蒼薔薇まとめ その1
鱗だと思う 壊れた人の世に震えて肌が零れるさまは/青藤木葉『あみもの37号』
鱗、それは魚の外皮。辛いとき、人は太古の記憶から海へと戻りたくなる。外見上のコンプレックスはいつしか自分を魚にすることで正常化しようとする。いやそうするしかない時もあるのだ。切ない。
朝マック食べたら今日を終わりたい そんな感じの春でよかった/街田青々『あみもの第37号』
朝マックの特別感ってある。決して高価ではないが、時間限定の庶民的幸福。春だからといって特別な出合いなんていつも無い。当たり前のような手に届く幸せでいいのだと、この歌は伝える。
鶏肉を一口大に切った手が庭のすずめに米粒をやる/鈴木智花
人間は命を頂いて生きるもの。雀に餌をあげることでさえ、角度を変えるだけで残酷にみえることもある。だからこそ主体は今を丁寧に生きようとしているのではないか?結句のさらりと詠みきるところがいい。
月曜の朝の空気は冷たくて「いってきます。」がさよならみたい/八重森さくら。『からあげさんvol.1』
冷たさは朝の空気のせいだけではない。一連の歌から母からの愛を求める主体の寂しさがあり、その比喩でもある。下の句が切ない。しかし離れられないのも現実なのだ。
唐揚げを教えてくれた母親に今なら素直に聞けただろうか/黒あげは。『からあげvol.2』
主体にとって唐揚げはお袋の味なのだろう。だからこそ今になってまた聞きたい、という気持ちになっている。素直になるのは難しい。それはもう聞けなくなった今でさえ。
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