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読書感想7冊目:チ。ー地球の運動についてー(全8巻)/魚豊著(小学館ビッグコミックスピリッツ)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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 突然ですが、問題です。
 私たちがいるのはどこでしょう。

 地面の上。家のソファ。
 プール? 学校? 会社のデスク?
 はたまたおいしいレストラン? 図書館?

 いろんな答えがあるでしょう。そして、全部正解。
 それでは、私たちがいる場所は、どこの上にあるのでしょう。
 私たちがいる場所、それは「地球」。太陽系の惑星のひとつ。太陽系第3惑星といわれる星。
 太陽系、とは太陽を中心とした惑星系であり……と天体の学問である天文学の深い深い話になっていってしまうのでこのあたりでいったん戻しまして。
 私たちが生きる地球は、1日かけて回転しながらぐるぐると太陽の周りを回っている。他の惑星、衛星も同様で、空を見上げれば他の星々が時に大きく見えたり小さく見えたり、はたまた欠けて見える「蝕」が起こったり……
 それが当たり前で、誰も疑うことなんてありません。
 それを私たちは『地動説』と言っていますが、昔々の人々は、『地動説』を信じていませんでした。
 私たちではなく、天が回っている。私たちが立つ星、地球は宇宙の中心で、私たちの住む星のまわりを太陽や月や、空の星々が巡っているのだと、そう信じられていました。
 『天動説』、地球を中心として世界が巡ることは、そう呼ばれていました。

 その『天動説』をみんなが信じ、ほかの思想が異端とされた時代のお話。
 それが、『チ。ー地球の運動についてー』のお話の舞台です。

 天ではなく、自分たちが動いているという地動説。
 神学ではなく天文学を学びたいと言うこと。
 宗教を軽んじるようなことを口にすること。
 そういったことが異端とされ、取り締まられる世界。
 しかも一度捕まったらとんでもない拷問を受け、一度は釈放されても二度目は即処刑。
 すごい時代です。

 1巻(前期15世紀)では、1人の男と、1人の少年の、空に馳せる思いが描かれます。命を投げ捨てでも貫きたい信念。それは誰にもねじ曲げられない。強いメッセージとともに引きつけられ、この『チ。』のお話に飲み込まれます。
 自分が成し遂げるのではない。今ではなく、未来へ。いずれ、誰かが。

 そんな描写はぐっと胸をつかまれ「次!」と次巻を手が伸びてしまうわけです。

 2巻は1巻から10年後。
 代闘士(決闘の代理人)の二人と、一人の修道士。彼らが意思の継ぎ手になります。未完成だった研究を進めていくことを決めた彼らの物語は、3巻に続きます。

 3巻は「地動説」証明のために奮闘する彼らに加わる新たな仲間。
 優れた頭脳と貪欲な探究心を持つものの、性別の壁に阻まれる少女、彼らと出会うことで己の運命と「地動説」の証明に向けて、大きく動き出すことになります。

 4巻、5巻は「地動説」が新たに受け継がれる場面。
 時代の流れの中で、利と知と命とが天秤にかけられながら、それぞれの信念が浮き彫りにされながらまた時代の中へと「地動説」が流れていきます。
 このあたりでは、性別もそうだし親子の絆やお話の伏線にぞくっとしました。

 6巻、7巻はいよいよ「地動説」が日の目を見られるか……!?な展開。
 退場したかに思われたかの人物が意外な場面で現れたり、今となっては当たり前の(しかも現代技術ではちょっぴり古い)技術が現れたりと怒濤の近代様相の流れが勢いよく、楽しくてたまりません。
 1~5巻まではけっこう難しいのですが、このあたりでは勢いがあり、テンポよく、そして難しすぎる話(天文学だの宗教だの)に現代の話が紛れてくるので読みやすくもなりました。

 最終巻の8巻。
 今まで「真理」を得、知識を深め、「地動説」が明らかになろうとする一歩が拝めそう……!!!と興奮が高まる中、感じられるのは帯にもある「それでも、地球は廻ってる」につながる場面。
 1巻へループするように、「知るとは何か」の疑問が投げかけられつつ、地球は当たり前に夜が明け朝になり、なんになかったように廻っている。
 すべてがわかったようでわからなかったようで、空は高いし太陽は明るくて暑いし、夜は暗いし星は光る。
 そんな当たり前、の中で終わりを迎えます。

 結局、難しい、でも面白い!!と言うだけに終わるお話として力不足で伝えることができない限りで難しいところですが、この深さゆえに呼んでみてほしい、と思ってしまうところです。

 最後に。
 「ち」の言葉は日本語にしていろんな感じがありますが、本作中にいろんな表現で使われます。そこもすごい、と思うところ。

 公式URLはこちら↓

 さらに、個人的大好きアーティスト、amazarashiからコンセプトソング?フューチャリングソング?が2曲!公開されておりますので、聴きながら読むというのもとても乙です……
 聞けば聞くほど味がでるし深みが増す……
 アニメ化も予定されているので、本編と共に曲もとても楽しみです!
 いかん、amazarashi語りだすと話の筋が変わっちゃう……ということでほどほどで。

曲①『1.0』

 曲②『カシオピア係留所』

 お読みいただきありがとうございました~!

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