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千慶烏子『VERNISSAGE』03

あなたは妹の黒い靴下をはき、わたしはお兄さまの黒い上着を着けて、おのおのの美貌に優しい吐息をさまよわせあうのです。あなたは妹の黒いリボンを解き、わたしはお兄さまの項に細い指をすべらせて、おのおのの瞳にかくされた朔の月をななめにあおあおと抱き合うのです。そうして海へとむかう鎧戸の錆びついた錠前をおとし、夜ともなれば音もなく更けてゆく蜜月の古い扉をおとして、あなたはあなたで古拙な十二音綴の詩行のもとに、わたしはわたしで重々しい六歩格の詩行のもとに、おたがいの二つとない死を奪い合っては、おなかの底まで凍えるような接吻の吐息におのおののからだを密かに委ね合うのです。

 

あなたは妹の黒い靴下をはき、わたしはお兄さまの革のベルトをしめて、おたがいのお馬をどうどうしあうのです。あなたは妹の黒いリボンをつけ、わたしはお兄さまの黒い靴紐をむすんで、いつまでも勃起してはてないおたがいのお馬をやさしくどうどうしあうのです。雨のしずくか水泡のようなつばきを吐いて勃起しているおたがいのお馬を、まるでやさしい陰茎みたいにわたしは口なぶりをしてさしあげて、あなたはあなたでやさしい指なぶりのつれづれに厳粛な口づけをほどこしてくださって、こんどのお馬はひどくひよひよいたしておりますね、などとときどき顔を見合わせてはおたがいくすくすわらうのです。


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