蒼音

歌人(塔) 日本酒醸造家 ジャズギタリスト 日本酒愛飲家 散歩愛好家 おっさん Xで毎…

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歌人(塔) 日本酒醸造家 ジャズギタリスト 日本酒愛飲家 散歩愛好家 おっさん Xで毎日一首素敵な短歌に「#蒼薔薇短歌」にて評を書いております。noteでは気が向いた時に長文を書きます。

最近の記事

第7回毎月短歌 2024年1月自選部門 結果発表および総括

2024年1月自選部門 本醸造酒賞(3席) 義父母からロンする時は深々と一礼してから裏ドラめくる/アゲとチクワ 「深々と一礼」しながらも、ちゃっかり「裏ドラ」を確認する行為にどこかユーモアがある。「義父母」との距離感が絶妙に伝わってくる。遠慮しているように見えて、実は仲が良いのだろう。どこか暖かい雰囲気も感じた。 2024年1月自選部門 吟醸酒賞(2席) 囚われてガラスの中をさらさらと落ちゆくことで時を生む砂/悠久 恐らくは砂時計のことを詠んでいるのだろう。それ

    • 第7回毎月短歌 テーマ詠「映画」部門 結果発表

      テーマ詠「映画」部門 本醸造酒賞(3席) 待ち合わせ場所まで駆けるヘプバーンみたいにふわり水たまり、跳ぶ/くらたか湖春 結句がいい。「水たまり」の後の読点、ここに一瞬の逡巡があることを思わせる。その瞬間、主体はヘプバーンになった。どこか陶酔感を持ってしまったことも、ここには表現したかったのかもしれない。 テーマ詠「映画」部門 吟醸酒賞(2席) 薄まったオレンジジュース飲む時にエンドロールをぼうっと見てる/カオルコ 「薄まった」ということは、氷が溶けてしまったということ。

      • 第7回毎月短歌 自由詠部門 結果発表

        自由詠部門 本醸造酒賞(3席) 本名を誰も知らないもの同士ゲストハウスは常夏だった/くらたか湖春 「常夏」には、文字通り夏の思い出として機能していながら、夏という一過性の季節を象徴的に表現しているようでもある。名前など知らなくても、偶然に「ゲストハウス」に集まった者同士、楽しく仲の良い時間を過ごしたのだろう。眩しい。 自由詠部門 吟醸酒賞(2席) 黒板に新米教師が書き綴る英文右肩上がりに伸びて/宇井モナミ 「右肩上がり」というクセ字に、「新米教師」の前のめり気味な気合を

        • 「塔」における鍵内鍵外についての持論

           2024年2月号の森山さんの誌面時評が話題になっていので、私も持論を書いてみようと思いました。題名の通り、塔の鍵内鍵外の話です。ちなみに、この文章は森山さんの誌面時評を否定するものでは無い、ということを始めに書いておきます。私もこの文章にとても心を動かされました。特に最後の一文。短歌を始めたばかりの頃の気持ちを忘れてはいけない、と思いました。ジャズギタリストのパット・マルティーノも、ギターを持って最初に鳴らした音のことを忘れてはいけない、と言っていました。芸術において、感動

        第7回毎月短歌 2024年1月自選部門 結果発表および総括

          蒼薔薇まとめ8

          じいちゃんが住む過疎の町あかあかと最終バスで夕陽を眺む/ねこねこ 過疎であろうが何であろうが、じいちゃんが住むというだけで、その町は尊い。あかあかと、には主体の想いと夕陽のひかりが込められている。夕陽に沈む町を見ながら主体の去り難き心情が滲み、切ない。 わたくしは意見を持たず絶え間ない言葉の狭間で密かに生きる/ケンイチ 意見を持たず、とはいうものの本当の主体は意見を言いたいのだ。絶え間ない言葉の狭間、は意見の隙間さえないことを示唆する。それでも密かに生きることを選択し

          蒼薔薇まとめ8

          蒼薔薇まとめ7

          ゆとりではなく作られた空白に春の陽がさすスターバックス/天田銀河 カフェは人工的に作られたもの。それを余白と捉え、そこに春の陽が射すという取り合わせが光る一首。スタバにはやたらパソコンで忙しそうな人が多いのも、作られた余白であるからなのだろう。そこにゆとりは、ない。 冬の日の蜜柑の香りの満ち満ちて夕陽の色の小さき手のひら/ミウラ 蜜柑を食べすぎて色付いた手を夕陽と比喩する美しさ。まだ手にはさっき食べたばかりの蜜柑の香りが残っているのだろう。冬の寒い夕暮れを元気に遊ぶ

          蒼薔薇まとめ7

          蒼薔薇まとめ6

          夜も更けて進路に悩む娘の愚痴をつらつらと聴くつらつら答ふ/ぽつり 「つらつらと」ということは、もはや習慣化した愚痴なのだろう。それに答える主体の「つらつらと」は決していい加減なのではなく、敢えて合わせることで娘に気を使っているのだろう。「つらつらと」の対比が面白い歌だ。 迎え撃つつもりで覗く真夜中の望遠鏡の透きとおる闇/古河知尋 迎え撃つ、といわれると空に向く望遠鏡はまるで銃のようでもある。でもそれは純粋に宇宙への渇望から向けられたもの。透きとおる闇は、主体自身の奇麗な

          蒼薔薇まとめ6

          蒼薔薇まとめ5

          モンゴルに里帰りした力士らが家族とともに二胡を奏でる/涅槃Girl モンゴル力士は覚悟の上とはいえ、日本の文化習慣のなかで振舞わなければならない。そこから開放された力士の脱力感が歌から伝わる。家族と共に普段は見せない笑顔で弾く二胡は、きっと明るい音色なのだろう。 コンビニの温めますかの問いかけにいつも心をときめかせてる/本田葵 コンビニ店員とのしずかな恋なのだろう。問いかけにときめかす心は、何故かそれ以上の関係を求めているように感じない。アイドルとは本来そういうもの。

          蒼薔薇まとめ5

          蒼薔薇まとめ4

          ハゴロモのツナ缶を選るその指で僕のからだも弄もてあそぶのだ /404notF0816 ツナ缶はリーズナブル。それを選る指とは何と軽い指だろうか。しかし主体はそれをむしろ望んでいるように感じる。「のだ」による終止、「僕のからだ」という俯瞰。技巧の映える歌だ。 オイミャコンのこたつの中で世界一幸せそうにねむる猫たち/5.74ft 人間の頭は不思議なもので、寒さが逆に暖かさを連想させる。世界一寒い街ならばコタツの中は世界一幸せだろう。実景とは思えないが、むしろリアルに猫たち

          蒼薔薇まとめ4

          蒼薔薇まとめ その3

          私たちサンドウィッチの端っこで抱き締め合えるパンでいようよ/あきやま サンドウィッチの端っこ、という着眼点がいい。サンドウィッチとしては価値は低いかもしれないが、当人たちはそれでいいのだ。他人のうまくいってる恋愛には世間は案外興味を持っていない、という隠喩にもとれる。 液晶の向こうの人も生きていて保護シートまで気泡が届く/長井めも 今やウェブ上の世界の距離感は現実のそれを超えようとさえ感じる。そんな現実を揶揄したかのような一首。気泡という空気感がむしろその距離を隔てて

          蒼薔薇まとめ その3

          蒼薔薇まとめ その2

          垂直に上昇をして竹とんぼ悔しがるようゆっくり落ちる/てつぞう 竹とんぼという題材が既にノスタルジックなのだが、それが落ちていく光景を見つめる視点がいい。昇るときは垂直に勢いがあり、落ちるときはゆっくりと。過ぎゆく時代を惜しむように。悔しがる、という比喩も個性的だ。 初めて聴いた部屋のたたみのささくれを、ドルフィー、いつもてのひらに思い出してしまう/しま・しましま 8・7・5・12・9という大胆な字余り。エリック・ドルフィーの自由で大胆な旋律は定型には収まりきれないのだ

          蒼薔薇まとめ その2

          蒼薔薇まとめ その1

          鱗だと思う 壊れた人の世に震えて肌が零れるさまは/青藤木葉『あみもの37号』 鱗、それは魚の外皮。辛いとき、人は太古の記憶から海へと戻りたくなる。外見上のコンプレックスはいつしか自分を魚にすることで正常化しようとする。いやそうするしかない時もあるのだ。切ない。 朝マック食べたら今日を終わりたい そんな感じの春でよかった/街田青々『あみもの第37号』 朝マックの特別感ってある。決して高価ではないが、時間限定の庶民的幸福。春だからといって特別な出合いなんていつも無い。当たり

          蒼薔薇まとめ その1