見出し画像

読書感想17冊目:蟲愛づる姫君の蜜月/宮野美嘉著(小学館文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

ここから本文

私、おまえの魔物でいてあげるわ。

帯より

 「蟲愛づる姫君の婚姻」シリーズ第三巻。
 第一巻はこちら(次巻よりは順にリンクがあります)

【シリーズにおける注意】
 各巻ではできる限りネタバレを避けつつ(本題でありネタバレなので)感想をあげていますが、巻ごとの感想では前巻までの話はわかっていることとして書き連ねていきます。

 婚姻、寵愛と続いて第三弾は「蜜月」。
 通常(?)の恋愛ロマンス的小説であれば、「らぶらぶな夫婦に起こる事件! しかしますます二人の愛は深まるばかり!」のような見出し、本文となるのでしょうが、このシリーズではそういうことばかりではございません。
 魁国の王、楊鍠牙(よう・こうが)に嫁いだ斎帝国の姫、李玲琳(り・れいりん)。かの姫は蟲毒をこよなく愛する蟲師なので、基本的にすべて、蟲毒に関わることばっかりです。
 そして玲琳姫は人に興味がないし、持ってもその人の「毒」が好きなものだから、彼女の基準で話が続いているとなにがなんやら煙にまかれているような感覚に。
 このシリーズの感想を連ねるうちに何度も出てくるフレーズになると思うのですが、頭がイっちゃってる(褒めてる)ヒロインのお話が格別におもしろい宮野先生がかかれるお話なので、それがたまらない魅力なのです。
 ……まぁ、そんな玲琳姫の周りにいる人物も、みんなぶっ飛んでますが。常識人は誰だゲームになりますからね。

 第一巻は婚姻と、嫁ぎ先の義母が巻き起こす事件。
 第二巻は寵愛(※通常と異なる)につながる夫婦のやりとりと、側室問題に加えて側室と義母の家(というか相変わらず義母関係)の愛憎渦巻く事件。
 ……振り返ると、義母が中心にわけわかんない事件が起きてるなと気づいてしまったのですが、主人公とその夫君である二人がもともと奇抜でおかしいので、おかしいとは気づきにくいところですね。
 そんなところも魅力です。

 そして第三巻。
 今回は玲琳姫そのものに関わる話です。満を持して、というところでしょうか。
 玲琳姫、冒頭では新しい蟲を生み出してご満悦の様子です。側室の里里姫はそんな姫の横に喜んでたたずんでいます。里里姫は「命令をくれる人」のそばにいたいので、基本的に玲琳姫のそばにいるというのが通常の構図。
 そんな姫のもとに夫である鍠牙が現れ、愛にあふれる言葉を連ねます。はたからみれば、仲睦まじい様子ですが、王が王妃に愛を尋ねると

「私がお前を愛することなど、未来永劫ありはしないわ」

 王妃は答えます。その言葉のやりとりを聞いたら周りの皆はめちゃくちゃ驚くことでしょう。なにせ、その言葉のやりとりは王が王妃に膝枕されてるところで行われているのですから!!!
 といっても、これは蟲師である玲琳姫が必要だと思って口にしているもので、二人にとって大切なやりとりだったりするわけで。
 前巻二巻にてこの形になるおさまりをみせたところで、なんとこれで金鉱がとれているからとんでもないところ。
 王妃は王を愛さない、と宣言する。これが王にとってなによりの薬。
 王は自分の嘘を見抜く王妃に愛をささやき、その愛は王妃に受け入れられない。その痛み、苦しみこそ、王が望むもの。
 王もまた、歪んでいるのですね。
 それでもまぁ、二人にとっては穏やかでよき日が続いていたわけですが。
 ある日、王妃の侍女である葉歌(ようか)が問います。
 「二人の仲はいつになったら進むのか」と。
 いつものとおりかと流す玲琳姫に対し、少々いつもとは違う様子の葉歌。
 そんな侍女は、いつものとおりお茶を差し出し、そして言いました。
「毒入りのお茶です」
 本来毒などきかない蟲師に対し、「お妃様にも効く毒」と自信満々な様子。
 いつも通りのやりとり、いつも通りの日常のはずだった。
 けれど、乙女心とお仕事として「お妃様と王様の仲の進展」を祈っていた葉歌は、魁国から姿を消してしまうのでした。

 魁国の王妃の侍女が失踪。王妃の願いを受けて王も捜索の命を下し、懸命に探すも見つからない。
 玲琳姫は気づきます。「葉歌は自分の意志で姿を消したのだ」と。
 何か事情はあれど、それならばと今度は玲琳姫は「呪いで葉歌を探す」ことに。
 探すのに呪うとは、さすが玲琳姫。
 けれどそんな彼女にさらなる障害が。
 世界の何よりも愛し、愛してくれるはずの蟲たちが、突如玲琳姫に牙をむく。驚く玲琳姫は蟲たちに呼びかけるけれど、声にも血にも反応しない。
 今まで一度もなかったこと。
 蟲が使えないならば、蟲師は蟲師ではいられないーーー。
 思わぬ出来事に玲琳姫は意識を手放してしまうのでした。

 蟲が使えなくなってしまった玲琳姫。
 葉歌が斎国との国境付近で姿を見たという情報と、蟲師でなければ姉である斎帝国の女帝、彩蘭は玲琳姫を国に連れ戻すだろうという予想の元、なんとしてでも斎国に戻ると主張する玲琳姫。
 それを止めようとする鍠牙を眠らせて、玲琳姫は斎国に旅立つ。

 斎帝国に戻った玲琳姫は自分の蟲師としての力を取り戻すこと、葉歌を探すことを姉に話します。姉であり女帝である彩蘭は、そんな玲琳姫に諦めるよう伝えますが、聞く玲琳姫ではありません。
 窮地に立たされた玲琳姫に、さらなる試練が訪れます。
 蟲病が斎国に発生。しかも輿入れ間近の姉姫が、鬼のように暴れるというもの。
 人探し、失われた力を取り戻す、併せて蟲師として病に対応。
 トラブル続きでありながら、実は大きな大きなひとつの事実がそれらすべてをつないでいる……
 玲琳姫の蟲しとしてのルーツに迫る、この一巻。
 葉歌ちゃんの事情や最強の蟲師であり師匠であり、母である胡蝶の教えが明かされたり。
 蜜月、と銘打たれたこのタイトル。はじめとおわりに交わす王と王妃の会話が、それにつながるものかもしれないと思ったり。
 ……かなり歪んでいるというか二人「らしい」という感じでもありますが。
 とりあえず、葉歌ちゃんの思惑通りにコトは動き始めた?
 というか、蜜月始まるかな!?でフィナーレなお話でした。

 さらに最後に。「外伝」と称して玲琳姫の両親のSSが収録。
 タイトルは『胡蝶の夢』。
 この二人もまた複雑な問題を抱えて未来を選んでいるのだな、という感想です。
 案外二人とも、好きだな、もう少し二人のお話も読みたいなと思ったのでした。
 少なくとも、このろくでなし!!!とは思わなくなりました(ひどい)

公式紹介ページはこちら

コミック版もあります(第一巻のお話ですが)

お読みいただきありがとうございました!

第四巻はこちら


この記事が参加している募集

#読書感想文

190,781件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?