『おまえのせいで、うつになったんじゃ、ボケ!』第20話:家に帰れない
12月15日 午後7時19分
某駅構内 ベンチ
駅員「大丈夫ですか?」
ボク「………………」
駅員「あの、大丈夫ですか?」
ボク「だ、大丈夫……です」
駅員「気分、悪いんですか?」
ボク「もう……大丈夫です」
駅員「具合悪ければ、遠慮なく、声かけてくださいね」
ボク「はい」
ボク(そろそろ移動するか……)
降りる駅がどんどん近づいてきます。
いつものようにイヤホンで音楽を聴いていたら、竹内まりやの“駅”が流れてきました。
ふと、顔を上げると、窓ガラスに映った自分と目が合いました。
今日一日でこんなにやつれてしまったのでしょうか。それとも、自分をジッと見ることが久しぶりだったので、元々それぐらいやつれていたのかもしれません。
「あ、そうだ!」
何年も前に、家族で旅行に行ったときの写真をスマホの待ち受け画面にしていたので、見比べました。
窓に映っているのは、明らかに違う自分です。
待ち受け画面では、自分も家族もとても幸せそうにbいます。
「そういえば、いつの間にか、こういう笑顔を失ってしまったのかも」
と同時に、これから起こるとても悲しいことに気がつきました。
「これから自分が家に帰ると、幸せな家族から、同じように笑顔を奪ってしまうのでは……」
ここに考えがたどり着いた途端、目が急に熱くなります。そして、その熱さを冷ますように涙が溢れてきて、流れ続けます。
これには参りました。左右に立っていた乗客が距離を取ったぐらいです。
一向に涙が止まらないので、すぐに次の駅で降り、しばらくフォームのベンチに座り、ハンカチで顔を覆いました。
駅のベンチにずっと座って、顔にハンカチを当てていると、駅員には間違いなく酔っ払いだと思われたのでしょうね。
彼に声を掛けられたことで、何かのスイッチが入り、ようやく気持ちが落ち着いてきました。
それから、何本か電車に乗るチャンスはあったのですが、乗ることはできませんでした。
「歩いて、帰るか……」
酔っ払いなのか、不審者なのか、駅員に普通じゃないと思われたことで、なんとなくその場にいることもできませんでしたので、背中を押されるように、席を立ち、ゆっくり一歩二歩と進みます。
そこから自宅までは歩いても三駅なので、家までは40~50分といったところでしょうか。
駅を出て、外に出て、スマホのナビを手がかりに歩き出します。見知らぬ街の夜、なんだか夢を見ているようです。
疲れていても、一度も立ち止まることなく、ひたすら歩きました。歩くのをやめてしまうと、病気のことやこの先のことなど考えたくもないことに頭が支配されそうで、ガムシャラにヒタムキに歩き続けました。
信号で止まりそうになれば、来た道を引き返したり、道を逸れたりして、立ち止まらないようにして進みます。とにかく歩くのだけはやめたくなかったのです。
せっかくナビが誘導してくれているのに、その案内から逸れ、なかなか家に着きません。でも、もしかしたら、いつまで経っても家に帰れないのではなく、帰りたくなかったのかもしれません。
「きっと今頃、夕飯を作り終えて、みんなでずっと待ってくれているだろうなぁ」
なかなか帰らない自分に対する苛立ちも出始めてきました。
結局、自宅に着いたのは、歩き出してから一時間以上が経過していました。
家に着くと、いつもと同じ家族がいつものように出迎えてくれました。
いつもと違うのは、ボクだけでした。
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