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「おひとりさまホテル」は夢を見る。

ネタバレを含みます ────────

一介のホテルステイ好きであるわたしにとって、「おひとりさまホテル」の存在は衝撃だった。

わたしの夢見る「ホテルで生活する」を実践している人がもう居るのか!と、原案担当のまろさんのライフスタイルにとても励まされた。
日本のどこかにある、まばゆいロケーションの素晴らしさから、館内のいいところを小さく細かく見つめて眺めることで、楽しみ癒す時間をみっけた人が居る。
そうした姿をまるごと投影している「おひとりさまホテル」2巻は、バケーションシーズンにぴったりの、プールサイドの表紙が明るく、感想としては「ああっ!もどかしい!」であり「名古屋に絶対泊まる(n回目)」です。

「おひとりさまホテル」にはホテルを作る設計会社の面々が、施設に泊まり楽しむ姿を収められている。友達とシェア暮らしの史香ふみかと、同性パートナーと暮らしている森島さんは、ご自愛と内省にホテルという場を選び、ホテルで生活するという自分に合った生活様式のために邁進している若葉は、キャリーを引いて出社。10代から日本で暮らしている韓国人のミンジは、クラシックホテル好きで、古い日本の痕を探す趣味がある。
ひとの愛着を知ると、わたしもまたそこに愛を感じてしまうのだ。

史香の生活と性格

今回は史香の生活まわりにフォーカスされたエピソードが2話。

学生の頃からなかよしの友人ナホちゃんの実家で、ふたりでシェアハウス、というか大家のナホちゃんと同居している、という立ち位置。
のちほど、共同で暮らす上での、厚意の寄りかかりを取り上げたエピソードもあって大人が本音を持つことと、どこまで自分を開いたり許したりするのかをグッと差す一言が出てきて、喰らってしまうものがあった。
順風満帆で、でもちょっとだけ物足りないと思ってる史香らしい、恋愛観も描かれている。

史香は恋愛に関して、別のひとと既婚になった元恋人、しいなくんへの雪のような思慕について、基本的に自分を止めようとも思ってないのは、正直でいいな〜と思う。既婚者ほど興味ないものはないわたしと、違う生き物だからかな。率直でうらやましい。
(星のやの宿泊でスタッフにイケメンが多いことにときめく史香に、まったく共感できなくて、それはなんかごめんと思ってしまった笑)

わたしがなんで既婚者に興味ないのかというと、婚姻関係において上手くいく努力を怠ったり、あるいは不均衡になってしまったり、やった結果を受けて幕引きできない人の2番手になりに行くのは、わざわざ不幸になるようなものだって考えがある。
既婚者自身の軸が危うい上、比較対象のいる恋愛は虚しい。着火して燃えることもあるけど、燃えれば灰になることは避けられない。
これは、ポリアモリーでなければ、不倫や浮気は絶対に誰かの合意が欠けた状態になるために、そう思っているところがある。

ポリアモリー
恋愛・性愛に対等な関係を、ひとりが複数人と持つ指向。お互いまたは、パートナー全員の合意によって関係性が成り立つ。
1対1のパートナーシップはモノガミーと呼ばれる。


他に好きなひとを作りたいなら、まず手放してからでないとむりくないかい??って、考えもあって。
このnoteでも触れているけど、大体のひとは手が2本しかないので、積載量を超えれば腕が悲鳴を上げる。そしたら手放すしかない。


史香の抱えるしいなくんへの執着を、ぺいーっと強引にひっぺがすべく新しい刺激として、ナホちゃんがマッチングアプリを入れてしまうんだけど、これが異性愛規範に異性愛者も疲れを感じてる描写で、「彼氏が居なくちゃ」「恋愛しなくちゃ」を、やや不快と感じてはいるものの、でも特別に降りる理由もなく、なんとな〜く縛られている。
そして「誰でもいいわけじゃなくて、誰がいいのかと聞かれてもまだ出会えてない」って、バスタブでのひとりごとには、ものすご〜〜〜く!共感!してしまった!!!

「(忘れる方向で)彼氏を作らなきゃ!」って、新しい人に会ってがんばってみても、そもそも能動的になれない。マッチングアプリや婚活での出会いって、「えっ?!」って口からつい出そうになる違和感ばっかり前面で受け取っちゃうんだよね、それがつらい。つらいよな、うんうん。
もちろんそれはモラハラ系センサーとして正常に働くときもあるけど、人となりの良きところにフォーカスしづらくもしているんだな。

後述する若葉のマチアプとデーティングでも、がんばっても虚しい、このつらさが描かれていて。あと、デートでその場を楽しもうとする努力を女性は「その場が終わるまで」できるだけ和やかに笑顔で済ませようとするけど、男性は「ないと思ったらすぐにでも」やめてしまったり、そもそもやらなかったりするんだな、って比較がリアリティあって、引き込まれちゃってる。
渋谷のMIYASHITA PARKから横浜へ逃避行したくなるほどの「なんだかなぁ」、わかる。わかるよ、ふーちゃん……!

森島さんに惹かれるわかちゃん、しかし。

マチアプを再開した若葉は、ホテルステイの合間をぬってデート。
しかし、特にさみしくもないのにデートをすることに、モヤモヤが募る一方で相手に求める具体的な要望を形にすると、それは同僚の森島さんの姿をしている……と、気がつく。
どういった男性を求めているかについて、若葉と史香で異なる点がある。
若葉は、自分のライフスタイルが明確で、そこに理解があるひと、もしくは否定しないひとと決めていて、史香は今こういうひとがいい!の要望が、名古屋回での自白の通り、過去一よかったひとが首尾タイであり続けている。

雑談の反応でグッとくるのいいね〜! 安心できる人に居心地の良さ感じちゃうのわかる〜! カメラロールの「お気に入り」を眺めるの超絶かわいい〜!
と、まるでわかちゃんと恋バナしているかのごとく、コマに一喜一憂しつつ話しかけてしまうのだが、森島さんは前巻で暮らしぶりについて描かれており、同性パートナーのげんちゃんと長く同居中であることが明かされている。

パートナーの家族(生まれ育ったおうち、の意味)には、あるとき自分のことを紹介してもらえず、人知れず落ち込んでしまった森島さんであるが、会社でパートナーが居ることはぼんやり明かしているものの、それについて同性であること等、カムアウトは特に考えていない。
(そのために史香は、森島さんのパートナーは女性と断定していて、ひどく失礼な人になってしまっている)
ゆえに、わかちゃんの片想い。先が見えているけれど、どう経て着地していくのかはすごく気になるところです。

ときめきのザ・タワーホテル名古屋

連載も毎月webで追っかけているのに、単行本でまた新鮮に受け取れてる。
漫画に登場するホテルは、名前だけ聞いたことある〜!ってところや、まだ知らないだけの魅力あふれた施設で、ほんっと〜〜〜に!ページをめくりながら、ずーっとワクワクしっぱなし。
そして2巻で、わたしのときめきはザ・タワーホテル名古屋に注がれた!
鉄骨と添い寝できるなんて最高じゃあん……。
と、ヨダレで部屋を濡らす。
秋に開催されているソーシャルタワーマーケットの前後に、絶対いいよなぁ。名古屋まつりもやってる時期だし、ものすごく高いと思うけど。

ソーシャルタワーマーケット
愛知県内外から出展のある大規模な蚤の市で、アートホテルのある名古屋テレビ塔を中心に、公園に飲食、インテリア小物、植物、アパレルと、さまざまな店が軒を連ね、ライブステージもあり賑やかなカルチャーフェスといった様相。
ZINE販売や写真撮影のブースもあり、わたしはアクセサリーなどハンドクラフト品が目当てで行ってました。
北欧雑貨のネットショップで超有名なscopeがリアル出店し、B品や倉庫品、ARABIA・iittalaのヴィンテージ物など放出していて、毎回たいへんな人気。
今は系列イベントを名古屋城でも開催しています。


夢のような宿泊体験をいくつも見せてくれるから、あのホテルに私も泊まりたい、このホテルも出たらいいなとか、読みながら自分のわがままを楽しんでる。漫画を読む至福に、 実際に泊まる追体験で、キャラクターとロビーですれ違ってるかもなんて掴める距離の夢想をする。
名古屋!泊まりたい!絶対に!

おひとりさまホテルを見てくれ

ホテルの景観とは、窓からの眺めのみならず、自分の眼球が見たままの切り抜きであり、額装であると思う。設えのどれもが目に留まれば、最高の景色となりうる。
うっとりするほどの光景を、いくつも紹介していくなかで、自分たちの生活の当たり前とこれからを受け止め、息を調えるために大きく息をつく場所。
夜、思い立って横浜に泊まった史香のように、身ひとつでホテルに行けるのが一泊旅の利便性の良さであるし、なんか気分転換したいなぁ、とかモヤついたりイラついたり、感情がくらっとするときに、距離を置きたいと思ったらホテルに泊まるのは、実はすごくいいことなのでは。
仕事からも家事からも雑務からも離れて、ただ、そこに居ることを楽しむのって、自分の正直さに向き合う格別の時間なんだなって思う。

webでは「くらげバンチ」で連載中。
見開きの景観がそのまま楽しめることがweb版のいいところ。
ホテル建築のこだわりや、美的センスの随意が込められている本編は、泊まりたい欲をモクモクと膨らませてくれる。
掲載ホテルについてのコラムもあって、これはほんと泊まりながら読むという味わいがあるし、マキヒロチさんの前作「いつかティファニーで朝食を」と合わせると、最強のホテルステイが実現してしまう!
人生に時間がいくらあっても足りない。だから、早くホテルに行かなくちゃ。


じぶんZINE「pooks プークス」では、わたしにまつわるボディポジティブとフェミニズム、そしてホテルステイの記録を書いています。

ボディポジティブとフェミニズム、自撮りのInstagram
https://www.instagram.com/cccbypks/
ホテルステイ記「chiccaとホテルの物語」 for Instagram
https://www.instagram.com/cccbypks.hotel/

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