある

ピクサー特有の最後まで観てくれたおまけがちょっとあるので帰るのは待ちましょう。

残念ポイント:日本語のクソダサフォント

ずっと気になってはいるんですけど、なぜディズニー系列の日本語訳テキストフォントあんなにダサいのでしょう。

自分が小さい頃からこれは一貫して同じ感想です。
子供にも読みやすい字にしているのかわかりませんが、年の離れた妹も小学生のときに酷評してたからあんまり関係ないのか。フォントの会社と提携を結んでいるから仕方がないのか。
逆にそれ以外の不満点はないですね。さすがです。良い物語を見させていただきました。

終わりに

擬人化系をやらせたら天下一品のピクサーの続編。
ライリー自身のお話はこじんまりとしてはいるものの、脳内では壮大なストーリーが繰り広げられており観ていて飽きることなく90分が過ぎました。

自分の脳内の感情たちよ、仲良く私を制御してくれよな。
ではでは!読んでいただきありがとうございました!

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