蒼薔薇まとめ その2

垂直に上昇をして竹とんぼ悔しがるようゆっくり落ちる/てつぞう

竹とんぼという題材が既にノスタルジックなのだが、それが落ちていく光景を見つめる視点がいい。昇るときは垂直に勢いがあり、落ちるときはゆっくりと。過ぎゆく時代を惜しむように。悔しがる、という比喩も個性的だ。


初めて聴いた部屋のたたみのささくれを、ドルフィー、いつもてのひらに思い出してしまう/しま・しましま 

8・7・5・12・9という大胆な字余り。エリック・ドルフィーの自由で大胆な旋律は定型には収まりきれないのだ。またこの歌の長さはバスクラリネットの巨体を表しているともいえよう。


若馬が駆ける強さで叩く鍵盤(キー)の痛みはペトルチアーニで知った/無 

ミシェル・ペトルチアーニは先天性疾患を持ったジャズピアニスト。小さな体ながらその演奏の迫力は群を抜く。そんな彼を31文字で詠みきってみせている。その破天荒な生涯は「若馬」であり「痛み」と言えよう。


コンビニの温めますかの問いかけにいつも心をときめかせてる/本田葵

コンビニ店員とのしずかな恋なのだろう。問いかけにときめかす心は、何故かそれ以上の関係を求めているように感じない。アイドルとは本来そういうもの。近くて遠い関係を主体はむしろ楽しんでいるかのようだ。


エアコンの風が当たってぱらぱらと捲れる手帳の二月、真白い/小俵 鱚太

予定のなき故に真白い手帳。外出が出来ないのでエアコンに当たるしかないのだ。おそらくは一月も。ぱらぱら、に乾いた心が透ける。結句の読点が、より白さを強調する。巧みな社会詠だ。

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