見習いのプリキュア

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トロプリ秋映画感想:「不条理」に抗するために--「再生」と「継承」

はじめに ネタばれ注意。  プリキュアは女児アニメでありながら、時に「不条理」ともいえる展開がキャラクターを襲い掛かることがあります。たとえば、ハピネスチャージプリキュアの秋映画におけるつむぎちゃん。何よりも踊ることが好きな彼女は、ある日突然「未知の病」により足が動かなくなります。  ここでは「病」が「不条理」としてつむぎちゃんを襲うのですが、「病」が「不条理」たる所以はなんでしょうか。それが「治らない」からでしょうか。それが「足を動かなくする」からでしょうか。たぶんどち

    • 青木れいかという人

      はじめに スマイルプリキュア(以下、スマプリ)は前年に発生した東日本大震災の影響を受けて、一話完結が中心となる構成でした。そして、そのテーマもまた、震災の影響を感じさせるものです。  それでは、どのようなテーマだったのでしょうか。それは、32話のキュアハッピーによるキュア問答が如実に体現しているように思われます。彼女は言います、「辛いこともある、しんどいこともある『しかし』私たちは前を向いて生き『たい』」と。  打ちひしがれるような現実を前にしてもなお、自身の「願望」に従

      • sense of wonderーープリアラ13話の場合

        sense of wonder レイチェル・カーソンといえば『沈黙の春』の作者として有名ですが、彼女の作品に『センス・オブ・ワンダー』というものがあります。  sense of wonderーー「神秘さや不思議さに目をみはる感性」という和訳が当てられていますが、分かりやすく言えば「なんで? という感覚」になるでしょうか。  子どもたちに宿る「なんで?」という気持ちを失わないでほしい、というのが『センス・オブ・ワンダー』におけるレイチェル・カーソンのメッセージです。世の中に

        • 「お婆ちゃんの宝物」とは何だったのかーー『スマイルプリキュア!』27話について

          はじめに 『スマイルプリキュア!』27話はみゆきのお婆ちゃんの宝物をめぐるお話でした。  みゆきのお婆ちゃんの家にお泊まりに行くプリキュアメンバー。お婆ちゃんが住む場所は交通が不便で、家に着くまであかねがへばってしまうほどの道のりを歩かないといけません。  こんなところに住んでいて、もしお婆ちゃんの身に何かあったら大変です。だから、ここを離れて一緒に住もうよ、とみゆきはお婆ちゃんに提案します。  みゆきが言うことはもっともです。病院までどうやって行くのか、身の回りのお世

        トロプリ秋映画感想:「不条理」に抗するために--「再生」と「継承」

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        • 雑記
          1本
        • トロピカルージュ!プリキュア
          1本
        • スマイルプリキュア!
          3本
        • キラキラ☆プリキュアアラモード
          1本
        • スイートプリキュア♪
          2本
        • ヒーリングっど♥プリキュア
          1本

        記事

          オリンピック開会式の所感

          はじめに 東京オリンピックに関してはその開催の是非や、様々な不祥事が取り沙汰されており、SNSでは活発な議論が行われている。しかし、なにはともあれ 2021年7月23日、東京オリンピック開会式が執り行われた。  本稿はオリンピック開会式に対する筆者所感を記した備忘録である。  あらかじめオリンピックに対する筆者の立場を表明しておくと、筆者はそれほど強い反対派ではなく、「え~大丈夫なの~?」くらいのものである。  また、オリンピック開催地が決定されたとき、たまたまイスタン

          オリンピック開会式の所感

          黄瀬やよいの「聖なる時間」

           『スマイルプリキュア!』19話「パパ、ありがとう! やよいのたからもの」は「記憶」を巡るお話でした。  今話の主役、黄瀬やよいはパパを5歳のときに亡くしています。今ではパパとの生活のことを覚えていません。ママが「パパはあの性格でしょ」といっても、それがどんな性格か、いまいち実感を持って想起することができません。  「記憶」というのは困ったもので、どんどんなくなります。たとえば、私は2週間前の晩御飯に何を食べたか覚えていません。ラーメンを食べたような気もするし、麻婆豆腐の

          黄瀬やよいの「聖なる時間」

          ノイズ考(『スイートプリキュア♪』)ーーposition noise/sorrow in our suite/life.

          はじめに 先日、『スイートプリキュア♪』(以下、スイプリ)を完走した。充実した作品であった。  7話でひびかなにもっていかれていたが、その後も、ビートやミューズをはじめとした魅力的なキャラクターに魅了されっぱなしであった。  スイプリは「音楽」がモチーフとなった作品である。スイート(suite/組曲)、メイジャー(major/長調)、マイナー(minor/短調)など、音楽用語を冠した固有名詞が多く出てくる。  その中で、本作のラスボスであるノイズ(noise/雑音)はや

          ノイズ考(『スイートプリキュア♪』)ーーposition noise/sorrow in our suite/life.

          「ヒーリングっど♥プリキュア」42話感想ーー主体と関係

          はじめに ヒーリングっど♥プリキュア(以下、ヒープリ)42話は数々の論争を巻き起こした。ここでは、筆者が42話を視聴した感想を述べる。ここでは特にAパートに限定して感想を述べる。というのも、Bパートについてはさんざん論じられ尽くしている感があるからだ。また、Bパートの展開を踏まえて論じられた「のどか像」に対して筆者が若干の違和感を抱いており、その違和感を表明するために今一度Aパートについて感想を述べようと思ったしだいである。  なお、筆者はそのすべての論争を網羅しているわけ

          「ヒーリングっど♥プリキュア」42話感想ーー主体と関係

          「ハピネスチャージプリキュア!」が描く「虚無からの救済」ーー「永遠性」と「有限性」、そして「継承」

          はじめに 「ハピネスチャージプリキュア!」(以下、ハピチャ)は幸福追求を描いた作品であり、ラスボスであるレッドは幸福や愛を追求するゲームから決定的に疎外されたものである。先日拝読したハピチャ論でこのように指摘されていた。  筆者はこれをハピチャの作品理解として的確なものだと思う。確かに、幸福とは何か、愛とは何かという問いが本作の根底にあったことは間違いない。そして、その問いに対する答えは物語が進むにつれて、深められ、変化した。たとえば、愛乃めぐみは当初、自身が最下位になるこ

          「ハピネスチャージプリキュア!」が描く「虚無からの救済」ーー「永遠性」と「有限性」、そして「継承」

          アイデンティティを巡る物語としての「HUGっと!プリキュア」②ーー若宮アンリを中心に

          注意書き ① 長い。(6000字超え)  ② 本稿で示す若宮アンリへの批判的な意見というのはあくまでも「ポリコレを称揚する作品としてのハグプリにおける若宮アンリの物語への評価」という観点からのものとして理解されたい。  ③追記:Xジェンダーやクィアについても考慮するべきであったが、ここでは組み込むことができなかった。ひとえに筆者の勉強不足である。ゆえに、不十分な点も多々あると考えられる。ここでは、現在最も人口に膾炙する「LGBT」という呼称を用い、操作的にセクシュアル・マ

          アイデンティティを巡る物語としての「HUGっと!プリキュア」②ーー若宮アンリを中心に

          「ひびかなてーてー」という話ーー「スイートプリキュア♪」6話と7話

          はじめに 『創世記』によると、神は6日で世界を創造し、7日目には安息したという。もちろん、これはノンフィクションではなく、一つの物語である。しかし、神の全能性を端的に示す秀逸な物語であるように感じられる。  もしも現代に『創世記』と比肩する物語があるならばそれは何か。筆者は、それは「スイートプリキュア♪」であると信じて疑わない。北条響と南野奏は6話まで衝突を繰り返したが、7話にして揺るぎない目標を共有する。7話目にして視聴者である筆者の胸に安寧と秩序と平穏が訪れた。  ひ

          「ひびかなてーてー」という話ーー「スイートプリキュア♪」6話と7話

          アイデンティティを巡る物語としての「HUGっと!プリキュア」①ーー愛崎えみるを中心に

          はじめに 2018年から2019年にかけて放映された「HUGっと!プリキュア」(以下、ハグプリ)は社会問題に切り込もうとする姿勢がインターネット上で大いに話題を集めた。育児、出産、ジェンダー、LGBTなど、現実社会でも大いに注目されている題材を扱う内容は、プリキュアシリーズを女児アニメとして捉えていた人びとにとって衝撃的であったに違いない。一方で、その直截的な描写に対して「説教臭い」、「ポリコレを押し付けるな」といった批判の声も聞かれる。総じて、賛否両論という表現がふさわしい

          アイデンティティを巡る物語としての「HUGっと!プリキュア」①ーー愛崎えみるを中心に