見出し画像

下山進『2050年のメディア』

※2020年2月10日にCharlieInTheFogで公開した記事「見た・聴いた・読んだ 2020.2.3-9」(元リンク)から、本書に関する部分を抜粋して転載したものです。


 マス・メディアの未来を論じる書籍は大量にあり、その大半は業界の状況をすっ飛ばして好き勝手なことを言っている場合が多いイメージがありました。なので「2050年のメディア」という書名から同じような印象を持って手にとって見たところ、内容は、過去20年ほどの間の、大手新聞社やヤフーのニュースサイトを巡る軌跡をたどったノンフィクションで、読み応え十分です。

 ジャーナリズムのノンフィクションは編集面に焦点が当たりがちですが、本書が焦点を当てるのはむしろ販売店との関係、ヤフーのビジネスモデルといった営業面、そしてニュースサイト上の記事見出しの無断使用が不法行為かどうかが争われた「YOL訴訟」(YOL=ヨミウリ・オンライン)といった法務・契約面です。

 現在読売新聞グループ本社の社長である山口寿一がキーパーソンとして描かれます。デジタル化では後れを取っている印象のある読売から、この話題の重要人物が登場するのは意外でした。しかし新聞社がウェブでニュースを伝えるようになった黎明期には、朝夕刊発行のタイミングで更新する他社とは違い、リアルタイムに記事を出していくスタイルをいち早く導入しており、ヤフーの転載も読売が多かったそうです。そんな読売のデジタル戦略がその後どのように変化し、現在の閉鎖的な「読売新聞オンライン」になるのかまでが丹念に取材されています。ここに焦点を当てた類書はないのではないかと思います。章末には取材協力者や参考文献がクレジットされ、週刊文春出身の著者の取材力が垣間見えます。

 読売の他にも、日経、ヤフー、そして共同通信の4社を中心に、ヤフーのニュースサイトだけでなく、あらたにす、47NEWS、日経電子版などの開設と展開の舞台裏が描かれます。この点、デジタル化に熱心なイメージのある朝日新聞が後景に退くのも面白いですし、ネット言論への影響が指摘される産経ニュースへの言及もほぼありません。しかし読んでいくとなるほど、この4社がネットのニュース報道の在り方を動かしてきたことが納得できます。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?