10.人を振り回す仕事の仕方

私は、とある会社の事務員として働いている。
今年で丸7年。
3○歳にして、4社目のこの会社は、
それまで3年以上、一つの会社で働いたことがない私としては、
かなり長く在籍していることになる。
業務内容は、請求書を作ったり、
報告書を作ったり事務作業メインなのだが、
たまに人手が足りない時に、
お客さんに電話する機会がある。

この日も、お客さんへの連絡業務で、
修理の約束を取り付けていた日だった。

朝10時に出社して、
パソコンを開いてメールをチェックする。
いつもと同じ1日が始まる。
メールを一通り見て、
給湯室に向かい、加湿器の水を補充しながら
ドリップコーヒーを淹れて席に戻る。
これがいつもの流れだ。

フォルダ分けされたメールを
順番に確認していく。
その中に
気になる題名の新着が目についた。

斜め向かいの席の西田さんから送られてきたメールの内容は、

今日の作業、業者が渋滞で遅れていて、20分くらい開始が遅れます。午後は休憩時間で調整するのでスケジュール通りですが、午前の方には連絡必要です。

というもの。

メールの着信は9時52分。
時計を見ると9時55分。

え?
今日の作業って10時からじゃなかったっけ?

慌ててスケジュールを確認すると、最初の作業は、
やはり10時から。

ってもう10時じゃん！

ハラハラしながらも、とにかく早くお客さんに連絡しないと、と焦る私。

午前中の訪問予定は2件。

しかも1件目のお客さんは、クレームを受けて修理をすることになった人なので絶対怒らせてはいけない。

急いでお客さんに電話をかけ、
５コール目でご主人に繋がった。
事情を説明し、
物凄い勢いで謝罪した。
思いのほか
ご主人は、いいですよ〜。
と快く受け入れてくれた。

良かった〜。
クレームの事もあり、かなりヒヤヒヤした私は、出社後たった10分で顔から、脇から、
じわじわと汗が吹き出していた。

よーし、2件目に電話しなくちゃ。

電話をかけるも、5回、6回とコール音が続く。7回目で留守電に切り替わった。

私、〇〇株式会社の〇〇と申しますが、、、

遅れる旨をメッセージに残し、
急いでメールでも同じ内容をメールで送った。

ふぅっっ。。。

朝だけで、半日分のエネルギーを消費した気分だ。

連絡業務のグループリーダー、
智子さんが私の席まで来て、

今朝の遅れるっていうテナント連絡、
私も手伝いますよ！
わざわざ言いに来てくれた。

ありがとうございます！
ちょうど今、連絡終わりました！

そうなんだ！

連絡とれてよかった〜！

2人で一安心したところだった。

ひと段落してから、斜め向かいの西田さんがのんびりとした口調で話しかけてきた。

さっき、メール送ったんですけど〜、

あ、朝の遅れる連絡ですか?
お客さんに電話し終りました！

あと別件で、今日予定が悪いと言う人からも連絡きたんですが、どうしましょう？

え?別で？
20日に、残りをやるから
そこに組み込めるか、業者に確認してみるよ。

はい、お願いします！

そんなやりとりをした10分後、
西田さんが思いもよらないことを言ってきた。

今日の作業なくなっちゃいました〜。

え？
どういうことですか?

なんか、業者が持っていった型番が違ったらしく、取り寄せが必要で、今日の作業できないみたいで〜、
納期もかかるみたい。
20日も中止になりました〜。
納期がわかってから、
改めてアポイントを取り直します。
とりあえず、今日やるはずだったところにキャンセルの電話してくださ〜い。

えー！
そんな事ある？

今回の日程調整だって、
6件を1日にまとめるの大変だったのに。

簡単に言うけどさあ、
またそれぞれに電話して、
日程調整するの私なんだけど。

一気に気が重くなった私は、
たまらず智子さんの所へ事情を話に言った。

智子さん、ちょっと聞いてもらっていいですか。
さっきの遅れる連絡あったじゃないですか、
あれ今日中止になったんですよ！
なんか、業者が持って行った網戸の型番、間違えたとかで。
そんなことあります?

私、さっき遅れますって連絡したばっかりなのに、、、

なんて言って連絡したらいいんですかね。
しかも一軒目、クレームのお客さんなんですよ。それで怒られたら、まじ嫌なんですけど。

えっ？
なにそれ?

しかも、私、西田さんに
それって一軒目の人は事情知ってるんですか?

て聞いたら、わかんないって言うんですよ。
この展開で、わかんないってあります?

それくらい業者に聞いてくれてもいいですよね。

私、一軒目のお客さんに
今、業者が来ましたか?
型番間違えたらしいんですけど。
って聞くってことですかね。。。

それはないでしょうー！
それひどくない？
私が西田さんに話するよ！

思いもよらぬ展開に困惑する私。

智子さんは西田さんの席までスタスタ歩いて行き、

西田さん、今日の遅れる連絡、
あの作業中止になったんですか?

そうなのよ〜。

一軒目のお客さんには伝わっているんですか?

うーん、わかんない。

私たち電話するんで、
そこは確認してもらわないと困るんです。

あと、業者さんの連絡先も聞いといてもらえますか。何かあったときにこちらから連絡した方がスムーズだと思うので。

優しい口調ながら、
強い意志を感じる智子さんに圧倒されて、
西田さんが慌てて電話をかけだした。

お世話になっております〜。
〇〇株式会社の西田です〜。
はい、はい、
ええ、
今日の業者さんて、一軒目にご訪問されたかってご存知でしょうか？

どうやら、オーナーさんに電話をかけているようだ。

あっそうですか、はい、はい。
最初に305、
次に302に行ったんですね。
はい、はい、
わかりました〜。

一通り話をして西田さんは電話を切った。


最初に305で次に302？
それ、順番逆なんだけど。。。

何もかもがグダグダで、どこから突っ込んでいいやらわからない。

西田さんは、オーナーさんに、
業者が訪問する時間を
間違えて伝えてしまっていたらしい。
いつもは私たちの会社が直接修理の業者を手配するので、連絡もスムーズに行くのだが、
今日の案件は、オーナーさんが窓口になって業者を手配しているので、そのまま間違った時間が伝えられてしまっているようだ。
おまけに業者の連絡先はオーナーさんしか知らないと言う。

そもそも、一軒目の302がクレームだから、その人に合わせてスケジュールを調整しましょう。
と指示を出してきたのは西田さんではないか。

それなのに、肝心の時間を伝え間違えるってどういうこと、、、。

気まずい沈黙が流れる中、
西田さんの電話に着信が。

はい、はい
そうですか！
わかりました。
17時と、19時ですね。
承知しました〜。

電話を切ると西田さんは、

結局、今日の作業やることになったみたいで、
305は17時、
302は19時に行くみたい。
20日も予定通り行けるって。

すかさず私は、

今日都合が悪くなった101はどうしますか?

と、聞くと

20日の13時以降か、ダメなら今日の18時で聞いてみて〜。

と西田さん。

すぐさま私は101のお客さんに電話をかける。

20日の13時?
いいですよ〜。

101の人も、とっても協力的で
大変に思われた日程調整は瞬時に終了した。

智子さんと顔を見合わせ、
そそくさと席に着く私たち。

私はすぐさま社内メールで、

嫌な役をしていただいて、すみません！
業者の連絡先を聞いておくと言うのは、
さすがです！勉強になりました！
それにしても、トホホでしたね。

と智子さんにメッセージ送った。

ほんと、何だったんだろう笑
ちゃんと段取りしてほしいよね。
時間の伝え方だけど、Excelだとコピペできなくて、多分直接入力してオーナーに伝え間違えちゃったみたいだから、これからはベタ打ちにしようか。

改善案もすぐさま飛んできた。
さすが智子さん。
私の全く気づかないところまで目が行く。

助けてもらったお礼を伝えて、
ようやく普段の業務に戻ることができた。

時計を見ると、11時27分。

なんだよ〜！！！
この1時間半なんだったんだよ〜！

なんならゆっくりお茶でも飲めたじゃねーか！
この時間ドロボー！！
謝罪しろよ、謝罪！

てか、西田さーん！！！

いろいろもっと気にしてくれよぉ。
こっちは必要以上に気にして、
気疲れしてるのにさぁ、
えへへ、じゃないんだよ。
もうほんと。
外見が素敵じゃなかったら
ブチ切れてるとこだよ！

私は心の中で悪口が溢れ出て、
一向に止まらなかった。

西田さんは、
身長180センチの超小顔で
50歳を超えているけれど、
元モデルのだけあって
スタイリッシュにスーツを着こなし、
おばさまからも人気が高い
イケメン社員の1人だ。

私は密かに、西田さんの顔を
同じ身長、スタイルの芸能人にはめ変えて、

実物はこんなのか♡
ヤバいな♡

とエアー長瀬やエアーGACKTを楽しんでいる。

そんな西田さん。
見た目はとっても素敵だけど、
よく言えばおおらか、
悪く言うと超適当なのだ。

今回もそのおおらかさと適当さがほどよくミックスされ、
大惨事になりかけるところだった。

今までの私だったら、イライラ沸点はすでに超えていたけども、

最近の旦那へのイライラで私のキャパは
少し広がったようだ。

いいのか悪いのか。

世の中の5人に1人はHSPだと言うけれど、
割合は少ないとは言え、
西田さん、今までそういう人と出会ったことないのかな。

こっちはこんなに気にしてることなんか、
知らないんだろうなぁ。

人に迷惑をかけても気にならない方が幸せなのか、
誰にも褒めてもらえないけど、気にする方が幸せなのか。

答えはわからないけど、
私と西田さん、はんぶんこできたらいいのにな。
私はそう思いながら、また仕事に取り掛かった。