地域コミュニティの維持発展のために宗教・自治会ができることと資金循環について
京都には多数の寺社仏閣、祇園祭に代表される大規模なお祭り、地域に根付いた地蔵盆など、宗教的なものと地域コミュニティが一体となり生まれた、有形無形のものが多数あります。
宗教と地域の関わり・寄付文化について、宗教・地域・学術の観点からの考えと、これからあるべき姿について聞きました。
<宗教・学術>
山口洋典(立命館大学共通教育推進機構 教授・元宗教法人應典院(浄土宗大蓮寺塔頭) 主幹)
<地域>
長屋博久(有限会社村田堂 代表取締役・元京都市PTA連絡協議会会長)
<宗教>
田辺尊史(宗教法人 西念寺 副住職)
<コーディネーター>
海老原幸子:公益財団法人京都地域創造基金 事務局次長
学術的観点からみた、宗教と地域について(山口洋典)
専門である社会心理学の観点から、これからの街・文化において多くの人の支えが必要であることをお話します。
10年間働いた大阪の「應典院(おうてんいん)」では、演劇・講演会・ワークショップなど地域に「場を開く」活動をしてきました。場が開かれ、意味が見出されることで、1人1人がお寺に集まるというより、お寺が拠点になって、新たな取り組みが生まれるセンターになりました。
應典院は立派な建物で、私のような外部の人間を雇えるということは「お金があるんでしょう、アイデアがある人がたくさんいるからできたんでしょう」と言われます。
しかし、そうではありません。一緒に何かをする仲間が大事です。
宗教施設の方々と、何かやってみようと思う方々。何かやってみようと思う方々はさらに2つに分かれます。お金で支える方、担い手して活動する方です。
このような話をしたことには理由があります。
宗教法人法というものがありますが、教義を広める・儀式をする、信者の人たちを救う(教化)という活動の担い手を宗教団体と定義し、それに法人格を与えたものが「宗教法人」です。
宗教法人法は「信じる人を救う」というのが大前提ですが、宗教法人法第六条に「宗教法人は公益活動を行うことができる」と書いてあります。
この条文を巡って、いくつか議論がありました。例えば、災害支援もそうですし、年越し派遣村や子ども食堂など、宗教者が関わることが増えてきたからです。しかし、歴史的にさかのぼって見れば、例えば大阪ならホームレスをキリスト者が、地域の方と協力して生活の基盤を支える活動を行っていました。
そんな状況が2021年1月25日に変わりました。
文化庁宗務課が「宗教法人が行う社会貢献活動について」という文章を出しました。ここに以下のような記載が在ります。
いわゆる公益事業として行われている社会貢献活動も各宗教法人の判断に基づき宗教活動と整理することが可能と考えられる。
<引用元>
宗教法人が行う社会貢献活動について(情報提供)
これまで、グレーだった部分。
例えば、地域の行事のためにお寺の境内、神社の一部を使う、これらは宗教行事ではないと思いますが、この時に寄付をすることが地域を支えるために重要な役割を担っているということが認められました。
このことで、今後宗教法人および宗教施設が、地域における役割をより丁寧に考え、実践していかないといけない転換点と位置付けられると考えます。
具体的な事例については、稲場圭信(いなば けいしん)さんのnoteを是非読んでください。
分かりにくいなど思う方もいるかと思いますが、馴染みのある経験に引き付けて考えてもらえたらと思います。
京都には「祇園祭ごみゼロ大作戦」という活動があります。正確には八坂神社のお祭りを多くの人が支えている訳ですよね。多分宗教と関係ありますが、参加者に宗教行事を支援している意識はないはずです。
それぞれが宗教施設に貢献するだけではなくて、自分たちの地域社会をどう支えていくのか多くの人の知恵が必要です。
さらに、宗教施設の担い手には発想の転換が求められているということでもあります。これまでは社会のため「for」でしたが、これからは一緒にやろうという「with」の発想で、場所を開く、場所を作って行くことが、宗教者には求められています。
お祭りと地域について(長屋博久)
京都で学生服屋を営みながら、学校運営協議会の役員や自治連合会の理事をしています。
宗教は、僕ら一般人にとっては難しいと感じます。けれど昔の生活を振り返れば、小学生の頃は神社のお祭りが楽しみでした。
祇園祭が始まると夏が始まり、五山の送り火で夏が終わる、そんな感覚です。
その1週間後には「お地蔵さん」という行事があります。京都市内の町内には町内に1つお地蔵さんが祭ってあり、1年に1回地域の人たち・子どもたちが集まって、遊んだりお参りをしたりする楽しいものです。
その後秋のお祭りがあり、初詣があり、節分がある。こう1年の流れをみてみると、神社やお寺の行事と僕たちの生活は密着しているなと感じます。
では、お祭りと宗教を意識しているのかと問われたら、あまり意識していません。
京都の学校では、教育活動の一環としてお祭りを学びます。お祭りを宗教行事と捉えるのではなくひとつの文化と捉えて、街全体で守る心意気がすごいと感じました。
民艶脈々と引き継がれたこの文化をどうやって引き継いでいくのか。義務ではなく、自分たちの生活をよくするため、将来への思いも込めてやっていくことだと思っています。
お寺の修繕と地域との関わりについて(田辺尊史)
西念寺は地域の中でただひとつのお寺です。つまり、地域のほとんどが檀家さんになります。奈良時代からの歴史があり、1706年に本堂が建ちました。
明治38年に居住区を作るために本堂の増床、昭和51年に耐震補強工事を行い、平成30~31年に本堂の修復を行いました。前年まで、アライグマなど害獣が屋根裏に入ったりしていたずらをし、被害が及んできたため修復をすることになったんです。
修復にあたってはまず、檀家さんの了解を得てからお寺に手を入れる事になります。しかし、修復には多額の費用がかかります。これまで積み立ててきた基本財源を取り崩し、檀家さんにご喜捨いただき、檀家さんと一緒に検討しながら進めました。
檀家さんのご喜捨以外にも、いろいろな活動をしました。本堂が暫定登録文化財に指定されたので、文化財保護基金を申請。また、名入れした瓦の志納を呼びかけたところ、口コミが広がり修復基金の一端を担っていただきました。
お寺は宗教儀式をするだけの場所ではありません。戦後の西念寺は、盆踊りをしたり、料理勉強会をしたり、保育所や学び舎のようなや役割も担っていました。
現在は里山保全や、養護施設の課外授業や大学生の環境学習を受け入れをして、地域に開いています。
このように、お経を唱えるだけでない、お寺の公益性というものを、地域と一緒に考えて行くとよいのではないかと思っています。
今回、暫定登録文化財に指定していただいたことで、本堂を自分たちだけで守るのではなく、「みんなで守る」そういう気持ちを感じられたことが一番よかったです。
これまで、檀家がお寺を守るというような習慣があったと思いますが、檀家さんは宗教的なことを支援する、一般の方は歴史的建造物や行事を支援すると考えることで、視野が広がるのではないでしょうか。
寄付をいただくための創意工夫と、寄付への関心
田辺 :
應典院で寄付を募る際にエッセンスを入れましたか?
山口 :
寄付は正直なところ、集めにくかったです。どちらかといえば「料金」として払う方が、整理しやすいからです。
お金を集めようと思って集めて、何か成功するというのは難しいと実感しました。
なので「應典院寺町倶楽部」というメンバーシップ制のサポーターを募りました。
メンバーであり、サポーターである人がファンになってもらい、その人たちに満足してもらえて期待を寄せられて、担い手としてこんなことをしたいという声に応えていける。事務局な役割が重要と考えながら、場を一緒に作ってきました。
寄付はなかなか集まらなかったですが、担い手としての仲間が集まったからこそ呼びかけて、呼びかけに答えていくパートナーシップの関係が深まっていくことが應典院の醍醐味だったと思います。
田辺 :
ファンになってもらうため、具体的に何をしましたか?
山口 :
ファンになるということは、期待を寄せてもらえているということです。ダメなときにはダメだと言ってもらえるかどうか、ですよね。
お金をいただいた方に対する説明責任だけではなく、「あの人の笑顔はみられるんだろうか」と、一人ひとりの顔が見える関係作りをしてきました。
長屋 :
西念寺の際、檀家さんに寄付の増額は言いづらかったのでしょうか?
田辺 :
檀家さんも高齢化してきて、多額の工事費の全てを檀家さんに負担していただくのは心苦しいです。我々も何か協力したいですし、工事費を檀家の分母で割った金額をお願いしますというのは違うなと思いました。
「文化財に自分の名前を載せてみませんか」という切り口で、檀家以外の方も参加できるきっかけ作りをしたかったのもありましたね。
長屋 :
日々のお付き合いがあるからみんなで盛り上げようという機運を作っていかないと、難しいですよね。今の日本の寄付は見返りを求めてる部分もありますが、寄付に関して少しずつ興味は持っていただいているのかなと。
社会として、神社やお寺の寄付に対して税制優遇のような仕組みを作っていければ、興味を示してくれる人は増えるだろうと思います。
田辺 :
我々は喜捨いただいた方に、最終的に饅頭瓦を文鎮に見立てた物を記念品としてお返しさせていただきました。
クラウドファンディングやふるさと納税は、品物を目当てにすることが多いですよね。けれど我々も募集の仕方を勉強したほうがいいように思いますね。
長屋 :
檀家や氏子のようなコアな付き合いの方々と、一般の方に広くお願いする方法は変えていかなければと思います。
僕は先人が引き継いできたものを今経験させてもらっています。そういうものをみんなが感じながら神社やお寺を盛り上げ、地域が盛り上がっていく。神社や寺はその地域の核、拠り所だと思っていて流れをつないでいくことが大切だと思います。
地蔵盆とか町内の行事をすると、みんな集まってくるんですよね。そこで会話ができて、地域のセーフティネットのようにつながる役割を持っています。お寺や神社は地域と共存してほしいですね。
田辺 :
檀家じゃない人の入りにくさ、その地域だからこその関わりやすさ、視点を変えることで入りやすくなるのかもしれませんね。
山口 :
「喜捨」とは喜んで捨てると書きます。「喜」に思いが必要なんですよね。脈々と続く歴史の1ページだと実感があれば、見返りではなくて未来への橋渡しだと分かります。出すお金の比較基準を自分に引き付けて考えてしまうと、短い時間軸だけにとどまってしまう。
歴史的に長い蓄積の中で、辛うじて1年単位のバトンリレーという形で続いてきたものが、「これ1年ぐらい止めてもいけるよね」とコロナで思ってしまったとしたら……。
地域を支えて来た「無自覚な地域貢献」の在り方を揺るがしている気がいています。
見返りに対するささやかな危機感と合わせて、もう一度立ち止まって考える重要な時期なのかなと思います。
地域との関係づくり
海老原:
地域との関係作りは、これからどのようにやっていけばよいでしょうか。
田辺 :
Win-Winな関係を持ちながら環境教育としての受け入れの場を作ることで、いろんな人に知ってもらえたらと思っています。
山口 :
してほしいと言える信頼関係を自ら開けるかどうか。「弱さ」はなかなか開けないんです。
弱さの公開から始まる関係が、地域社会の中で支え合いの出発点です。マイナスからスタートすることで、お互いに「これならできる」とお世話をする人が出てくる。
マイナスと言いつつゼロだった。そこから始まる丁寧な働き方・暮らし方・人間関係の作り方、助けてといえるだけのものを表現できる空間をどうやって開くか。
おそらく、お寺・神社が何かをするっていうことだけを考えずに、まずは集える場を作ることからはじめられるのではないでしょうか。
そして、じゃあ一緒に何かやろう、お供として一緒について行く仲間が広がっていけばよいなと思います。
きっとそこでは知恵を携える仲間、共同体が生まれていくでしょう。長い時間をかけて、それが自分にどう返ってくるかではなく、未来へのバトンリレーとして支え合う文化が広がっていけばよいなと思います。
長屋 :
求めるものは地域によって違うと思いますが、お寺なり神社なりの役割が過去にはあったはずです。それが時代にとともに薄れているかもしれませんし、忘れているのかもしれません。
原点に戻り地域の方々と膝を合わせ役割を再認識して、コアな人たちにとってなくてはならないものにまずはしていかないといけない。
また、情報を発信しいろんな人にファンになってもらって、なくてはならない存在になっていってほしいと思います。
田辺 :
山口さんもおっしゃたように、forからwithが大事ですね。教義のつながりと、ファンとしてのつながりの両輪で進むべきで、その道は間違っていなかったと再確認できました。
おわりに
筆者は大学時代の4年間(1998年〜2002年)京都に住んでいました。
「地蔵盆」という京都独特の文化に最初驚きましたが、「地域の核」になっていることは伝わりましたし、守っていくべきものなのだろうと感じます。
しかし、情報化社会となり価値観が多様化した現代において、「昔から続いている」、「大切なこと」というだけでは理解されません。理解されなければ、寄付なども減り、施設などを維持することも難しくなります。
寄付を募る難しさは、筆者自身が一般社団法人を経営するようになって強く実感します。
・いいことをしていたとしても、伝わらないと意味が無い
・発信を強めすぎると、自己顕示欲のため、お金集めのためと言われる
対談の中では「forからwith」を表現していましたが、与えるのではなく、まずは開く。そして、関わる人を増やして行く中で、一緒に支え合うことが大切なのだろうと感じました。
動画
【ライター】
戸井 健吾
岡山県倉敷市出身。
大学卒業後、IT業界に就職し、2度の転職を経て、ピープルソフトウェア株式会社で10年間、富士通・ベネッセ向けのシステム開発に携わる。
その傍ら、副業として月間100万回読まれる個人ブログ「アナザーディメンション」を運営。2018年に独立し、子育てメインの生活にシフトする。
現在は、一般社団法人はれとこ代表理事を勤め、「倉敷とことこ」、「備後とことこ」など地域メディア運営にも力をいれている。
※本企画は公益財団法人 トヨタ財団の助成を受けて実施しております。
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