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読書感想16冊目:蟲愛づる姫君の寵愛/宮野美嘉著(小学館文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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国王は妻にされたい。

帯より

 「蟲愛づる姫君の婚姻」シリーズ第二巻。
 第一巻はこちら

【シリーズにおける注意】
 前巻ではできる限りネタバレを避けつつ(本題でありネタバレなので)感想をあげてみましたが、巻ごとの感想では前巻までの話はわかっていることとして書き連ねていきます。

 前巻では玲琳姫が斎(さい)帝国から嫁ぐところから始まり、嫁ぎ先の魁(かい)国でのあれやこれが語られました。
 ざっくり言うと、玲琳姫が姫であるのに蟲師として嫁いだ。嫁魁国の王である鍠牙は蟲病にかかっていて、玲琳姫が主治医となっている。
 玲琳姫は他人に興味はなくて人の「毒」にしか惹かれない。王様、めっちゃ嘘つき。王様の母親の夕蓮さん、特質持ち(誰にでも好かれる)で性格歪んでて愉悦至上主義者であれこれやらかす。玲琳姫の最愛の姉、大帝国斎の女帝の彩蘭さんは人のことを駒としてしか見られない、残忍で薄情で誰より賢い女神(玲琳姫談)。そんなキャラたち。
 起こった事件について、王妃の玲琳姫に毒は盛られるわ、奇病は流行るわ、黒幕はとんでもないわ、な、ほんとうにキャラがみんなぶっ飛んでいる素敵なお話です。

 素敵……?

 気を取り直して。
 当シリーズの第二巻。タイトルは「寵愛」です。
 前回が「婚姻」だったので、次はらぶらぶ~!になるのかと思いますね。
 王様と王妃様、国同士の政治のためとはいえ、婚姻により結ばれた縁であり、大きな事件も解決したので絆も深まり国をよく治め穏やかな夫婦生活になる……はずがありませんね!!!

 民は清く尊き血筋の王妃を、様々に噂する。
 天女のごとき美貌を持ち、心根は優しく周りの者たちに慕われ、王の寵愛を一身に受ける、素晴らしい妃であるーーーと。

序章より

 冒頭の文章はこう、物語調なのですよ。昔々あるところに、からのこうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ、に続きそうな!
 でも、まぁ、あれですよね。お妃様、引用の文章通りじゃないですから。
 侍女の葉歌ちゃんには「そうであったらどんなに良かったことか……!」と泣き崩れられそうです。
 そう、そんな可憐で麗しくおとなしやかな、からはほど遠い王妃こと玲琳姫は、夫である鍠牙王の部屋で「寒いから」という理由で自分の蟲たちに包まれて寝ているような女性。
 それでも王は王妃に好きだというし大事にしているし、王妃は王(の内面の毒)が好きだし王様の蟲師であるからはためにはとても穏やかに仲睦まじい様子。
 それでも、その仲睦まじく穏やかであることが、波乱の始まりになったりするのです。
 仲良いことが波乱、ってすごい字面だなぁと改めて思ったり。

 そんな序章から、お話は変わって。
 noteで読書感想文を書いててこれおんなじだよなぁという展開。
 ほら、政略結婚でうまくいくパターンって、次に出てくるのは「後宮問題」なんですよね。
 例に漏れず、このシリーズでも早速出てきます。王様に側室。
 まわりから早く世継ぎを、と言われるのも当然。しかも今回は鍠牙王は許嫁を亡くしてから長いこと正妃を迎えていなかったため、玲琳姫との婚姻数ヶ月後に「正妃を迎えるのも遅すぎた」と側室を迎えることを強く勧められます。
 勧めてくるのは羌大臣。生真面目な彼は私利私欲もなく、ただまっすぐに国のことを、王のことを考えて話をしてくるものだから鍠牙にとってはありがたいやら苦しいやら。
 そんな苦しいなか、王妃、玲琳姫は羌大臣とのやりとりの末にあっさり側室を迎えることを了承。しかも「全力を賭して庇護する」までのたまる始末。
 鍠牙にとっては不満やるかたなしな結論にいたり、結局羌大臣の娘を側室として迎えることになったのでした。
 葉歌からは責められ、しかもちまたでは男女の恋愛事情におけるおかしな事件が起きているから王様の気持ちも変わるかもしれないと忠告までしてくれます。
 それでも玲琳姫はまったく気にしない。気になるのはいつもいつでも、毒のことばかり。
 羌家のことを側近の利汪(りおう)から聞いたり、前回の事件の首謀者、夕蓮に会いに行ったり、鍠牙と許嫁の話をしたりしながら過ごすなかで、鍠牙から突然に「一緒に眠らない」宣言をされ、部屋から追い出されてしまう玲琳姫。ほら見たことかと葉歌に打ちひしがられたり。
 それでも気にしない玲琳姫が気にするのは、玲琳姫の「体」を求める蟲病に冒された鍠牙のことばかり。

 そんなこんなな中、羌大臣の娘、里里(りり)さんが側室として入宮するのですが、この姫も風変わり。
 なんとほぼ感情を表に出しません。そのくせ命令には従うという自我のなさ。さすが魁国。王妃様も変なら側室も変、といったところ。
 そんな里里姫を玲琳姫は気に入り、かまうことに決めるのでした。
 併せて新登場の占星術師、星深(せいしん)。おちゃらけた印象で玲琳姫を口説くのは、どうやら偉い人のお抱えになりたいそうで。どうせなら王宮専属になりたいと野望を口にします。
 通常であればそんな野心あふれる言動をする、怪しい人物など忌避するのでしょうが玲琳姫はあまり気にせず(ここでも!)流します。
 比較的穏やかに仲良く過ごす玲琳姫と里里姫を見て、利汪が苦言を呈し、利汪の妻である朱奈(しゅな)に礼儀作法を習うことに。
 朗らかで優しい朱奈が二人にうまく合わせてくれるおかげで授業は順調に進みますが、ここで事件が!
 巷に流行るあの不思議な出来事が、王宮に吹いた風とともに起こり始めてしまいます。

 玲琳姫の確認の結果、恋愛感情をなくす、という蟲病が蔓延していることがわかり王宮は騒然。
 前回の黒幕であった夕蓮が怪しい、とにらむ玲琳姫と鍠牙。蟲師である玲琳姫は、蟲毒との戦いに胸を躍らせ対応する……ことは、自分のことだけ見ていてほしい鍠牙に邪魔されてできず。
 なんなら鍠牙は甘やかす玲琳姫におびえすら見せて、わけがわからない状態に。
 そんな面倒ごとだらけの中、自分のものではない蟲毒に対して打ち勝ちたいという欲望だけで玲琳姫は挑むのでした。

 結末はといえば、相変わらずめんどくさい愛情のもつれ、というやつです。
 そのあたりはやはり宮野先生の描かれる深い深い、難しい「愛」なのだなぁと思うところ。
 いろんな愛の形があるものです。
 蟲師である玲琳姫と、王妃である玲琳姫が、配偶者である王にかける最後の言葉(毎回のしめくくり)もまた、独特で味わい深い。

 寵愛、はどんな意味なのか。
 知ったとき、少し背筋がぞくりとしつつ、ああやっぱり、と思わず納得してしまうのでした。

公式紹介ページはこちら

コミック版もあります(第一巻のお話ですが)

お読みいただきありがとうございました!

 第三巻はこちら


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