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"カネの整理"と見積書の工夫

 以前、スケジュール作成に関する記事で、「カネ・スケ・ナイヨウ」について書きましたが、今回は「カネ」の話です。日本の広告業界では従来コミッション制(予算に対する手数料を請求する方法)での料金設定が多かったですが、90年代以降の海外エージェンシーのフィー制(作業として発生した工数をベースに人件費として請求する方法)を取り入れて、日本でも広がりつつあります。フィー制・コミッション制についてはこちらのアドタイさんの記事を参照ください。(どちらが良い悪いではなく、商慣習と案件の規模によってより適した方を選択するのだと思います。)

 とはいえ、日本においてはまだまだコミッション制の割合が高いと思います。なので今回は、コミッション制の考え方をベースにしながら、金額設定や、見積作成など、"カネの整理"について話したいと思います。

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①見積書の意味

「お前の見積書は汚ない。」
 私が1年目の時に先輩に言われた言葉です。コーヒーを溢したシミがあるわけではなく、分かりにくい見積書だということです。この時に、見積書は仕様書と同じ、と教わりました。この認識を今でも持っています。
 基本的に見積書は「誰が見ても・いくらで・何をしたのか」が明確に分かるようにするべきだと考えています。「誰が見ても」が大事です。自分とクライアント担当者だけで相互理解ができればその時は良いですが、いずれ両者が異動した時に、後任が理解できず困惑する見積書は避けるべきです。

例えば、私の場合、最低限下記の要素は入れるようにしてます。

・デザインに関して
デザインしたのは何なのか、サイズ、ページ数、新規デザインなのか流用デザインなのか、デザインに使った素材(購入したイラストや写真など)はあったのか。

・撮影に関して
ムービー(動画)かスチール(静止画写真)か。スチールのカット数。撮影日数。ロケーション。その他ヘアメイクやスタイリスト等スタッフィング。

・印刷に関して
サイズ、ページ数、部数、刷色数、発送先(ざっくりエリアと発送数)

・WEBサイト
ページ数(WEB会社の料金設定方法による。)実装した機能等

協力会社が料金算出の項目として見積書に記載した仕様はもちろん転記しますが、上記のような項目が漏れている場合は自分で付け足します。


②金額設定について

 会社によって設定方法が異なると思うので、細かい話は言えませんが、まずは過去に似たような内容の実施履歴があるかどうかを必ず確認します。全く同じ内容であれば、見積の金額も合わせなければなりません。なぜなら、クライアントは自社で保有している過去の見積書を相場として、金額が適正かどうか判断するからです。特に自分が業務を引き継いだ直後は、前任者が残した見積に一度は目を通した方が懸命です。似たような案件でも、仕様変更によって金額も変わっていることを理解してもらうためにも、①で話したような仕様の記載は必要かと思います。

 それも含め根本的に大事なことは、金額の根拠を聞かれた場合に説明が出来るようにすることです。(当たり前のことですが、出来ていない人がか多いです。)協力会社からの見積書を確認する時も同じで、過去の見積書と比べて高くなっている項目があれば、理由を確認した方が良いです。理由に納得できれば、クライアントへ理由を添えて金額アップを交渉すべきですし、納得できなければ協力会社に対して金額交渉をします。業界全体の相場的な金額設定はあれど、デザインなどのソフトな案件ほど設定が難しく、クライアントに納得してもらえる金額設定に出来るかどうかは営業の腕の見せ所だと思います。

 また、新しい試みで想定し得なかった費用が発生しそうな場合には、あらかじめ「予備費」という項目を設けることもあります。全体の金額×5%程度の金額です。仮に必要無くなったとしても、何かツールをサービスで実施すれば良いですし、予算が足りなくなった時に値引きで自分の首が締まるのを回避できます。


③値引きについて

値引きについては、2つのパターンがあると思っています。

(1)提示されていた予算に対して、希望があった全てのメニューを実施しようとすると予算に収まらないパターン。

(2)メニューは決まっているが予算が決まっておらず、提示した金額から値引きを強要されるパターン。

(1)の場合は、全メニューの金額を提示して、取捨選択してもらうしかありません。予算に収めることを優先するのか、メニューを全て実行することを優先するのか、です。(ほとんどの場合は予算優先です。)
私はどちらかと言うと、施策をより効果的・効率的にするものであれば個人的に追加したいと思ってしまうので、どうしても予算に収まらない場合は自分の利益を削って強引に進めたりします。効果と効率をカネで買う、という考え方です。会社の短期的な利益にとってはあまりよろしくないと思いますが。

(2)の方が営業にとっては辛いパターンです。値引き要求に対して過剰に不満な反応をする人がいますが、不満を口にしても何も進みません。この時にやるべきことは2つあります。
1:各パートナー会社に対して、仕様・条件を変更することで金額を予算内に収めることが可能か確認する。また、最悪どこまで金額の調整が可能か相談する。※ただしこの時に、足りなかった部分は別案件の発注で返すなど、「貸し、借り」の認識を持たないと、いずれパートナー会社から見放されます。
2:自社の利益をどれだけ削れるか、社内で調整を図る。

以上を持って、現状のメニューで物理的に可能な最低金額の提示と、それ以上の減額を求めるのであれば条件として仕様変更プランを提示する。という流れになります。それでも嫌と言われれば、他の会社への発注を提言するしかありません。

 値引きによって金額と実施内容が決まり、見積書を作成する時に、1つ注意点があります。それは見積書上、各メニューの単価を下げるのではなく、全体の合計金額から値引きをするということです。(これはクライアントによってNGとなる場合があるので注意してください。パートナー会社への値下げ要求と取られ、下請法違反として指摘される場合もあります。その場合は、精算用の見積上には"特別料金"と記載しつつ、精算用の見積とは別に、正規単価を記載&合計金額から値引きの見積を作成し、残してもらうようにします。)
ここで単価の金額をいじってしまうと、後々クライント担当者も、自分も首が締まることになります。正規の単価と仕様の詳細を明記することが大事だと思います。

最後に・・・

 代理店にいると、平然と協力会社に値下げ要求をする人が結構います。私に指導してくれた先輩は、協力会社のことを絶対に「業者」と言わない人でした。(最初の頃は誤って業者と言ってしまい、めちゃくちゃ怒られました。)営業にとってスタッフや協力会社はパートナーであり、正直代理店の営業職は彼らがいなければ何もできません。スタッフや協力会社を守る、というのも営業の役割の一つだと思います。(もちろんクライアントもパートナーなので、どちらかに寄りかかりすぎないバランスは大事だと思います。)
 協力会社への値引き相談は、本当に最後の砦だと思っています。特にフリーランスの方は、発注金額がダイレクトに生活費に繋がりますし、小さなデザイン会社は経営への影響が大きいです。むしろ母体の大きい代理店側が、協力会社を守り、なるべくお金を回してあげる工夫をするべきだと思います。そのために、常にバッファ(予備の金額)を持つ。どうしてもお金が払えないのであれば、借金にして別案件で払う形で調整すべきと考えます。

 こんなことを言うと古いと思われるかもしれませんが、金額の話に限らず、貸し借りの感覚に敏感であることはどの場面でも重要だと思います。自分は敏感な人でありたいと自戒しつつ、協力したくなるようなパートナーになるべく、精進していきたいと思います。

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