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【コラム】『トイ・ストーリー』の面白さを、構造化して考えてみた

脚本スクールに通いはじめて約1年、物語術を知識として勉強するようになり、映画やドラマを観る視点も変わってきました。

具体的には、ストーリーを構造で捉えて、「この映画が面白い理由(あるいはつまらない理由)」を論理で考えようと試みる習慣がついてきました。

まだまだ粗い分析ですが、それでも過去観た映画なんかを改めて今観てみると、「なるほどそういう仕組みだったか」と新たに気づくことも増えた。

そんな中、トイ・ストーリーを最近久しぶりに観返してみたんです。

で、圧倒されました。この映画のすごさに。

なんというか、フェラーリのエンジンのような、職人による高度で精緻な技術の結晶だな、と思いました。

それで、もっとちゃんと理解したいなと思って、ストーリーの構造をぜんぶ図に落としてみることにしたんです。するとまたいろんな気づきがあった。

普段こんな面倒なことやらないですが、勢いで頑張ってみたので、ちょっとここで発表会をさせてください。

見ずらくてすみませんが、以下が構造図の全体です。


◾️美しく積み上げられた「困難の連鎖」

まず整理して見えたのが、ウッディに降りかかる「困難」の多さです。
一難去ってまた一難、それが去ってもまた一難……と、差し向けられる手数の多さたるや。ウッディ辛かっただろうな。

物語は、困難が大きく多いほどハラハラが増して面白くなる、と言われます。とはいえ、困難を増やすほどに、どうしても「作り手の都合」が強く出てしまう危険が高まる。

安易に困難を増やそうとすると、「偶然の障害」に頼りすぎたりする。
たとえば学校に急ぐ高校生に対して、工事の通行止めを起こし、回り道にヤンキーを配置し、その先に苦しむ老人もさらに置いて……と、こんなふうに。
これではあまりにもストーリー的に都合良すぎて、観ていて萎えてしまいます。(低評価映画とかはマジでこれ多い気がします)

だから、それぞれの困難がきちんとした因果関係で繋がっていることが大事。そうすることで、ストーリーのリアリティも増して、より世界にのめり込める。

その点トイ・ストーリーは、この「因果の繋がり」がものすごく綺麗。

作中での「偶然の障害」でいえば、
・新しいおもちゃのバズが現れたこと
・アンディがウッディを連れてピザプラネットに出かけたこと
・ピザプラネットにいた隣家の悪童シドに連れていかれること
多分このくらいしかなくて、あとは本当に綺麗に困難が因果関係で繋がっています。



そしてこの困難の連鎖は、前半の様々な仕込みが効果的に働いて成り立っているということも、構造化するとよく分かります。

とくに、以下2点が物語の中でとても重要な「繋ぎ目」になっている。
①バズが、自分自身がおもちゃだという自覚がないこと
②ウッディが、「おもちゃ殺し」の誤解を仲間から持たれること
これらがもしなかったらと仮定すると、いろんなところが繋がらなくなるんですよね。本当に計算しつくされてます。脱帽。


◾️シーンの見せ方の「ひと工夫」

構造図の中には書けていませんが、ひとつひとつの出来事の「見せ方」も、本当に上手だなと思います。

たとえば、バズが自分がおもちゃだと知って失意に沈むシーン。
普通であれば「偶然自分のCMを見てしまった」というだけで話を進めることもできたと思います。

しかしこの作品では、バズが一度現実を受け入れられず、2階から空を飛ぼうと試みて、その結果、飛べずに腕がもげてしまう、という演出を加えています。

この演出で、「ああ、ショックだよねぇ……」の説得力が跳ね上がる。
この「バズの失意」の見せ方ひとつとっても、本当にめちゃくちゃうまいなと思います。

この演出だけでも非常に効果的ですが、そのもげた腕が原因でウッディが仲間たちの信頼を失うという次の困難への伏線にもなっているんです。

この計算し尽くされた構成力、本当にすげえよ……


この映画を「子供向けの単純な作品」だと過小評価する人がいたら、それはもう鑑賞が浅いんじゃないか、と強く言いたい。

子供心に深く訴えかけ、大人になっても何度も観たくなる映画である理由は、この緻密なストーリー構成にこそあるのです。


ピクサーは「Story is King」という信条を持っているそうです。物語が一番偉い、という考え方。

ストーリーの面白さをとことん追求する。いくら映像が綺麗だったり、キャラが魅力的であっても、ストーリーが面白くないとダメなんだ、という強い信念。

そんな考えを持つピクサーの原点でもある映画、トイ・ストーリー。
物語に対する向き合い方の半端なさを感じます。
ここまでやるんだな、世界の第一線は。

と、もうこれ言い出したらキリがないのでこのへんにします。

鑑賞し尽くされた作品なので、みなさんいろんな意見を持っていると思います。

あくまでこれは僕個人が感じたことなので、少し理解がずれる部分あっても「そういう考えをする人もいるのね」くらいに思っていただければ幸いです。


※もっとしっかり見たい方のためにPDFも置いときますね。

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