脳科学的にみた思春期の意味
よく大学での学生アンケートに「テレビで見たメンタリスト(相手の目線や口調から、嘘や真意を見抜く読心術のようなもの)にあこがれて心理学を勉強したいと思いました」と書かれているものを目にしました。しかし、実際は、大学でそのようなものを教えているところはほとんどありません。一方で、特に若い人たちにとって、それほどインパクトのあるものだったのだと改めて感じたものです。
そもそも、どうしてそういった読心術のようなものが、ほとんどの大学で教えられていないのでしょうか。それは、即時的かつ直接的に人類にどのように役立つかという視点でみたときに、役立つ領域がほとんどないということかもしれません。
それにも関わらず、多くの特に若い人たちがそこまで惹かれたのにも、何か理由があると考えられます。
相手の心を読むということは、読まれる相手としてはまるで心を丸裸にされるようで少し怖いものです。しかし、読み手としては、相手の驚きと動揺を手に入れ征服した気持ちになり、また取り巻くギャラリーの驚きと感嘆の声できっと優越感に浸ることができでしょう。そして、その征服感と優越感がまた、その行為を止められなくさせると思われます。
そういった征服感や優越感を掻き立てているものの根底には、劣等感があると考えられます。特に劣等感が強い人にとって、征服感や優越感は一時的にドーパミンを放出させ、時に依存性を起こさせるほど快感に浸ることができるでしょう。
特に10代後半~20代の頃は、まだ社会的に自信が持てず他者にどのように見られるかと自意識過剰になったり、それをカバーするために去勢をはったりしてしまいがちです。またそういった理由から、実際、不安症(不安神経症)に陥るケースも多くみられます。つまり、承認要求を満たそうとするがあまり、気持ちが不安定になりやすいのです。
概ね、脳は後ろから前に発達するため、前頭葉の部分は最後に成熟を遂げます。前頭葉は、「知性の座」とも呼ばれ、理性などを司ります。つまり、人は前頭葉が成熟した時、落ち着きを持ち、感情を抑え、冷静な判断をしやすくなるのです。それまでは、不安定な気持ちになりやすく時に感情的になってしまうことも、脳科学的な発達段階としてはある程度は仕方のないこととも考えられます。
学説や個人によってばらつきはあるものの、25歳から30歳にかけてようやく脳は成熟を迎えるといわれます。つまり、概ね20代後半までは脳科学的には思春期と考えられます。したがって、その時期に不安になったり去勢をはったりするのも、ある意味自然なことともいえるでしょう。
しかし、思春期は悪いことばかりではありません。思春期は、成熟し落ち着いた大人が考えないような、冒険的で突飛な発想をもたらすとも考えられます。つまり、その時期の冒険心や野心が、人類を大きく飛躍させる原動力になるともいえます。
一見、不合理にも思える思春期の反抗的な態度や去勢ですが、人類の保守性を打ち破る起爆剤と考えると、必要なものなのかもしれません。
ところでこの話に対して、「20代過ぎても、承認欲求が強く、去勢をはったり感情的になってマウンティングしてくる人はいますよ」というご意見がありました。脳の成熟期が20代というのはあくまで平均であり、多少の個人差はあります。人によっては、例えば中年になっても前頭葉の発達が十分でなく、感情的になってしまうということもありうることです。また、一般に老化は脳の前から後ろに進みます。つまり老化により、前頭葉の機能が衰え、理性的な心を失い感情のままに言いたいことを言ってしまうということもあります。では、少しでも早く成熟した脳にしてその状態を長く保つ方法はあるのでしょうか。それに対する回答としては、方法はあることはあります。ただし少なくとも、本人の自発的なやる気が必要です。その方法については、また後日お伝えしたいと思います。
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