「ひねくれ者」たちの組み合わせが生む意外な春 #カルチャーペアリング
花粉症とともに春がきた。そう考えてみると、もうかなり久しいこと春だ。
それにもかかわらず、ベッドにいがちな生活をしているから、くしゃみと鼻水以外で全く春を感じられていない。
そんなわけで、今回もまた香りと絵画の組み合わせでちょっとトリッキーに春を楽しんでみた。
絵:ちょっとびっくり、植物おじさんの春
まずは絵画。ジュゼッペ・アルチンボルドの「春」。
2017年に国立西洋美術館で行われた展覧会でのポスターになっていたから見たことがある人も多いだろう。春・夏・秋・冬と連作で作られている人物画の中の一枚だが、春は植物を寓意的に使っているのが特徴。
よく見ると、人物の全てがなんらかの花や草木でできている。頭部と襟の部分は花、衣服の部分はさまざまな葉や茎、ツタ。背景が春らしい明るい色ではなく、黒一色なのも面白い。
多くの画家が風景画や、庭に佇む人物画で春を表現するなか、この絵は見る人をあっと言わせる「ひねり」がある。人物だけで季節を表す、このひとひねり、が大好きだ。
香り:数多の「フローラル系」とは一線を画して
一方で香り。世の中、花の匂いがする香水はごまんとある。女性向けに限定すると、おそらく7割以上が何かしらの形で「〜のフローラルな香り」と表現されるだろう。
もし合わせる絵画が何らかの花に限定されたものだったら、選ぶのは楽だっただろう。ローズ、とか、カスミソウ、とか。あるいは、その中に佇む清楚な女性の絵だったりとか。
構成物が多く、なおかつ男性を描いた絵画に合わせる香りは何がいいのだろうか、と少しだけ悩んだが、ピンとくるものが一つだけあった。
男女ユニセックスで使えるBYRADOの香水「FLOWERHEAD」。もう、名前からしてぴったりである。
この香りを選んだ理由は、ただのフローラルないい香りだけでなく、だいぶ生花の匂いがするところ。それ自体は別にいいのだが、なんというか、お花だけじゃなくて、葉や茎から香る青臭さみたいなものもすごく強い。
それもそのはず、香調をみると
トップ:アンジェリカシード、リンゴンベリー、シチリアンレモン
ミドル:露に濡れたチュベローズ、ローズの花びら、
ワイルドジャスミンサンバック
ラスト:フレッシュアンバー、スウェード
となっている。
トップにいきなり「シード(種)」があり、その後も「露に濡れた」「スウェード」など独特の香りが最後まで見え隠れしながら変化していくのだ。
フローラルでありながら、ウィットにとんだ隠し味で「花だけじゃない春」を表現する。
視覚的イメージと香りの組み合わせも、このひねくれ度合いもアルチンボルドの「春」とぴったりだ。
ニュートラル、なのに多角的な春のイメージ
これまで、春といえば「可憐な花と清楚な少女」がアートの一種定番だった。ギリシャ・ローマ神話では春を司るのが女神だから、ルネサンス以降そういった流れになるのもうなずける。
(春といえば、なボッティチェリ。これには春の女神いないけど)
しかし、この組み合わせはどちらもそれを全く無視したニュートラルな「春」だ。
春って、確かに青臭くて生々しい。お花のいい香りだけじゃなくて、新芽の香りやぐんぐん伸びていく草木、春の嵐とともに落ちた葉っぱの香りなど沢山のイメージが混ざり合っている。
個人的には、こうした生気にあふれているというのは元気で素晴らしいと思う反面、エネルギーがありすぎてちょっと恐ろしさも感じたりする。春は変質者が増える、といった俗説と似たようなものだろうか。あるいは、そのまま「青春」の言葉が持つ無鉄砲さや向こう見ずの勢いと同じ危うさか。
こうして並べてみると、どちらも真っ向から「春」を表現しているのになぜかひねくれている2つ。
それはきっと、春のもつ明るく華やかなイメージを否定することなく、もう一つの生々しい青臭さを表現しているからだ。
古いようで新しい、ニュートラルなようで多角的な「春」がこのペアリングの楽しさである。
おまけ
書いている途中で、あまりにもこの2つがぴったりだから、もしかしてBYREDOはアルチンボルドにインスピレーションを受けて「FLOWERHEAD」を作ったんじゃないかと怪しくなってきた。
だってアルチンボルドの絵もお花なのは頭部だけだし。
気になってFLOWERHEADの由来を調べてみると、
インド人の母とカナダ人の父を持つブランド創立者のベン・ゴーラム(BEN GORHAM)が、インドの結婚式に参列した時に見た花嫁の姿からインスピレーションを受けた香りという。インドの一部の伝統的な結婚式では、花嫁が髪を見せることが禁じられており、花飾りで頭を覆う。ゴーラムはその色とりどりの花で飾られた姿を香りで表現した。(引用:Fashion Headline/2014.05.07)
とのことだった。花嫁さんが花飾りで頭を覆うから「FLOWERHEAD」。全然関係なかった。
でも、この背景を知ってからスパイシーさとかエキゾチックな感じが「生花っぽい」イメージになる理由なんだとますます納得した。
こんなに名前もモチーフもぴったりなのに由来が関係ないからこそ、この二つの相性の良さは奇跡的でパーフェクトだとより思う。
前回の組み合わせはこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?