見出し画像

『アイデア大全』×『FORTH』前編  キプリング・エジソン・曖昧な部品

「おもしろいアイデアが浮かばない」
「そもそもアイデアをどう考えればいいか分からない」
「いろんな発想法があるのは知ってるが、どれがいいか選べない」

そんな悩みに答える(あつい)書籍が日本にはある。『アイデア大全』だ。なんと42ものアイデア発想ツールを整理して、ひとつひとつ「だれがつくったのか」「どんなときに使えばいいのか」「具体的にどう実践すのか」を解説してくれるすぐれものだ。

アイデアが必要な仕事は数多あるが、その中のひとつが企業内新規事業。

会社にとって意義ある新しい(かつ自社らしい)アイデアをつくるべく、個人の意志と行動力を発揮しつつ、顧客ニーズにマッチするか検証して、実現方法を見出して、最終的には売上利益をしっかり出せる(であろう)ビジネスプランに仕上げていく、という超高難易度業務だ。

新規事業の作り方にも数えられないほどの方法があるが、その中でも汎用的で、もっとも組織内の部署と人の関係性をしっかり考慮してくれているFORTH(フォース)イノベーションメソッドを今回は取り上げる。

FORTHイノベーションメソッドの地図

航海図のようなしゃれたマップにまとめられているので、職場に飾ってもいい感じだ。(わたしは自宅の自分の部屋にも貼っている)この地図と『アイデア大全』の教えを重ねてみる、というのがこのnoteの試みだ。

大全と地図を重ねてみる

アイデア大全の第Ⅰ部 0から1へにある19のツールから始めてみよう。

FORTHで使っている(もしくは同じ思想が埋め込まれている)ものは黄色、ほとんど関係ない(あるいは全く使わない)ものをグレーにしてみた。

アイデア大全にかいてること、めちゃくちゃFORTHで使われてる

「すごいな!!!フォース!!!!」

ビズリーチばりの大きな声を出した人

と叫びかねないくらい『アイデア大全』のツールとその教えが、FORTHメソッドには組込まれていることが(自分の中で)明らかになった。

一つ一つ解説したいところだが、ここでは3つだけ紹介したい。

1.全速前進×キプリング・メソッド

いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように、の5W1Hは、ジョセフ・ラドヤード・キップリングというイギリスの作家の『なぜなぜ物語(Just So Stories)』にある以下の詩が由来らしい。

吾輩には嘘をつかない6人の召使いがいる。
そのものたちの名前は、WhatとWhyとWhenとHowとWhereとWho。

『なぜなぜ物語(Just So Stories)』

FORTHメソッドでも、はじめにチームメンバーは5W1Hの問いで「イノベーションの使命」をつくる。「なぜわれわれは〇〇でイノベーションをつくるのか」「だれのために」「なにを」「いつ」「どこで」「どのように」といった問いかけをすることで、個人の前提認識を重ねていく。

(大全の受け売りだが)5W1Hは、思考開始のスイッチだ。このシンプルな問いかけにひとつひとつ答えていくことで、チームの意志と「この数ヶ月の期間で何を成し遂げるのか」がクリアになる。

2.観察と学び×エジソン・ノート

エジソンはノート魔。1300の発明を成し遂げた彼は、3500冊ものノートに自分のアイデアや他人のアイデア、気になった情報を書き留めていたという。

ノートには誰かに先を越された特許もあり、それを見返すたびに「なんで私が先に発明できなかったのか!」と怒り心頭。。だったかは定かではないが、「いまなら前に進めるのではないか?」と繰り返し執拗にそのノートを見返していたという。一朝一夕ではこのような知識のストックは作れない。

FORTHのフェーズ2の島『観察と学び』では、トレンドやテクノロジー調査結果やインタビューメモをチームメンバー全員で共有しあう。ひとりでエジソンに叶う知見は集まらないが、1ヶ月かけて10人が集中的に観察と学習を重ねていけば、巨人の肩からの景色を垣間見れるようになるだろう。

『10 ケプナー・トリゴーの状況把握』の「(どう解決するかよりも)解決すべき問題の発見にこそ、長い時間をかけるべきだ」という教えは、フェーズ2が1ヶ月もあることと通ずる。『14 なぜなぜ分析』は、顧客に不満やニーズを聞くだけでなく「なぜそのニーズが生じているのか(状況)」や「なぜそのニーズが解決できていないのか」といった根本原因を追求するインタビュースキルとも重なるところがある。(やっぱりすごいなFORTH!!!)

3.アイデアを出す×フィンケの曖昧な部品

『フィンケの曖昧な部品』は創造性研究の実験で生まれたビジュアル発想法。以下の部品から3つ選び、それらを組合せて面白い形を作り、それをなんらかの発明品だと考える、というものだ。

フィンケの曖昧な部品

FORTHの3つ目の島『アイデアを出す』では『観察と学び』で集めた情報と気づきと思い入れをフル活用し、数百個のアイデアを出す。そこでは「どのように問題を解決するか」をとにかくたくさんポストイットに書いていく。

その中から各自が「これは革新的だ(ぶっ飛んでいる)」というアイデアと「これは進歩的だ(実現性が高い)」を3つずつ選び、それらをかけあわせ(革新アイデア×進歩アイデア)、コンセプトをつくるのだ。

ビジュアル発想法のフィンケと、テキストを用いるFORTHは手法こそ違えど、「新奇な組合せを生み出して、それを自分で(都合よく)解釈する」という点で共通する。フィンケの実験でも、だれかが組合せた形の解釈より、自分で組合せた形を解釈したほうが創造的、という結果が出ている。

個人でじっくり分析系のツール(11,12,16,17)は、FORTHに組込まれていないが、これは「組織内でイノベーションを起こすために、チームでコンセプトをつくる必要がある」という基本思想が根底にあるからではないかと思われる。1人が孤独に発想しても、そのアイデアが生まれる過程をともに過ごせていない周囲の人たちは仲間になるのをためらってしまう。

「このコンセプトは私とあなたのアイデアから生まれた」と思える経験ができたなら、推進力あるメンバーのタッグが生まれ、組織的な創造活動をはじめる準備が整う。ますますFORTHの凄みに惚れ込みつつ、後編へ。