蒼薔薇まとめ5

モンゴルに里帰りした力士らが家族とともに二胡を奏でる/涅槃Girl 

モンゴル力士は覚悟の上とはいえ、日本の文化習慣のなかで振舞わなければならない。そこから開放された力士の脱力感が歌から伝わる。家族と共に普段は見せない笑顔で弾く二胡は、きっと明るい音色なのだろう。


コンビニの温めますかの問いかけにいつも心をときめかせてる/本田葵

コンビニ店員とのしずかな恋なのだろう。問いかけにときめかす心は、何故かそれ以上の関係を求めているように感じない。アイドルとは本来そういうもの。近くて遠い関係を主体はむしろ楽しんでいるかのようだ。


泣きながら手を振る君が豆粒になり点になりまだ遠い春/小野木のあ

別れの場面を詠んだのだと思われるが、遠のいていく視点の移りかわりがいい。結句のまだ遠い春に、この別れがもはや再会の難しいものなのだと感じ、切ない。涙が形を変えながら消えていく様にもとれる。


液晶の向こうの人も生きていて保護シートまで気泡が届く/長井めも 

今やウェブ上の世界の距離感は現実のそれを超えようとさえ感じる。そんな現実を揶揄したかのような一首。気泡という空気感がむしろその距離を隔てているという皮肉。保護シートには深い関係を拒む主体の繊細さが滲む。


大戸屋で隣の席の青年の無言のいただきますを見ていた/瑠璃紫

言葉はなくとも敬意は伝わる。その丁寧さが主体の目を惹く。作法とはそういうものだ。それは大戸屋という庶民的な食事でも同じ。ひとつの気付きを読み手に感じさせる歌だ。






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