ココナツ・チャーリイ

映画レビュー、ブックレビュー、新聞流通研究の3本柱で記事を書いています。 2023年7…

ココナツ・チャーリイ

映画レビュー、ブックレビュー、新聞流通研究の3本柱で記事を書いています。 2023年7月まで更新していたブログ「CharlieInTheFog」(http://charlieinthefog.com/)から、記事を順次移行中です。 大阪在住、20代。

マガジン

  • ブックレビュー

    本の感想です。社会科学系の本が中心です。

  • 報道記録

    各社によって微妙に異なるニュースの内容や用語・表現を比較し、記録したものです。

  • 新聞流通研究

    新聞の版建てや流通に関する記事を中心に、新聞に関することをまとめています。

  • 映画レビュー

    見た映画の感想です。ミニシアター系が中心です。

  • 映画の顔

    私にとって映画を見る喜びの一つは、「いい顔」が見られることです。普段まざまざと他人の顔を見ることははばかられるし、たとえ親密な間柄の人を前にしたとて、顔を捉えることは得意ではない。でも映画を見ている間は、ほんらい人が持っている「顔」の魅力を、公然と浴びることができます。不定期連載で、映画の印象的な「顔」について書きます。

最近の記事

  • 固定された記事

「80年 躍進する敦賀」は今 賀春CMの企業を見に行く

 YouTubeには古いCMの録画がたくさん投稿されていますが、最近目にした動画の中でもひときわ、珍しいと感じるものがありました。  内容はいずれも、敦賀市関連企業による賀春のあいさつ。登場するのは各企業の幹部。アナウンサーではありませんから、どうも喋りがたどたどしく、これが今となっては趣の深い映像になっています。  果たしてこれらの企業は今もあるのだろうか――。今回は、回数が余っている青春18きっぷを使って敦賀を訪ね、「80年 躍進する敦賀」に登場した各企業が今どうなっ

    • 春日太一著『鬼の筆』

      (文藝春秋、2023年)  脚本家橋本忍や関係者に対する長年の取材と、多数の資料に基づいた480ページの評伝。  橋本は多作の人だが、私が鑑賞したことのある映画は『羅生門』(1950)『生きる』(1952)『生きものの記録』(1955)『日本のいちばん長い日』(1967)『日本沈没』(1973)『八甲田山』(1977)の6作。いずれも社会批判を含んだ物語である。  しかし著者のインタビューで、冤罪事件を題材とした『真昼の暗黒』(1956)について問われた橋本は「作る基本

      • 映画『空に聞く』評/「後になってからわかる」までの時間

        (小森はるか監督/2018年/日本/73分/カラー/ビスタ)  東日本大震災後の岩手県陸前高田市で、2018年まで運営されていた臨時災害放送局「陸前高田災害FM」で、2015年までパーソナリティーを務めた阿部裕美さんを主人公とするドキュメンタリーだ。  阿部さんの自宅のシーン。画面右側にテレビ台、左端に部屋の扉がそれぞれ半端に映り、その間に、陶器でできた人形や犬の置物がほんの小さな白い台に載っている。テレビ台のほうには高齢の男女の写真が立て掛けられていて、その前に菓子とビ

        • 映画『夜明けのすべて』における職場についての書き残し

           三宅唱監督作品『夜明けのすべて』(2024)については、すでに記事を書いているが、書き残していたことをあらためて記しておきたい。そこでは、三宅のフィルモグラフィーを背景に思ったことを書いたので、省いたことがあった。  公開以来、幾度となく劇場で見たが、少し間がたったゴールデンウイーク中に、帰省中の知人と一緒に京都・出町座で見るという機会があった。その知人はこの種の映画をもともと見るようなタイプではないので、解説を求められ、その際に話した内容を中心に書き残しておきたい。

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        「80年 躍進する敦賀」は今 賀春CMの企業を見に行く

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        記事

          『こわれゆく女』『ラヴ・ストリームス』~早稲田松竹「ジョン・カサヴェテス特集」から

          『こわれゆく女』(ジョン・カサヴェテス監督/1974年/アメリカ/147分/カラー/ビスタ)  カメラのピントがずれようがカットがつながっていなかろうが、問題とはしない。そういう態度で撮影され、編集されるからこそ、俳優とカメラとの相克がそのまま、映画内世界における人物と空間との相克として、観客に受け止められる。ピントのズレは空間の不安を意味し、唐突なカットの切り替わりは空間の混乱を表す。  しかし圧力は必ず開放路を(ときに暴力的に)こじ開けるものである。(ここで「水は低い

          『こわれゆく女』『ラヴ・ストリームス』~早稲田松竹「ジョン・カサヴェテス特集」から

          映画『悪は存在しない』評/”半矢”は逃げる力を失う

          (濱口竜介監督/2023年/106分/日本/カラー/ヨーロピアン・ビスタ)  印象的なセリフを2つ挙げたい。  グランピング場建設計画の住民説明会を前に、事業者への不信感むき出しの青年に、町の区長・駿河(田村泰二郎)が諭すように言う「避けられるけんかはするなよ」というセリフ。  そして、別の場面で、町の“便利屋”巧(大美賀均)が言う「逃げる力がなければ、戦うかもしれない」である。巧は、建設予定地が鹿の通り道であることを、事業主体の社員・黛(渋谷采郁)に話す。鹿は人を襲う

          映画『悪は存在しない』評/”半矢”は逃げる力を失う

          映画『君の名前で僕を呼んで』/鮮烈なオープニング、ショット、音楽

          (ルカ・グァダニーノ監督/2017年/イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ/132分/原題 "Call Me By Your Name")  さまざまな裸像彫刻の写真を背景に、黄色い走り書きのキャストクレジットが画面に映り、ジョン・アダムスの『ハレルヤ・ジャンクション第1楽章』が流れる。鮮烈な印象を刻み付けて始まるオープニングがカッコいい。所在無き知性と性的欲求に満ち溢れた少年がこれから迎えようとする動揺の季節を、予告している。  1983年の夏を、17歳のエリオ(ティ

          映画『君の名前で僕を呼んで』/鮮烈なオープニング、ショット、音楽

          映画『成功したオタク』

          (オ・セヨン監督/2021年/韓国/85分/カラー)  韓国では、2019年頃から男性のトップアイドルによる性犯罪が立て続けに明るみになり大きな社会問題になったそうだ。当時のニュース記事をネットで拾ってみたが、性的暴行や売春斡旋、性行為の盗撮動画の拡散など、ひどい話が次々に出てくる。  このドキュメンタリー映画の監督や登場人物たちは、そうしたアイドルたちをかつて「推し」ていた女性たちである。  アイドル本人が手を下した悪質極まりない犯行であり、事件報道が、彼らを「推し」

          映画『成功したオタク』

          映画『オッペンハイマー』評/「区分」が揺れる世界

           「区分化」というキーワードが頻出する。原爆開発に関する情報を、それぞれの当事者がどの範囲に共有するかは「区分化」されなければならないと軍人は言う。科学者はそれを守ったり守らなかったりする。  区分をどこに見出すかを巡っても対立は起こる。ファシズムの前ではソ連もアメリカの仲間なのか、共産主義である以上は彼我は区別するのか。簡単に割り切れるものではなく、変化し得て曖昧である。  本作のハイライトの一つである核実験のシーン。大気に引火して終わりなき連鎖反応を引き起こす可能性は

          映画『オッペンハイマー』評/「区分」が揺れる世界

          映画の顔(1)/『きみの鳥はうたえる』

           1時間5分15秒頃。喫茶店を出てどこかへ向かう佐知子(石橋静河)の、表情の不安定さがすごく良い。落ち着かなさの一方で、風を正面に受けて額が広く見えている。嬉し恥ずかしの早歩きは、親しい男との出会い直しに向かう道。可能性に開かれた人の表情だ。  1時間9分45秒頃からのカラオケのシーン。しばらく佐知子に焦点が当たったあと、ショットが変わり静雄(染谷将太)にピントが当たってからは、静雄の鼻筋を境に、顔の左右に異なる色の照明が当てられる。これまでの世界と、これからの世界の境目か

          映画の顔(1)/『きみの鳥はうたえる』

          『悪は存在しない』と『GIFT』(ロームシアター京都ライブレポ)

           音楽家石橋英子が、ライブ・パフォーマンス用の映像制作を映画監督濱口竜介に依頼し、その過程ででき上がった映画が、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を獲った106分のトーキー『悪は存在しない』(4月26日劇場公開予定)であるが、元の石橋の依頼に応える形で作られた「シアター・ピース」が、74分の無声中編『GIFT』である。  この『GIFT』のライブ・パフォーマンスは、国内では昨年11月23日の東京フィルメックスでしか行われていなかったが、2月24日、ロームシアター京都ノースホールで

          『悪は存在しない』と『GIFT』(ロームシアター京都ライブレポ)

          平尾昌宏著『人間関係ってどういう関係?』

           ずっと「親友」が「友人」の一類型として位置づけられることに、なんとなくモヤモヤしてきた。  例えば、異性の親友との会話の中で「私たちって絶対彼氏彼女にはならないよね」というセリフを聞いたとき、みんなはどう受け止めるのだろう。私も何人かから言われたことがあるが、正直少し淋しい気持ちになる。別に付き合う気などさらさらなくても、である。  2人の親密さを形容する言葉として発せられていることは十分理解できる。そのこと自体はありがたい。「恋人」かそうでないかの間に大きな一線が引か

          平尾昌宏著『人間関係ってどういう関係?』

          映画『夜明けのすべて』評/「一時の幸福」を超え、三宅唱監督は新たな時間世界を描出した

           これまでの三宅唱監督作品に映る幸福な時間は、永遠に続くことのない一時の祝祭的な時間でもあった。  『きみの鳥はうたえる』(2018年)の「僕」、佐知子、静雄の3人の享楽的な時間の終焉。『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)でケイコの寄る辺となってきた老舗ジムの閉鎖。スクリーンに映る素晴らしき時間は、常に終焉を示唆する緊張感も漂わせていた。  三宅映画に感動しながらも、どこかで寂しさを覚えるのはこの点による。束の間の幸福な時間が、のちの人生を支えるのであろうことは示唆され

          映画『夜明けのすべて』評/「一時の幸福」を超え、三宅唱監督は新たな時間世界を描出した

          映画『熱のあとに』評/予想もしなかった人生にある悲惨と希望

           愛したホストを刺した女の6年後の話と聴けば、狂気や激情をイメージするが、この映画はそういう作品ではない。むしろ自らの理性に従って信じるものを信じ貫いた結果そうなってしまったのが、主人公・沙苗(橋本愛)であった。  彼女にとって、生きることすら絶対ではなかった。木野花演じる精神科医に「全てを捧げるからこそ愛は永久不滅で、そのほかは愛に近いもの」と語る一方で「当時の自分にとって、生きることと死ぬことはそこまで変わらなかった」ともいう。だから愛の形が、生によるものか死によるもの

          映画『熱のあとに』評/予想もしなかった人生にある悲惨と希望

          映画『春原さんのうた』評/風と湿度が同居するショットに生を見る

           モノローグはおろか説明ゼリフも一切ないショットの連なりは、まさに「映像詩」の名に相応しい。じっくり見ていく中で、主人公が喪失を受け止めようとしていく過程にあることが分かる。  ハッとさせられるショットがいくつかあるが、白眉は真っ暗な部屋で眠っていた主人公が起き上がるところだ。白い枕の沈み込みに、間違いなく主人公が「生きている」という実感が表れる。まるで体温までスクリーンから伝わってくるような、力を持ったショットだった。  その部屋がフェリーの船室であることが後でわかる。

          映画『春原さんのうた』評/風と湿度が同居するショットに生を見る

          現在の震災が直接の当事者ではない人のために ~外岡秀俊著『地震と社会 「阪神大震災」記』の薦め

           元日に発生した能登半島地震から1週間がたちました。被災された方はもちろんのこと、遠隔地の方でも、親類縁者が北陸にいる、職務等で災害対応に当たっているなどの事情がある方は、身に迫る心配の多い日々を過ごされていると思います。  一方で、今回の地震災害と特に具体的な関わりはない方の中にも、日々の報道を見るなかで、不安や葛藤状態になっている方もいらっしゃるかもしれません。  私は被災経験はありませんが、阪神・淡路大震災を経験した方々と関わる機会を大学時代に得て以来、毎年1月17

          現在の震災が直接の当事者ではない人のために ~外岡秀俊著『地震と社会 「阪神大震災」記』の薦め