「案ずるより生むが易し」されど「不安がぬぐえない」のは脳に操られているから!?


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あなたはよく友人や部下や家族などの愚痴を聞くことがありますか?そんな時、どのように応えてあげたらよいか何と対応したらよいかと迷うこともありますよね。今回は、そのような悩める人に対応する際、念頭に置いておくと役に立つかもしれない脳科学に基づく話をお伝えしたいと思います。

よく、「怖くて前向きになれません」という人がいます。そして、怖いと思う根拠や材料をいろいろとお話されます。しかし実は、怖いと思う気持ちは何も行動に移さないうちは増強されるばかりで、それをいつかその怖いと思う気持ちが減って動けるようになるだろうと思って先送りにしてもあまり解決につながりません。

 

「案ずるより生むが易し」ということわざがあります。これは、始める前は大変だと思いあれこれ心配をして気をもんでしまうものですが、大変だと思っていたものも実際にやってみた方が気が楽になるものですし、また案外たやすくできることもあるもの、ということです。つまり、あれこれ心配している時間は無駄なことが多い、ということでもあるかと思います。

 

興味深いことに、2012年のLiat Levitaらの脳の研究でこれに共通した結果が示されています。行動しないと嫌な刺激を避けられない条件と、静かにしていれば嫌な刺激を避けられる条件において、脳の側坐核という快を感じる部位の脳血流の活性状態を調べました。すると、前者の条件下では側坐核の血流量が増え、後者では減ったというのです。つまり、脳は、嫌な刺激を積極的に動いて避けようとしたことによって楽しいと感じたのです。一方、何もしないでひっそりと行動するのを控えている状況においては、より不安や不快感を感じていたと考えられます。それは、「やらないで後悔するより、やって後悔した方がよい」という言葉にも表されているかもしれませんね。

 

また、これはゲームで考えるとより理解しやすいかもしれません。例えば、人気のゲームの一つに、敵みかたに分かれて戦争ごっこをする、いわゆるサバイバルゲームがあります。これは、敵の攻撃をうまく回避しつつ戦うことで、興奮と楽しさを感じるというものです。このことから、人は怖いのは嫌といいつつも、スリルという刺激やそれを乗り越えたときの充足感を好む生き物であることがわかります。

 

一方、不安を感じやすい性格の人において、感情をつかさどる扁桃体が大きくなっていたという研究結果が、2018年にVivien Güntherらによって示されました。しかし、それはすでに他の研究結果からも示されてきたので、さほど目新しいものではありません。この研究でむしろ興味深いのは、その不安を感じやすい人たちは、報酬系と呼ばれるドーパミン神経系回路と呼ばれる尾状核・被殻といった線条体や側坐核の量が増していたということです。それはどういうことを表しているのでしょうか。

 

よく人は「早く不幸な出来事は忘れて前向きになり、幸せになりたい」と言いつつも、過去の嫌な出来事や未来の不安について永遠と話し続けることがあります。もちろん、ある程度不幸な出来事や不安を話すことでカタルシス、つまりストレス解消となることもあります。しかし時に人は、前向きな方向性が示され、そちらに行くことでもっと幸せになれることが分かっていても、不幸な出来事や不安を話し続ける、つまり嫌悪刺激を反芻(はんすう:繰り返し味わうこと)しようとするのです。これは一見矛盾した行為のように思われます。しかし、上記の脳のシステムを鑑みると、その反芻が実は快刺激にもなっているということが考えられるのです。実際、2008年のR.C.R. Martinez らの研究により、嫌な出来事を表現することで、側坐核の報酬回路が働いていることがわかりました。

つまり、愚痴を話し続ける人に「そんなに嫌なことなら、いっそのことそんなことを考えること自体をやめたらいいのに」と言うと、その無益さに気づく可能性がある一方で、(話す本人は気付かない無意識からくる感情でしょうが)楽しみを奪われた不快さから「理解してくれない」と怒りを感じる可能性もあるということです。

近しい関係であればあるほど、愚痴を聞くのに疲れて、ついそのように言ってしまうこともあるかもしれませんね。しかし、大切な人の怒りを買わないためにも、慎重に対応するのが得策かもしれません。


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