見出し画像

『未来を実装する』で、社会を開発する(前編)

「シーズか、ニーズか」「プロダクトアウトか、マーケットインか」

新規事業に携わっていると、いつものように議題になるテーマです。テクノロジーのイノベーションは会社の中に閉じた状態で、育み続け、発明できる取り組みのため、かつては『オープンイノベーション』の旗を掲げ、まずは社会に開いていこうという取り組みが盛んになりました。

本書では、さらに一歩踏み込みます。

スライド2

『社会を変える』というと大層なことのように感じますが、スタートアップや企業だけがその担い手となるわけではありません。

テクノロジーの社会実装とは、社会との共同作業であり、決して実装する主体となる人たちだけの営為ではありません。社会との対話や共同作業を通して、はじめて実現していくものです。(p.41)


電気は、何故なかなか流行らなかったのか

では、テクノロジーが社会実装されるには、どのようなことが必要になるのでしょうか?本書の中から『電気の社会実装』を取り上げます

科学者達による電気の性質の解明は、第二次産業革命以前、1800年代前半から始まっています。(中略)その後、電気が本格的に産業に応用され始めたのは1880年代になってからです。(中略)しかしそれから20年後、1900年の時点でも電気モーターで動くアメリカの工場は5%以下にとどまっていました。(p.57)

スライド3

当時の機械工場の動力源の主役は『大型蒸気エンジン』でした。蒸気エンジンを工場設計の中心に据え、ベルトですべての機械に動力を伝え、再起動が大変なので継続的に運転し続け、電灯もないため稼働は昼のみでした。

では、電気に変えるとどうなるか。単純に蒸気エンジンを置き換えて、大型の電気モーターを導入しても効果を発揮しません。小型電気モーターを複数台設置することで、自由に機械を配置することができるようになり、流れ作業方式の工場設計ができるようになります。稼働も必要なときにオンオフできるようになり、電灯も整備され夜も稼働できるようになりました。

電気という技術の社会実装の取り組みの中で、「配置のしやすさ」「危険性の低さ」「明るさ」「遠くで作って配電できる便利さ」といった電気の秘めたるポテンシャルが見えてきました。そしてそのポテンシャルを最大限活かすには、(蒸気機関前提の)工場の設計そのものを変えていかなければならなかったのです。電気という新たな技術に合わせて工場の統治の在り方を変えること、さらにこれまでと異なるビジネスモデル(大量生産など)へと変化を遂げることによって、電気の真価がようやく発揮されました。(p.62)


社会に『次の電気』を届けるには?

社会実装とは何か、についてまず確認します。

社会実装という言葉を「社会の多くの人が利用する」という段階、つまりキャズムを超えて普及する段階を指すものとして考えます。(p.70)

社会へお披露目したり、少人数による試験的な利用のフェーズを超えて、「多くの人が利用」される段階になることを『社会実装』という。個人的には、研究開発・技術開発のように『社会開発』のほうがしっくりくるように思います。(ので、タイトルで「社会を開発する」と書きました。)


では『次の電気=新たなテクノロジー』の実装に必要なことは何でしょう?

スライド4

まず「電気を提供したい」という供給者目線を脱却して「蒸気エンジンの工場にはどんな課題があるだろう」と需要者目線になることから始まります

そして「電気の工場になると、安全でクリーンで生産性も高くなる」「電気式の工場にするには、送電網を引っ張ってきて、工場設計を見直して。。」という理想と道筋を示す必要があります。工場の人は「電気に感電したら危ないのでは?」という不安や「夜まで働かせて良いのか?」という倫理的な懸念も湧いてくるため、リスクへの対応も必須ですし、「どんな工場設計にして、どんな工場運営をしようか」や安全に使うための技能者や資格保有者を増やしていく等のガバナンスも肝心です。

そこまで準備が整った上で、工場の人たちから「ぜひとも電気を使おう」と思ってもらえるようになれば、センスメイキング(納得)して電気は工場に実装されていきます


・・・なんとも気が遠くなる、長い道のりですね。日本だと「誰が意思決定者が明確じゃない」こともありますし、「既得権益となる人たちからの反対が強く、新しいことを始められる気がしない」という絶望を感じやすい、という境遇もあり「日本で社会実装なんて、できない」と思ってしまいがち

だからこそ本書は「じゃぁ社会実装するためには、どうしたらいいのか?」を考えつくし、多くの事例をもとに「何をすればいいのか?」を明らかにしていき、社会実装を目指す人々へエールを繰り返し送ってくれます

後編では、インパクト・リスク・ガバナンス・センスメイキングについて、一つ一つ紹介していきます。ここまで読んでくださり有難うございました!

【21/06/12】後編追加しました!



この記事が参加している募集

#読書感想文

191,671件