千慶烏子『VERNISSAGE』05
あなたは妹の黒い靴下をはき、わたしはお兄さまの革のベルトをしめて、おたがいの美貌におのおのの名前を呼び合うのです。あなたは妹の黒い喪章をつけ、わたしはお兄さまの黒い腕章を結んで、おたがいの美貌にやさしい指尖をさまよわせあうのです。そうしてあなたは、お美しいあなたの美貌とうりふたつの妹の美貌にあなたの名前をお呼びになって、わたしはわたしで、わたしのお顔とうりふたつのお兄さまの美貌にわたしの名前をお呼びして、そうしてくすくすわらってひとつの吐息に縺れ合ったり、吸う息のあいまあいまに吐く息を取り違えたりもしながら、ひどくつつましやかにおたがいの名前を交換するのです。
あなたは妹の黒い靴下をはき、わたしはお兄さまの黒い喪章をつけて、おたがいの瞳におのおのの美貌をゆだねあうのです。あなたは妹の黒い呼称をおび、わたしはお兄さまの黒い名前をつけて、おたがいの美貌におのおのの名義をゆずりわたすのです。わたしはわたしでお兄さまのきよらかな胸乳にあなたの妹の潤沢な乳房を指なぶりして、あなたはあなたで妹のまるいおなかにお兄さまの陰鬱な徴表を貸し与えて、そうしておのおのの瞳のまぶしい人称の縺れのさなかに、防壁という防壁、供廊という供廊のことごとくが、まぶしく水びたしに溶け崩れてゆくのを、くすくすわらって鎧戸の向こうに遠く望見するのです。
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