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《焼酎vsウイスキー》蒸溜器の最大の相違点=材質の違い 『ニッカ・ザ・グレーン』⑦

■「ニッカ・ザ・グレーン」について解説する7回目です。

・ニッカウイスキーがチャレンジングな商品を限定発売する、ニッカ・ディスカバリー・シリーズ《第三弾》で、2023年3月、「ニッカ・ザ・グレーン」が発売された。

・これは複数のグレーン蒸溜所の原酒をブレンドした「ブレンディッド・グレーンウイスキー」であり、非常に珍しいスペック。

◇ニッカ・ザ・グレーン 4蒸溜所/7原酒

《蒸溜所1》ニッカ・宮城峡蒸溜所
 ①宮城峡カフェモルト
 ②宮城峡カフェグレーン

《蒸溜所2》ニッカ 旧・西宮蒸溜所
 ③西宮カフェモルト
 ④西宮カフェグレーン

《蒸溜所3》さつま司蒸溜蔵
 ⑤未発芽大麦グレーン
 ⑥コーン&ライ・グレーン

《蒸溜所4》ニッカウイスキー門司工場
 ⑦未発芽大麦グレーン

前回は、蒸溜所③④の焼酎の蔵元でのウイスキーづくりについて、「焼酎もウイスキーも同じ蒸溜酒なので、焼酎用の単式蒸溜器でも、(できあがる酒質は別として)ウイスキーをつくれますよ」という話をさせていただきました。

今回は、そうはいうものの「焼酎用とウイスキー用の蒸溜器の違い」についてご説明します。


■焼酎の『単式蒸溜器』とウイスキーの『ポットスチル』との違い

この2つの相違点は、ざっくり以下の通りだと思います。

①    蒸溜器の材質
②    焼酎では減圧蒸溜も可能
③    加熱方式

①の「蒸留器の材質の違い」についてご紹介します。


■《焼酎vsウイスキー》蒸溜器の材質の違い

《ウイスキー》 → 銅
《焼酎》    → ステンレス

【山崎蒸溜所のポットスチル】
【三和酒類(いいちこ)日田蒸留所の蒸溜器】
※ 三和酒類HPより引用

日田蒸留所 | 施設紹介 | 三和酒類株式会社 (sanwa-shurui.co.jp)

こうして写真で比べると、すごく似ていますね!

ウイスキーの蒸溜の最中、銅は、ウイスキー成分のうち嫌な香りがする硫黄化合物(温泉地の香り)と反応して、その「嫌な香りを取り除く」役割を果たします。
また、銅を触媒にして「様々な香りの成分」が誕生するとも言われています。

そのため、焼酎のステンレス製の単式蒸溜器を転用してモルトウイスキーづくりをはじめる場合、その焼酎の単式蒸溜器内に「銅の板」などを追加設置するケースが、結構あります。

ただ、今回の「さつま司蒸溜蔵」「門司工場」での焼酎蒸留器でのグレーンウイスキーづくりでは、そのような「銅材の追加加工」をしたという情報には接していません。
なので、焼酎の単式蒸溜器をそのまま使用していると思われます。

ただひょっとしたら、これから焼酎の単式蒸溜器でつくられてグレーンウイスキー原酒が、長期熟成されて仕上がっていく中で、

「味わいの中に微妙に嫌な香り(オフフレーバー)が残っているなぁ。やっぱり銅がいるんじゃね?」

という話になるかも知れません。

逆に、

「敢えて銅を使わないことによって、原料素材本来の味わいが感じられるグレーンウイスキーをつくることができた!」

となるかも知れません。

どういう評価になるか楽しみですね!


■焼酎の蒸溜器

ウイスキーの蒸溜器が銅なのは、今も昔も変わりません。
銅が加工しやすい柔らかい金属だったので、当初からポットスチルは銅で作られていました。
その後、実はその銅は「ウイスキー原酒を美味しくする効果もあった」ことが判明して、そのまま現在もウイスキー用の蒸溜器(ポットスチル)は銅なのです。

一方で、焼酎の蒸溜器が「ステンレス製」なのは、最近の話であり、昔は「木製」の蒸溜器でした。

木製の蒸溜器と書くとイメージがわかないかも知れませんが、簡単に言うと大きな『蒸し器』です。

シューマイとか小籠包が提供されるときに、それを入れている

蒸し籠 =   セイロ

をイメージしてもらうと良いかと思います。

「セイロ」では『水蒸気』が下から上へ上がるわけですが、それが水蒸気でなく『アルコール蒸気』へ置き換わると、焼酎の蒸溜です。

ただ、アルコール蒸気は冷やして、液体に変えないとアルコールが飛んで行ってしまいますから、蒸し籠の「フタ」部分を『水を入れたお盆』にしています。

そうすると、日本古来の旧式の「木製の焼酎の蒸溜器」となるわけです。

この日本古来の焼酎の蒸溜器を『兜釜(かぶとがま)蒸溜器』と言います。

シューマイの「蒸し籠」の上に「中華鍋」が乗っかっているような見た目です。
この中華鍋が、兜っぽく見えるので、「兜釜蒸溜器」と呼ぶわけです。


■兜釜蒸溜器

この日本古来の兜釜蒸溜器をつかっているのは、国内で7~8社程度しかありません。
そして、焼酎以外で、この兜釜蒸溜器をつかっているのは、岐阜県郡上市でジンやアブサンをつくっているアルケミエ辰巳蒸溜所のみのようです。

郡上の発酵をめぐる!miyamoto夫婦旅「アルケミエ辰巳蒸溜所」【TABITABI郡上】 (tabitabigujo.com)

【兜釜蒸溜器】
※ TABITABI郡上の「辰巳蒸溜所」の記事から写真を引用

アルケミエ辰巳蒸溜所のクラフトジンやアブサンは人気で、なかなか手に入りません。

そして、この兜釜蒸溜器は、一人で操作できるサイズ感のため、「誰が蒸溜した」という職人レベルまで、商品のスペックをアピールすることが可能になります。

「日本古来の蒸溜器」
×
「職人レベルまでの商品訴求が可能」

なんか、可能性を感じますね。
兜釜蒸溜器で、ウイスキーをつくれないかな??


■兜式蒸溜器の流れを汲む蒸溜器

この「蒸し器」的な蒸溜器の流れを汲むのが、「正調粕取焼酎」の蒸溜器です。

粕取焼酎(ざっくりいうと米焼酎の仲間)は、製法によって大きく2つに分かれます。

※ 酒粕を原料に使う『粕取焼酎』と、戦後のモノがない動乱期に「闇市」で売られていた粗悪な密造酒の俗称『カストリ』は、まったく別物です!

◇粕取焼酎

《正調粕取焼酎》
酒粕(固体)からつくる。
どちらかというと昔からの製法。

《吟醸粕取焼酎》
日本酒的なもの(液体=酒粕+水+酵母)からつくる。
どちらかというと新しい製法。

この2つのうちの「正調粕取焼酎」の蒸溜器も、『巨大な蒸し器』という感じなので、「兜釜蒸溜器」とルーツを一緒にするものだと思います。

【天鷹酒造の正調粕取焼酎の蒸溜器】
※ 正調粕取研究ノートより引用

はじめての蒸留現場-天鷹酒造訪問記|正調粕取研究ノート|note

日本のナショナル・スピリッツ=焼酎の中でも、一番歴史を持つと思われる粕取焼酎。

そして今では、イケているお洒落なクラフトジンでも、ベーススピリッツに粕取焼酎を使っているケースもあります!

酒粕を活用してジンを造るエシカル・スピリッツ─捨てられてしまうものから新たな価値を見出す【日本酒とサステナビリティ】 | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」 (sake-times.com)

粕取焼酎については、説明しだすとまたそれだけで、いくつもの記事になるので今回はこれにて終了!


■もはや・・・

もはや、ニッカ・ザ・グレーンの解説からかけ離れてきた気がしますね・・・

次回は、焼酎とウイスキーの「蒸溜器の違い」の素材以外の部分について、ご紹介します。

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